勇者の慈悲
勇者は魔王を殺さなかった。
実力差は歴然で、絶対的な力を持って彼らは魔王様討伐を行った。
両腕をもぎ、片足を潰し、背中に大きなやけどを負わせ、歯を全部粉々にした。
その上で殺さず、生かして彼らは帰っていった。
何故、殺さなかった?
勇者の慈悲か?
半殺しで生かされることの方が生きていく上で辛い思いをすることもある。
まさか奴らは慈悲じゃなく、魔王様がこれからも辛い思いをして生きていかせるために、わざと半殺しで放置した?
そんなことを悶々と考えながら、私はご飯を咀嚼する。
そしてペースト状になったご飯を、魔王様に口づけで流し込んだ。
魔王様はそれを飲み込み、
「ありひゃひょう」
と言った。
私はその様子に耐えられなかった。
威厳があった頃の魔王様なら、有り難うなんて言わない。
もうあの頃の魔王様じゃない……それが私を苛んだ。
正直な話。
私は魔王様の従者だが、魔王様よりずっと強い。
あの日……勇者達が攻め込んできた時、私は隣町まで食料を買いに出かけていた。
もし、出かけるのを一日ずらしていたなら、魔王様を助けることができたのに。
魔王様がこんな姿になることはなかったろうに。
だから、私は勇者を許せないし、私自身も許せない。
だから決めたことがある。
報復だ。
勇者達に復讐する。
一人一人なぶり殺しやる。
私は魔王様の食事を終えると食器を片付け、自室にあった刀を手に取った。
「どひゃにいきゅんだ」
後ろからいきなり声をかけられてびっくりした。
ドアの前で車椅子に乗った魔王が、悲しそうな瞳で私を見ている。
そんな目で見ないで欲しい。
決意が揺らぐから。
魔王様は分かっているんだ。私が復讐を考えていることを。
でも、やめないです。
申し訳ありません。魔王様。
「出かけてきます」
そう言って魔王様の横を通り過ぎた。
「あやく、きゃえってきてきゅれ」
「はい。分かってます。すぐに戻りますから」
そう言って魔城を出た。
そして誰も入れないように鍵をかけた。
私はまず隣町に行き、勇者の居場所を探ることにした。