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されど彼らはダンジョンに挑む  作者: 新増レン
第一章 「夢幻の探求団」
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第一章8 『はじめまして』

 

 宿舎の掃除などを終え、ようやく一息つけた頃、既に外は光の星ではなく闇の星が浮かび、夜となっていた。


「よし! 改めて、みんなで自己紹介をしよう!」


 リビングに全員が集まり、メアリの言葉で一斉に注目する。



 そしてすかさず、我先にと、胸を張ってメアリが立ち上がった。


「まずは私からね。団長のメアリ=ゴーシュ。クラスは僧侶。これからは団長としてみんなをまとめていこうと思います!」


 パチパチパチ。

 お、今回は全員拍手してる。

 そんな風に感心していると、メアリが肩をちょんちょんと突く。

「え?」

「次、副団長の番だよ」

「……そういえば、そうだったな」


 実は組合での登録の際、探求団に必要な項目は二つあり、団長と副団長を決めなければならなかった。

 その時、メアリが強引な推薦でクライを副団長に仕立て上げていたのだ。


「えぇと、クライ=フォーベルンです。黄昏の探求団で団長を務めていました」

「……」

 なんか、すげー見られてる。特に、あの眼帯女に。

「クラスは、なんなのだ?」


「えっと……『支配者』」


『――!』

 その言葉に、想像通りどよめきが走る。

「クライさん、軍師じゃなかったんですか?」

 ゆるふわ少女が首を傾げる。


 これは当然だ。世間一般には、支配者というクラスは知られていない。しかし、探求者となったからには、いずれ耳に届くだろう。


「みんなギルドに所属してると思うが、ギルドには下級・上級の他に、探求者の間でしか知られていない最上級が存在するんだ。支配者は、最上級ギルドの一つなんだよ」


「そうか……まだ上があるということか。面白い」

 眼帯女が笑う。とても嬉しそうな表情だが、冷ややかなものを感じる目だ。

「こ、これでいいか?」

「まだだよ! 意気込みを言ってくれないと!」

 メアリが爛々と目を輝かせていた。

「意気込み……俺は二度と、仲間を死なせない」

 わかってはいたが、一瞬の静寂が訪れる。

 当然ながら、ここにいる者達も知っている。クライの正体を知った上で、ここまで来ている。

 その中でも、メアリだけは違った。

 こちらと目を合わせ、優しく頷いていた。


「背負い過ぎないでいいからね」


「え?」

「あなたは、団長じゃないもん。前みたいに、頼られるだけじゃない。私達を存分に頼ってくれていいんだよ。仲間だし!」

「メアリ……」



「そいじゃ、次行ってみようか! じゃあ、きみ!」

「は、はい!」

 メアリは明るく振舞い、続いて、オドオドした少年を指名した。


 痩躯で背が低く、サラサラとした銀髪の少年。女の子と見間違われそうな外見で、目鼻立ちもくっきりしている。身軽な恰好を見るからして、狩人のクラスだろうと思われた。


「僕の名前は『シェド=ブラウン』。クラスは狩人です。よろしくお願いします」

 シェドがぺこりとお辞儀し、拍手が送られた。

 どうやら彼の性格は気弱なようだ。


 クライは団の戦術担当となる。メアリの言葉通り、彼らの中に戦術士はいない。となれば、クライは積極的に彼らの事を知っておく必要があった。

 こうした少ない会話の中でも、知っておくべきことは多い。


 しかしそんな中、メアリはジトっとした目でシェドを見ている。

「あ、あの、なんでしょうか」

「シェド君、羨ましいくらいのキューティクルヘアーだね」

「す、すみません」

 成程、臆病な性格もあるようだ。



「ね、クライ。クライはどんな髪型が好きなの?」

 分析していると、唐突にメアリから話が振られる。

「なんで俺なんだ」

「いいから。団長命令」

「……別に、好みとかはない」

