勇者は何処へ
隣町は祝賀ムード一色だった。
『祝・魔王討伐』と書かれた横断幕がヒラヒラと舞う。
広場は賑やかで、朝だというのに男達はビールを飲んで浮かれていた。
私は刀に手をかけた。
この場にいる全員を3秒で殺すことができる。
が、勇者達の情報を得るまでこいつらを生かしておかなければならない。
私は深呼吸して苛立った神経を静めた。
そしてフードを目深に被ると、近くにいた男に、
「すいません。勇者様達は何処に行ったのか知りませんか」
と訊いた。
するとその男は訝しがる様子を見せながら、
「そうさなぁ。イニエス様がここから数キロ離れた町の出身だって聞いたから、きっとその町にいるんじゃないか」
「そうですか。ちなみにその町の名前は?」
「クラエスだったかな」
「クラエスですか。有り難うございます」
「ちょい待ち、君。一体何をするつもりなんだい? 刀なんかさして物騒な」
「ああ、これですか。これでちょっと勇者様と手合わせ願いたいと思っているんですよ」
「ほおう、決闘ね。やめといた方がいいと俺は思うがなぁ」
「何でです?」
「イニエス様は相手が女だろうと子供だろうと、老人だろうと容赦しないからな。身の丈ほどの斧を振り回し、相手の腕を『ダツンッ』だ。恐ろしい人だよ」
「もしかして昨日ここでイニエス様が決闘していたんですか?」
「ああそうだよ。屈強な男や、魔術を使える女なんかが決闘を申し込んだんだがね。皆無縁仏行きだよ」
「……そうですか。貴重な情報有り難うございます」
「いや、それはいいんだ。それより命は無駄にしないことだぞ」
「分かってます。それじゃあ」
そう言って私は足早に魔城へ向かった。
イニエス。どれほどの実力者か手合わせしたい。
そして魔王様の復讐もできて一石二鳥だ。
私は口元が自然と緩んでいるのに気づいた。
いけない、いけない。
期待しすぎも良くないんだから。
クラエスか。
待っていろイニエス。
なぶって、なぶって、見世物にして殺してやる。
私の心臓は興奮に犯され、左手が自然と刀をトンットンッと叩いていた。