テセウスの船は大海原を行く
俺は転生したらしい。
昔流行った、今も流行ってるのかもしれないが、web小説のようだ。
そうして戸惑いながらも、魔法があるファンタジー世界を10歳まで、楽しむことができた。
まあ、満足だ。
「テセウス、テセウス。
死ぬなテセウス」
「テセウス、頑張って。
お願いテセウス」
体が死ぬほど辛いが、どうやら本当に死ぬみたいだ。
「公爵。
これは邪法ですが、1つだけテセウス様をお救いする方法があります」
「なんでもいい、テセウスを助けてくれ」
「お願いします、テセウスを」
「わかりました。
魂だけを、こちらのゴーレムに移します。
そして体は、将来の医療の進歩に期待し、石化させて保存させていただきます」
「それで、この子が助かるなら」
待て、もはやそれでは、最早テセウスはいないぞ?
魂は俺(元日本人)、体はゴーレムって、テセウス率0%だぞ?
そんなツッコミを口にする元気はなく、措置は行われた。
「テセウスなのか?」
頷く。
「何か喋って、テセウス」
首を横に振る。
そういう機能付いてないみたいなんで。
「申し訳ありません、公爵。
急ごしらえのゴーレムであったため、発声機能を付けていないのです」
「そうなのか」
「体を文字に変形する機能はあるんですが」
いや、そんな機能の前に、発声機能付けろよ、バカ。
「一度に何文字まで現わせるんだ?」
眉間にしわを寄せて、父さんが言う。
「50文字です」
「変形にかかる時間は?」
「1秒です」
「それなら、意思疎通の問題はなさそうね」
「うむ。急遽作ったにしてはいい出来ではないか」
「ありがとうございます」
『いや、発声機能を付けろや』
「おお、早速使いこなしているのか」
「流石、公爵と奥様のご子息です」
「ええ、自慢の息子です」
『いいから、このアホな機能と発声機能を交換してください』
それから、5年が経った。
「流石です、テセウス様」
「ああ、立派な姿になったな」
「あなたを誇りに思うわ」
確かに自分でも立派な姿になったと思う。
なにせ俺は今、豪華客船になっているのだから。
「あの、なんで私は船になっているんでしょうか?」
発声機能は付いた。1年ほど前に。
「ご安心ください。
テセウス様は船ではありません。
水陸空宇宙、全てに対応できるスペックを持った、究極のゴーレムです」
ゴーレムって人を数百人単位で乗っけて、移動するものだっけ?
「それでは行こう。
我が息子、テセウスを救う方法を探しに。
では出航」
この親父絶対に楽しんでやがる。
苛立ち紛れに体を揺らすと、乗っている人たちが慌てだした。
「む、何か不具合でもありましたかな。
今すぐ整備いたします」
「ああ、頼んだぞ」
「先生、お願いします」
そして、船の先頭に、ドリルが付いた。
もう止そう。
奴らにツッコミを入れると、余計な機能がドンドン増えそうだ。
ため息をついたつもりだったが、ドリルが回わった。