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神殺し  作者: かりんとう
1/1

1.神殺し

ミーンミンミンミーン




気がつくと聞こえてくる、このうるさい声を聞くともう夏か、と実感する。




毎年毎年物心つくと聞こえてくるこの声は,いつ聞こえ始めているのか気になるが、どうせまた次の年には忘れて、気づいたら聞こえてくるのだろう。




そんなたわいもないことを考えながら歩いていた。




――――――そう……確か、そうだった気がする。




病院の一人部屋のベットの上で、窓から見える大きな木に留まっているうるさい声の主を眺めながら曖昧な記憶を辿っている僕は、横にいる少女如月小夜(きさらぎさよ)の質問に答えられずにいた。




「本当に覚えてないんだね」




ベットの脇に座りながら僕の方を見ている彼女は僕の幼馴染だ。あの事件があってから毎日僕の病室に来る。たまに事件の日のことを聞いてくるが僕はどうしても思い出せない。




ピッ




〈あの通り魔事件から一年が経ちましたが未だに犯人は逃走中の模様〉




「あれから1年か」


「うん、そうだね。まだ犯人見つかってないんだよね」


「そうみたいだな」




そう、僕はあの一年前の通り魔事件の最初の被害者なのだ。しかしどうしても思い出すことが出来ない。




事件の日、何を食べて、なにをしたのかなどは覚えている。けれど、事件の直後の記憶だけがすっぽりと抜き取られている様に思い出すことが出来ない。




「私ちょっとお手洗い行ってくるね」


「あぁ、わかった。」




事件直後のことは覚えていないが、情報ならある。実はあの一年前の通り魔事件は通り魔ではない可能性があるということだ。




だがあくまで可能性の話だ、なぜなら、標的になった人は皆自分の名前に神の名前が入っているという共通点があるからだ。

僕も月詠時雨(つくよみしぐれ)という名前だが、月の神月詠の名が入っている。



バカバカしい、そんなのたまたまだろ?と、思っただろう。しかし、偶然にも出来すぎている。僕以外に被害にあったのは9人で僕以外は殺されている。これを聞いてもバカバカしいと思うやつはあまりいないだろう。10人も被害にあっていて、全員神の名を持っているのだから偶然だとは言いきれないだろう。

おそらく僕は神の名を持つ人を狙った殺人事件とみている。




「おまたせ〜」


「どうした?少し嬉しそうだな」




部屋を出て行った時とは打って変わって、喜びを隠しきれない表情をしていた。




「時雨もうすぐ退院出来そうなんだって!」


「そうなのか、よかった」




やっとここともおさらばか、しばらくいたせいか名残惜しい気もするが、退院できるのはとても嬉しい。この一年間できなかった退院してからやりたいことに思いを巡らせていると、彼女はさっきの喜びの表情とはまた変わって少し悲しそうな表情をしていた。




「小夜、どうしたんだ?」


「ん?あぁ、時雨が退院できたことはうれしいけど、ご両親残念だったね」


「まぁ、事故だって言ってたからしょうがないよ。今僕が何か考えたところで何も変わらないしね」



そう、僕の両親は海外での仕事中事故で無くなったのだ。

しかし、僕は事故ではないと思っている。なぜなら両親の名前にも神の名前が入っているからだ。僕と同じ苗字なのだから当たり前のことではあるが、名前に神の名前が入っているのには変わらない。


「そっか、時雨は強いんだね」


「強くはないよ、ただどうしようもできないことはあきらめるようにしてるだけだ」




少しの間沈黙が続いたが、そんな沈黙を破るかのように彼女は話始める。




「私一人暮らしなんだけど、ご両親が亡くなって今家ないでしょ?だからさ、もし時雨がよければ退院したらうちに来ない?」




そうか、両親が死んで、家が今ないのか。小夜には迷惑かけるようだが……いや、待てよ?

被害にあったのは12人で、内僕だけが死んでない。とすると、神・殺・し・の犯人が今度は僕を確実に殺しに来るかもしれない。とすると、小夜の家に居れば小夜も被害にあうかもしれない。




「いや、やめとくよ。小夜には迷惑かけたくない」


「迷惑なんかじゃないよ?私は全然構わないし。それに……」


「それに?」


「なんでも、ない」


「まぁ、とりあえず僕は祖母の家に…」




という言葉を言い終える前に激しい頭痛とともに意識が遠のいでいった。




「あ、頭が」


「大丈夫?先生呼ぶ?」


「いや、大丈夫…」




だめだ。核心まで来るといつもこうなる。




カーカーカー




カラスが鳴き始めた。

どうやら少しの間気絶していたようだ。

うるさい声はまだ聞こえるが、昼間ほどではない。これから夜になるにつれて、静かになっていく。




「もうそろそろ夜だ。」


「あ、起きた!先生呼んで診てもらったんだけど、疲れから来てるものだから少し休めば大丈夫だって言ってたよ。」


「そうか、ありがとな」



「うん!あ、時間遅いし私はもうそろそろ帰るね。さっき話した退院したあとのことは考えといてね」


「わかった。考えとくよ」


「じゃあまたね!」


「あぁ」




小夜が病室を出ると急に部屋が広くなったように思えた。あのうるさいセミの声とカラスの声が聞こえているはずなのになぜか耳鳴りがしそうなくらいに静かに思えた。




()()()……か」




神殺し、というのは世間では通り魔だと言われている一年前の事件を僕が勝手に名付けたものだ。名前に神の名を持つものだけが被害にあっている、ただそれだけの理由だが、ぴったりの名前だと思っている。


