第一章5 『仲間を集めよう!』
憧れの存在と対面したメアリだったが、鮮烈すぎる初対面に、居候先に戻っても頭を悩ませていた。
「んー、啖呵を切ってしまったけど……今考えると、物凄く失礼な言葉ばっか並べてたんじゃないかなぁ……。あぁ~~~~」
「ちょっと、帰ってきて早々に変な声上げないでよ!」
「あ、ごめん」
メアリはひとまず、仲間を集めることにした。
最低でも四人。そして最多でも四人。
メアリは六名以上の団を結成する気はない。
それは、黄昏の探求団がそうしたように、少数精鋭というものに憧れているからだった。
彼女は現在、シェアハウスで暮らしている。
探求団を結成した際には宿舎を借りられるが、今はまだ僧侶になっただけにすぎず、契約すら不可能だ。
「つーかさ、あんたまだここに居候する気? そろそろ金取るわよ」
「冷たいなぁ。私達の仲じゃない」
「最初っから初対面だったんだけど。あの夜、扉をうるさく叩いてきたあんたの事情を聴いて、あんたがすぐに出て行くって言うから泊めてやってんの」
「あはは……ごめん」
「まったく、僧侶の修業期間が終わってみればこれだもん。だから言ったでしょ? 勢いだけで探求者なんかになるなって」
探求者は、夢を追うようなものだった。
しかも、命を懸けて。
当然、探求者にならない者もいる。そうした人々の方が割合的には多い。探求者となっても、稼げない人達はすぐにやめてしまうらしい。
しかし、探求者の存在は嫌われているわけではない。
ダンジョンにしかない材料や史料を持ち帰り、人々の生活に役立っている。探求者の収入は、そうした珍品の取引にのみ発生するのだ。
「あのさ、ものは相談なんだけど」
「断る。どうせ、探求者やらないかってんでしょ? ありえない。見ず知らずのあんたを泊めてやってんのに、人生まで面倒見らんないっての」
「だよね」
「そもそも、あんた、仲間にはあてがあるって言ったでしょ?」
同居人(居候させてくれたアラサーの女性)は訝しげに見てくる。
「言ったよ。今日会ってきた」
「それで?」
「フラれた」
「……ま、男なんてそんなもんよ」
「何でわかるの?! 相手が男の人って言ってないのに!」
「経験よ。経験。何年独身のアラサーやってると、思ってんよ……くそ」
そう言って彼女は少しだけ涙ぐんだ。
「とりあえず、今は仲間を探さないと。あのさ、もう少しだけ居てもいいかな?」
「い……いいに、決まってんでしょ? ここまで面倒見たんだし、一日も一か月も変わんないわよ」
「ありがとう!」
翌日――。
とりあえず、メアリはビギナーブックを頼ることにした。
「なになに? えぇと『仲間を求めるのなら仲介所に走れ! 仲介所は各国どこにでも存在するぞ。ただし、正規の仲介所を探すこと! これ重要!』かぁ……確か仲介所って」
ビギナーブックを閉じて地図を開く。
ちょうど今いる広場から少し歩いた先に仲介所があった。
「よし! 行ってみよう」
メアリは迷わず歩き出し、遠くに見えた仲介所に入っていく。
ギギィ。カランコロン。
「おう、いらっしゃい。受付はこっちだぜ」
仲介所は簡素な造りの酒場で、受付のダンディな男性が一人と、テーブル席には探求者と思える人が大勢いた。
男性に呼ばれてそちらを目指すと、他の者の視線を集める。
しかしメアリは、彼らの射殺すような、舐め回すような視線に気づくこともなく、ズンズンと受付に歩いていった。
「よう。探求団を作るのか? それとも探求団を捜してんのか?」
「あの、仲間を募りたいんですけど」
「オーケー。じゃあ、要望と条件、それからお嬢さんのクラスを教えてくれ」
「えっと、僧侶です」