「ふうん。あ、シェド君、よろしくね~~」

「は、はい!」



 シェドが着席すると、隣に座っていたゆるふわ乙女が立ち上がった。


「えと、わたしの名前は『ミスティール=アリエッタ』です。クラスは占い師で、家事全般が得意です。皆さんの足を引っ張らない様に、頑張ります!」


 健気な挨拶に、拍手が送られた。本当に、どうしてダンジョンに挑むのか不思議だ。何か事情があるのかもしれない。


「ミスティールちゃんって言うんだ! よっろしくね~~」

「?」


 これまで一言も発しなかった金髪の男が、突然ミスティールに話しかける。

 彼女も困っているようだが、男は気にしない素振りであった。


「家事が得意なんて、嫁にしたい的な? 今度一緒に、ご飯とかどう? もちろん、宿舎の外だよ。奢るからさ」

「え、えっと」

「こら、困ってるでしょ。やめなさい」


 クライが注意しようかと思ったが、先にメアリが促す。

「へ~い。ごめんね~、ミスティールちゃん」

 男が平謝りして収束したかに思えたが、ミスティールを見ると少しばかりふわふわした雰囲気がなくなっていた。


「いえ、大丈夫です。あなたみたいなゴミは、タイプでないので」


「……え」

 突如、ミスティールが毒を吐いた。

 意外と強い子みたいだ。

 はっきりものを言えるタイプの子は、団にとって重要だからな。

「わお! ミスティって毒舌なんだね」

「そ、そんなことないです。思ったことが口に出てしまうだけで、と、特に気持ち悪い男の人とかには辛辣に……」

 毒というより、もはや猛毒だった。


「ん? メアリは、ミスティって呼ぶのか?」


「駄目かな? その方が呼びやすいでしょ」

 確かに、ミスティールよりは呼びやすい。

「それはいいと思うけど。ミスティールさんは、どう?」

「あ、ええっと、大丈夫です!」

 ということで、彼女の愛称は「ミスティ」に決まった。



「それじゃあ、自己紹介再開しよっか。んじゃ、ミスティに初日で玉砕されたそこの君!」

「ふふん。たかが一度の玉砕でめげる俺様じゃねえぜ」


 こいつ、無駄に打たれ強そうだな。

 身なりからして、遊び慣れていそうな感じだ。どうも、探求者とは見えない。


「俺様は『レクシス=アルバ』。これまで抱いた女の数は、星の数ほど。人は俺様を夜の帝王と呼ぶ!」

「うわー、どうでもいい」

「うん。そうだね」


 メアリとミスティールは苦手なようで、刺々しい言葉を吐く。

「……気を取り直して。クラスは曲芸師。さらにモテる為に探求者になった。よろしくたのむぜ、ボーイ&ガール」

 一言で表現するなら、アホだった。

 拍手も生まれず、侮蔑の視線が漂う中、奴は満足げに腰を下ろす。

 アホは利用しやすいが、命令を聞かない。どこかであいつよりも優位になっておく必要がありそうだ。



「ふむ。最後はあたしか」

 淀んだ空気を一閃したのは、眼帯女の一言だった。

 彼女が立ち上がるだけで息を呑む。雰囲気だけでわかるが、彼女だけは探求者として飛び抜けているように思えた。

 そんな彼女が、なぜここにやって来たのか。普通なら、どこの団も勧誘に必死になりそうなものだが。


「あたしの名は『アスカ=ウィズ』。クラスは未だ戦士。興味があるのは一騎討ちのみだ」

「……? 一騎討ちってことは、一対一か?」

「そう。あたしは魔物との戦闘は一騎討ちしか行わない」


 成程。なんとなくわかってきた。

 彼女は協調性が皆無。

 これでは各探求団をたらいまわしにされても不思議ではない。クライが耳を傾けていなかっただけで、割と有名人だろう。


「失礼だが、これまでの遍歴を聞いていいか?」

「うむ。これまで団に所属した数は17。すべてクビになった」

「そ、そうか」


 結構な数だ。

 探求団では、そこまで素行がひどくない限り、いるだけで戦力になる。つまり人の数が団の強さを示すため、大きな団になれば、籍だけを置かせるケースもあると言われている。

 それなのに、退団させられるとは……。


「メアリは、初めてだったよな」