一体誰が、なぜ、神の名を持つものを殺しているのだろうか。




ピヨピヨッピヨピヨッ



カーテンの隙間から覗く日の光で目が覚める。

朝か、昨日はあのまま寝てしまったようだ。朝はいいな、うるさい声もあまり聞こえないし。小鳥の声や鳩の声が聞こえてくると安心する。


カーテンが開いて隙間からしか見えなかった日光が部屋全体に降り注ぐ。



「月詠さん、おはようございます。」


「おはようございます」




いつも通り看護師さんに挨拶をする。そしてしばらくすると白衣をまとった担当医が来る。


簡単な検査が終わると普段は帰っていくのだが、今日は違った。




「時雨くん、君は今日で退院だ。退院の手続きやら何やらはいつも来てる彼女さんがやってくれたよ」


「へ?いや、あれは彼女じゃないですよ!」


唐突な担当医の一言に変な声がもれてしまった。

そんな風に思われていたのか。


「え?そうだったの?すごく心配して毎日来ていたから彼女さんかと思ったよ。まぁ、これからもお大事にね。何かあったらすぐに連絡するようにね」


「わかりました」




全て支度を済ませて部屋を出るとそこには小夜がいた。




「手続きありがとな、小夜が済ませてくれたみたいで」


「お安い御用だよ!それより行こ」


「そうだな」



最初はとりあえず小夜の家に行くことになったので向かうことにする。


病院を出ると全身に太陽の光を浴びる。1年間の間感じることのなかった感覚だったせいか不思議な感覚だった。

少し伸びをしてから歩き始める。



病院の目の前の大通を渡って少し細い路地を右に曲がるとすぐに商店街がある。

一年前と比べて所々変わっている店があるが、賑わっているのは変わらない。商店街を駅の方向へまっすぐ行くとドラッグストアが見える。そこを横に入ったところが小夜の家らしい。




「はい。到着!」


「ここか。いいところだな」




二階建ての一軒家で、見ると少し新しい方で外壁も綺麗だった。




「早く!入って入って!」




言われるがままに家に入る。




「お邪魔します」




玄関はそんなに広くないが、目の前に階段があって、左にリビングがある。


一人暮らしにはとても広い家だ。


「一人暮らしには少し広いよな、掃除とか大変そう」


「そんなことないよ?確かに一人暮らしには広いけど、時雨が一緒に住んだらちょうどいいでしょ?」


「本当にいいのか?迷惑かけるかもしれないぞ?」


「大丈夫!最初から決めてたことだから」


そこまで言われて断るのも悪いな。


「わかった、じゃあよろしくな」


そのまま二階に行くと目の前にトイレ右と左に部屋が一つづつあった右が小夜の部屋らしい。




「とりあえずここで待ってて」


「あぁ」




またもや言われるがままに小夜の部屋に入る。女の子らしい部屋だなと思いつつ荷物を置き、下に座る。入って右にベットがあって、左にタンスや棚がある。真ん中には座卓があり、その奥には机があった。




「おまたせ!」


今までにないくらいうれしそうな顔をして戻ってきた。


「なんかいつになくテンション高いな」


「当たり前じゃん!時雨がやっと退院してくれたんだから」




そんな小夜の部屋の中に一つだけ浮いている物がある。机の横に立てかけてある、深緑色の袋に包まれている長さが六十センチから九十センチくらいの細長い物だ。

最初は木刀だと思ったが小夜は剣道なんてやっていなかったと思う。



「あのさ、小夜」


「なに?」


「あそこにある細長いのってなに?」


「見たい?」


「いや、別にそれはどっちでもいいんだけど、気になってさ」




小夜が奥にある細長い何かに触れた瞬間、場の空気が急に暗くなったような気がした。そして何となく寒気もする。




「小夜?」


「ふっ、うふふ、あははは」


「どうしたんだよ小夜」


「いや、凄く嬉しいな、って思って」




振り返った小夜は不敵な笑みを浮かべていた。今まで見たことのないくらい不気味な笑みを。




「なぜ嬉しいか、分かる?うふふっ」


「いや、僕が退院したから?」


「そう。退院してくれたおかげで、やっとお前を殺すことが出来るからね」


「殺す?」




深緑色の布の下からは刀が覗いていた。




「嘘だろ?まさか」


「あはっ、そう。通り魔……いや、神殺しって言ってたかしら。神の名を持つ人間を片っ端から殺していった犯人はこの私よ!」




そんな、小夜が犯人?どういう事だ?

