第一章44 『帰りは辛い』
ダンジョンは、宿舎に帰るまでがダンジョンである。
かの有名な探求者「エンソーク=キュリッツ」が残した名言だ。
クライ達は最深部に辿り着いた。
しかし、そこから帰るのが一苦労する。
魔物の襲撃をかわし、最低限の戦闘をこなしながら見慣れた浅い階層に辿り着いた頃には、疲弊しきっていた。
「つ、疲れる……」
「この階層からは魔物も出ないだろうから、肩の力を抜いてもいいと思うぞ」
「わか、わかりました……ふう」
疲れが表面化し、歩調が緩やかとなった。
『……』
「……」
空気、重いな。
とてもダンジョンを踏破した後とは思えない。
これまでは周りにバケモノばかりいたせいか、感覚がマヒしていたようだ。
クライのかつての仲間たちはダンジョンを踏破した後、魔物なんてお構いなしに興奮気味に大騒ぎしながら帰っていた。
このまま無言が続くのは精神的に折れそうだと感じたクライは、気になっていたことをメアリに訊ねることにした。
「そう言えばメアリ。こんな時だけど訊きたいことがあるんだが」
「ん? なに?」
「お前、俺の熱狂的ファンだろ? その理由が、全く思いつかなくてな。普通はリリーゼとかカイウスのファンになるんじゃないか?」
その言葉に、他のメンバーも聞き耳を立てる。
「んとね、私がクライのファンになったのは、理由があるんだよ。クライは憶えてない?」
「憶えてって……何のことだ?」
「昔……十年前くらいかな。私とクライ、会ったことがあるの」
十年って、その頃は黄昏の探求団を起ち上げた頃だな。
「憶えてないな……教えてもらえるか?」
「いいよ。ちょうどみんなにも話しておきたかったから。クライはね、私に光をくれた人なんだよ」
そう言って、メアリはゆっくりと自分の過去を話し始めた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
十年前、私はとある施設にいたの。
実はね、私は両親を戦争で亡くしていて孤児院に拾われて育ったんだ。
北の王国の、すごく寒い痩せた土地の孤児院でね、いつもとある配給を受けて暮らすことが出来ていた。
その配給を届けに来てくれていたのが、探求団の人達だった。
今でも憶えてる……あの日は鼻の頭が痛くなるほど寒くて、息をするのが辛い寒い日。大寒波が続いた三日目の事。配給も底をつき、もう駄目かと思ってた。
でもね、孤児院が大雪で孤立した中、ある探求団が配給を持ってきてくれたの。
それが黄昏の探求団だよ。