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されど彼らはダンジョンに挑む  作者: 新増レン
第一章 「夢幻の探求団」
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第一章7 『出来ることから始めよう』

 

 クライはメアリに誘われ、彼女の探求団に加入することとなった。

「――というわけで、クライ=フォーベルンさんです!」

「よろしくお願いします」


 早速、メアリに紹介され、クライは他の仲間たちの頭を下げた。すると、二人ほど拍手で応じてくれたが、他の二人は我関せずと言った様子だった。


 でもまあ、最初はこんなものだ。とりあえず――。

「メアリ……この団の団長はメアリなんだよな」

「うん、そうだよ」


「六人集まったら、とりあえず登録に行った方がいい。探求団として登録すれば、宿舎を借りることもできる」


「へぇ~~」

 知らなかった様子だ。

「はぁ……最初から教えた方がよさそうだな」

「さっすが頼りになるぅ!」

 クライは少し呆れつつも、メアリにあれこれ教えながら、とりあえず「夢幻の探求団」を探求団として登録するべく組合に向かった。



 街の少し外れにある組合は、事務手続きだけを行う場で、クライもそれほど嫌悪たっぷりの視線を向けられることはない。

 何故登録しておくのかもメアリに教えた。


 ここで登録しておかねば、国家間で結ばれた条約に反し、逮捕されてしまいかねない。


 というのも、誰彼かまわず探求者にしてしまえば、国にとって有益ではないからだ。

 この組合では素性を調べ、簡易的な審査が行われる。クリアすれば認められるのだ。


「オールクリアです。本日、この時を持ちまして、あなた方を正式な探求団として認めます」


 どうやら他の仲間連中に素性の怪しいものはいなかったらしく、すんなりと済んだ。

「こちらが、証明書になります」


 そう言って事務員に渡されたのは、ポストカードのようなもの。団長がこれを提示することで、ダンジョンに入る許可や国家間を自由に行き来できる。


「失くさないでくれよ」

「大丈夫だよ!」

「……」



 組合で一通りの手続きを終えた後は、宿舎を探すべく特区へと足を運んだ。

 特区は居住区とは別の、探求団専用の宿泊区域である。


「ここが特区だ」

「これが噂の特区、なんですね」


 仲間の少女が驚きながらつぶやく。

「もしかして来るの初めて? 私もだよ~」

 メアリが話しかけると、少女は嬉しそうにメアリと話し始める。


 探求団には似合わない、ふわふわした柔和な少女。栗色の髪は肩くらいの長さで内側に巻かれており、歩くたびに揺れていた。背は低いがプロポーションは良く、どうやら見た目よりは年上のようだ。


「説明、続けるぞ」

「あ、うん」


 気付けば、メアリはクライが仲間となってから畏まった態度をやめている。

 敬語も使わず、とてもフランクに接してくるのは団長なら当然のことだ。

 だが、そんなに上手くできることではない。

 そこだけはクライも彼女の器量を認めていた。


「ベースキャンプ。つまり拠点にする街は決まっているのか?」

「うん。ここにするつもり」

「そうか。それなら、ここで宿舎を購入した方がいいな」

「購入って、無理じゃない? 私達、お金もあまりないよ?」


 普通はそうだ。

 初心者の探求団は、金がない。貧乏だ。

 その為、宿舎を購入せず、借りることでどうにかする。



 しかし、宿舎と言うものには限りがあり、購入できるタイミングで購入しておかないと、埋まっていってしまうのだ。

 つまり団として一人前になる頃、この街に宿舎の空きがあるかと問われた時、確実にあるとは言い切れない。

 だから、クライは購入を提案する。

 拠点を移せば問題は解決するかもしれないが、理由は他にもあったからだ。



「俺の残り一年分の貯金、それを使えば宿舎の購入ができる」

「え、でもそれだと」


 さすがのメアリもここは遠慮しているようだった。

 だが、こちらも譲れない理由がある。


「これくらいはさせてくれ。宿舎を借りるとなった場合、すぐにでもダンジョンに出向く必要がある。家賃分を稼がないといけないプレッシャーで死んでいった連中をこの目で見てきたんだ」


「じゃ、じゃあ稼いで返すね」

 どうしても返したいようだ。

「わかった。待ってるよ」

「うん。……よし、そうと決まれば、どれにするか選ぼう! おすすめとかある?」

「中庭がある宿舎を選ぶといい。鍛錬の場を設けることができる」

「それは素晴らしい」


 ふと口にしたつもりだったのだが、突如その会話に入りこんできた者がいた。

 先程までムスッとした表情で何も語らずについてきた長身の美女だ。


「あたしの鍛錬の場を考えるとは、さすがは名高き軍神だな」

「……どうも」


 まだ名前も知らないが、彼女の性格は何となくわかる。

 凛としたオーラを纏い、鋭い眼光が光る。気になったのは左眼だ。

「その左眼、どうしたんだ?」

 なぜか左眼に黒の眼帯をしており、そこが気になってしまう。

「これは、魔物との戦いの勲章だ。つまらんもんだよ」

「そ、そうか」


 想像通りで少しばかり申し訳なかったが、とりあえずクライは説明を再開した。



 論議の結果、東特区にある立地の良い二階建ての宿舎を購入することとなり、クライは資金をすべて使い果たした。

 それからは全員の引っ越し作業となった。

 荷物を持ち込み、部屋決めをし、掃除をする。と言った風な具合で、仲間同士の自己紹介もままならず、一日目は家事全般で全てを消化しきっていた。



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