どうなっているのか全く理解が追い付かない。




「小夜、なんでこんなことするんだよ!こんなことして何になるって言うんだよ!」


もし彼女の言う通り神殺しを行っていたのが彼女一人だとしたら、僕の両親も彼女が殺したことになる。


「ふふっ、まぁ、死ぬ相手にそんなこと話すのは意味無いけど、冥土の土産に話してあげるわ」




小夜は刀を抜いて眺めながら話し始めた。




「私ねぇ選ばれたの。だから、神・器・の回収をするために神の名を持っている人を殺したの。この刀も神器なのよ」


彼女が言うことから推測すると、神の名を持っている人から神器とやらを回収するために殺しまわっていたことになる。


「神器ってなんだ?それにいつからこんなことしてるんだ?僕たち幼馴染だっただろ?」


「あははっ、幼馴染?あぁ、それはお前に近づくための設定に過ぎないわ。十二人のうちにね、記憶を書き換えるっていう便利な神器を持ってるやつがいてね。あなた殺しそびれちゃったからそれを使ったのよ。そして、病院で私が幼馴染だって言ったらすぐに信じてくれた」




そんな、じゃあ俺の記憶はその神器によって書き換えられたのか。いや?待てよ?




「おい小夜、でも、俺は神器なんて持ってないぞ」


「とぼけないで!月詠の名を持つあなたは絶対に持っているはずよ」


「でも本当に……っ!」


「まぁ、殺せばわかる事だから。お話は終わり、大人しくしててね。あはっ」




刀を向けられながらも必死に逃げる方法を考えたが、1年間寝たきりの僕に何も出来ることはない。でも。




走った。絶対に追いつかれると分かっていても。それでも死にたくない一心で逃げた。




「じっとしててっていったよね?」




ドタッ




走っていたはずが急に体勢が崩れ落ちた。そして右足に鋭い痛みと熱が走った。


恐る恐る右足を見るが膝から先は真っ赤に染まっていて何も見えない。




「ぐあああああああああああ!!!!」


「あはっ、あはは!じっとしていれば一瞬で殺してあげたのに」


「助けてください!死にたくない!何でもします、病院に、足が痛いんです」




僕は必死に命乞いした。無意味でも、可能性が限りなくゼロに近かったとしても。それは叶わない願いだと知っていながらも。




右足の痛みは止むことはなく、ただただ鈍く続くこの痛みから逃れたかった。数秒前の気持ちとは変わってこの痛みから逃れられるのならば何でもいいと思い始めていた。




「殺してください。僕を、殺してください」




血と涙でぐしょぐしょになりながらも目の前の少女に助けを求める。


この時自分の中では死ぬことが一番の助けだと完全に思っていた。




「じゃあ、可愛そうだし、そろそろ殺してあげるね?」




首に一瞬痛みが走ったと思えば、その後すぐに足の痛みも何もかもがスっと消えてった。




「なんで!なんでないのぉ!神器がない!!!!」




朦朧とする意識の中でこの言葉だけがはっきりと聞こえた。が、すぐに意識を手放した。






ミーンミンミンミーン




「はっ」




目を覚ますと見慣れた白い天井。起き上がるとそこは病院のベットの上だった。


そして横には幼馴染の小夜がいた。




「夢、か」




変な夢だったな。




「どうしたの?汗びっちょりだね」


「いや、変な夢見ちゃって、俺が小夜に殺される夢なんだよね」




その言葉を言った瞬間の小夜の表情が夢の中の小夜と同じに見えた。




「小夜?大丈夫か?」


「へー、そんな夢見たんだー」


「どうしたんだ?」


「ちょっと待っててね、家に忘れ物しちゃったみたいでちょっと取ってくる」


「あ、あぁ」




なんだ、あの顔。夢の中での小夜そっくりじゃないか。もし、もしあの夢が本当なら、なぜ僕は生きている?そうだ、神器。僕はそんなもの持っていない。大丈夫、夢だ……




「おまたせ」


「小夜、ずいぶん早…」


目の前には夢の中で持っていた刀を持った彼女が不敵な笑みを浮かべてそこに立っていた。




嘘、だろ?


夢じゃ、ないのか?




「もしかして、時雨の神器って予知なのかな?だとしたら便利でいいな〜、ここで殺しても、予知を使えば警察にも捕まらないだろうしね、あはっ」


「小夜何言って……」



また首にあの鋭い痛みが走ったと思えば、また意識が遠のいていく。



本当……だったのか。






ミーンミンミンミーン




「はっ」




目が覚める。見慣れた白い天井。病室のベット。完全に理解した。


僕の神器は恐らくタイムリープ的な何かだ。死ぬ寸前に何かしらのセーブポイントまで時を遡ることが出来ると推測する。



今度は、横にいる少女小夜に悟られないように何かしらの手をうたないと。




次は僕の番だ

前に短編で出していたものを連載という形で書こうと思い書き始めました。

書くのが遅いので、できれば気長に待っていただけると幸いです。

これからもよろしくお願いします。

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