「うん。探求団に所属した経験はないよ」

「他のみんなは?」


 今思うと、この問いは不安を増幅させるだけだった。場数をどれだけ踏んだことがあるのか、それだけを知りたかったのだが、別の意味で衝撃を受ける。


「わたしは、初めてです」

「僕は、6回ほど」

 二人は許容範囲内。しかし、想像を超えてきたのは残っていたアホ男だけだ。



「聞いて驚け。俺様は49回だ! 世間は俺様を『世渡り上手のレクシスさん』と呼ぶ」



『…………』

 絶句だった。ある意味、こいつが一番の大物だ。

 なぜ誇れる。

 どこが世渡り上手だ。

 ――と色々と言いたいことは飲み込んで、彼とは熱くならずに対話した方が効果的だと考えた。


「よくわかった。大変だったな」

 下手に出るとレクシスは満足げに笑みを浮かべてきた。


「ああ、そうさ。それにしても、まさか死神様の団に入るとはなぁ。世も末だぜ。大手の探求団は見る目ねぇよ。こんな逸材を、死神と同じ――」


 キンッ! ストンッ!


「え……?」

 見ると、隣に座るメアリがテーブルの上に置いてあった果物ナイフを投擲し、それはレクシスの頬を掠めて壁に刺さっていた。

「ほう……」

 なぜかアスカは嬉しそうだが、他の二人は青ざめている。

「どうしたんだよ、メアリ。急に――」


「あいつ、クライを馬鹿にしたんだもん。殺していいでしょ?」


 メアリは淀んだ瞳をこちらに向ける。

 あれ、メアリってこんなだっけ? ファンって言ってたけど、もしかしてここまで……。


「な、なんなんだよ! 死神が偉そうにしてるからだろ! 大体俺様は――」

「口を閉じろ」

「ひぃっ!」


 メアリの一睨みでレクシスは黙った。小鹿のように震え、青ざめていく。

「ごめんねみんな。一人減っちゃいそう」

 メアリはそう言って笑った。目が笑っていないけど。


「いやいやいや待てって! ミスティとシェドも手伝ってくれ! アスカ、笑ってないで手伝ってくれ!」

「あ、はい!」

「む、無理ですよ! 怖すぎます!」

「これから面白い所だというのに……はぁ」


 なんとかミスティールとアスカの協力もあり、メアリを落ち着けることは出来た。

 落ち着くと、前の記憶はなくなっているようで、メアリは普段通りにケロッとしていた。

「ん? なんかあったの?」

「いや、なんでもないよ」

「でも変だなぁ。なぁんか、すごくムカついた気がして」

「きっと、疲れてるんだろ。引っ越しとかいろいろ」

「そうかも~~。一通り自己紹介も終わったし、今日はひとまず解散ってことで」

「ああ」

「ふんふふんふ~ん」

 メアリはスキップでリビングを後にし、部屋へと戻っていく。



「……クライさん」

「そうだな」

 ミスティールが心配そうに見てくる。

 クライは他の面々を見渡し、無言の協定を結ぶことにした。それはメアリの前でクライの悪口を言ってはならないという内容のもので、全会一致で成立した。



 そしてそのまま解散となったのだが、アスカが部屋に戻る際、足を止める。

「しかし、修羅の如き執着心だった。あなたに心当たりはないの?」

「わからないんだ。……メアリが何者なのかも、知らない。それにお前達のことも」

「……」


「だけど心配するな。引き受けた以上、全員の事を理解していく。それが戦術担当の責務だからな」


「ほう。別にいいが、あたしは一騎討ちしかしないぞ」

「わかってるよ」

「……おやすみなさい」

「おやすみ」

 アスカが部屋に戻っていく。



 それを見送ってから、リビングから出て中庭のベンチに腰掛けた。

 宿舎は中庭から夜空が見える吹き抜けの形で、2階に各人の部屋がある。

 ベンチに腰掛けてみていると、それぞれの部屋の灯りがついて、皆が戻ったことがわかった。


「……絶対に、死なせるわけにはいかんな」

 その部屋の灯りに再び誓い、クライも部屋に戻ることにした。



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