「ほう。僧侶で団を作る気なのか。なかなか面白いじゃねえか。そいで、条件は?」
「それはですね――」
メアリが条件を口にすると、酒場が静まり返り、オーナーの男も一瞬たじろいだ。
それから彼はニヤリと笑い、「オーケー」と言ってメアリの要望を書き連ねていく。
「今日から貼っておく。この条件を呑める奴がいたら、待機するように言っておいてやるよ。そうだなぁ、数日後にまた来てくれ。その時までに集まっていれば紹介するぜ。あぁ、それと、仲介料についてだけど」
「いくらですか?」
メアリが訊ねると、オーナーは首を横に振る。
「初回はいい。次回、利用する時があれば、払ってくれ」
「そうですか? ならお言葉に甘えて……でも、次回はないですよ。条件通り、私は六人でしかダンジョンに挑みませんから」
「……はっはっはっは!!」
その言葉に、オーナーは大声で笑った。
「何ですか?」
「いいや、すげえこと言う奴が現れたなって思ってさ。……そうかい。ますます面白いじゃねえか。最近は、あんたみたいな奴らが減っていてなぁ。正直、つまんなかったんだ」
「私もです」
「へぇ、あんたもその口か。……名前は決めてんのか?」
「名前、ですか?」
「探求団の名前だよ。折角だから、あんたの名前と一緒に憶えておこうと思ってな」
そう言われ、メアリは満足げに微笑み、決めてあった団の名前を口にする。
「夢幻の探求団です!」
迷いなく答えたメアリは、そのまま仲介所を後にした。
メアリが去ってから、オーナーは彼女の要望と団名を掲示板に張り付ける。
しかし、一部始終を見ていた者や、試しに条件を見た者は、誰一人としてオーナーに名乗り出ることはなかった。
「(ま、仕方ねえか。保身の連中にとっちゃ、あの名前は刺激が強いからな。……しかし、あの男の技量や力は、放っておいていいもんじゃねえ。何度か、大手の団が引き抜き交渉したって噂があったが、誰よりも先に嬢ちゃんが引き入れたってことか?)」
新聞を広げ、オーナーは一息つく。
「(まあ、なんにせよ面白そうだ。果たして、あんな条件に賛同する奴が現れるかどうか)」
ギギィ。カランコロン。
一息つこうとしたのも束の間、客が入ってきた。
深い海色の髪をなびかせる眼帯を付けた美女。佇まいから、凛とした雰囲気を纏っている。
見る限りでは戦士のクラスで、剣を腰に差し、鎧を着こんでいる。高身長でスタイルの良い美女で、周りから声をかけられてる。
「(ありゃあ、かなりの腕だな。何の用やら)」
「いらっしゃい。団を作るならこっち。入るならそっちの掲示板だ」
「ふむ、そうか。礼を言う」
「あ、ああ」
礼を言われて虚を衝かれたが、彼女は掲示板に足を運んでいった。
すると驚いたことに、先程貼ったばかりのものに目が釘付けで、しばし凝視した後、こちらに歩み寄ってきた。
「どこか、いい場所があったのか?」
「ああ。夢幻の探求団という探求団に興味がある。いいだろうか?」
「……構わんよ。あんたが第一号みたいだ。ここにサインを。それと、この日にもう一度足を運んでくれ。団長を呼んである」
「うむ。了解した」
「(まさか、こんなにあっさり賛同者が来るとは)」
女性はサインを書き残し、説明をした後に去っていった。
「(意外と、あっさり決まりそうだな)」
そしてオーナーの予想通り、他の希望者も集まり、三日で希望の四名が集まった。
ちなみに彼らの呑んだ条件とは――
○四名まで。
○僧侶・戦術士以外の方。
○この団には死神クライ=フォーベルンがいるので、彼を嫌う方は必要ありません。
○経験は問わず。
○退団歴は気にしませんし、こちらから退団させることはありません。
○入団した場合、退団することは出来ません。
――というものだった。