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されど彼らはダンジョンに挑む  作者: 新増レン
第一章 「夢幻の探求団」
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第一章4 『突然の出会い。彼の場合』


 クライは角でぶつかった見ず知らずの少女に、いきなりからまれた。

 そして、彼女はまたもいきなり、憧れていると理由を述べてクライを探求団に誘ってきた。

 もう戻ることはないと思っていたあの場所に、ズカズカと遠慮なく入ってくる。



「俺に憧れて……それは嘘だ。俺は仲間を死なせた」

「知ってますよ。でも、探求者になった以上は、誰もが覚悟の上のはずです」


 その言葉にクライは、ついムキになってしまう。

「……まだ探求者にもなってないくせに、語らないでくれ」


 どの口が言う。

 言った直後、クライの脳裏に言葉が流れる。


「す、すみません。え、えぇと」

「……」

 幸い、ここは人通りの少ない道だった。

 少し歳は離れているが、まだあどけない少女が歩くには危険すぎる。

 彼女を安全な道に戻して、早々に立ち去ろう。


「ま、いいけど。若い女の子が、こんな道を通るもんじゃない。大通りに戻るといい」

「あ、ほんとだ……。私、夢中になっちゃうと周りが見えなくなっちゃうんですよ」


 だからどうした。

 口を衝いて出そうになり、すぐに呑み込む。


「あの、あなたに憧れたのは、嘘じゃありません」

「……」

「それに、きっと頷いてくれないってわかっていました」

「それなら――」

 話がいい方向に流れた。クライはそう思っていたが、実際は違った。


「私が、本気じゃないからですよね」

「……は?」



「仲間を集めて、その時、ようやく認めてもらえるんですよね。わかってます。最初から、クライさんのような超凄い人を仲間に出来るなんて甘いです。甘々です」



 夢中になると周りが見えなくなる。

 彼女がそう言っていたように、止められそうにない程、彼女は変な方向にまっすぐで、眩しくて、かつての仲間たちの姿を重ねそうになる。


「だから、あと四人集めます。その時、もう一度だけ会ってくれませんか?」

「嫌だ」


「私も断られるのが嫌です。だから会いに行きます。どんな方法を使ってでも!」


「……あの、さ」

「はい?」

 先程から息込んでいるが、一つだけ気になることがあった。


「見た目、僧侶だけど……団を結成するつもりなのか? 戦術士もいないのに?」


「はい。ビギナーブックにも、結成して団長になるなら戦術師を選べって書いてありました。でも、私は人を動かすのとか苦手そうだし、もっと適任がいますから」

 そう言って彼女は、クライを指さす。



「黄昏の探求団の団長、『地獄軍神』のクライ=フォーベルン。有名です」



「……」

 確かに有名だった。

 黄昏の探求団は、探求団の中でも有名な少数精鋭のダンジョン踏破団だ。

 ダンジョンはいくつも存在するが、踏破したことのある探求団は五つのみ。

 それらは『五雄団』と呼ばれる有名な団ばかりだ。しかもそのどれもが戦力は厚く、資金も潤った大人数の団。


 だからこそ少数精鋭の黄昏の探求団は色濃く、人々の記憶に刻まれてしまった。


 その結果、団長のクライだけが生き残り、他のメンバーが全滅したことも一気に知れ渡り、もう、五雄団と数えられることもなくなった。



「だからこそ、今回のスカウトなんです!」

「……?」


「こんなに凄い人が近くにいるのに、一度の失敗で評価されないなんておかしいです! あなたは、最高の探求者のはずです!」


「……そうだな。その最高の探求者は、仲間を五人も死なせたんだ。笑えるだろ」

 そう言って自分が笑う。

 情けなくて、ふがいない自分自身を嘲笑う。


「評価は変えません。……一つ訊ねます。死を覚悟して、クライさんは何をダンジョンに探しに行ったんですか?」

「……」

「あなただって、ダンジョンに置き忘れてきたものがあるはずですよね」


 ダンジョンに置き忘れてきたもの……。


「私は諦めません。あなたと肩を並べないと、ダンジョンに挑みたくないんです」

「勝手に、決め――」


「そうです。勝手です。でも、理屈じゃないんです。そうしたいんです」

「……!」


 まっすぐな眼差しで、クライは射抜かれる。

 ひたむき・純粋・誠実の三要素を合わせても足りないくらいの迸る輝きは、見覚えがあった。

 ああ、そうか。

 初めて、あいつと……マリーと探求者になろうって決めた日の輝きだ。



「私の名前、メアリ=ゴーシュです。また、来ますね」

「何度来ても――」


「同じじゃないです。この星に昇る光の星は、毎朝、新しい光の恩恵をくれます。きっと、次に会うときは……今日とは違う光に護られていますよ」


 そう言って笑い、メアリはお辞儀をして大通りへと戻っていった。

 嵐のように突然で、稲妻の様に鮮烈な印象。


 これが、メアリという少女との最初の出会いだった。



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