第一章3 『突然の出会い。彼女の場合』
ダンジョンへの挑戦を夢見るメアリは僧侶のギルドに入会し、一通り基本的な戦い方を身に着け、褒美として装備一式をもらった。
ここまで数週間かかり、ようやくという感じだった。
「またしばらくしたら来なさい。ダンジョンで経験を積んで、ギルドに戻り、技を習得し、またダンジョンへと帰る。探求者とは、そうした日々の研鑚の繰り返しなのだ」
「わかりました、お師匠様。ご指導ご鞭撻、ありがとうございました」
「うむ。それでは」
そう言って白髭の老人はギルドに戻っていく。
それを見届けてから、受け取った杖を腰に差し、僧侶の装束、ローブ姿でギルドを出た。
「あぁ、空気がきれいだなぁ」
ずっと缶詰生活だったせいで息がつまったメアリは、ひとまず空気を噛みしめる。
それから次の目的を確認した。
「次は、仲間だよね。仲間なくして探求団は作れないもん。……そだ。久しぶりに、あの資料見てみよっと」
資料をナップザックから取出し、読んでみる。
「えぇと、まずは五人集めないといけなくて、他の団から引き抜くことは通常不可能。団長には団員の任免権があり、双方の合意のもとで任命でき、団長の権限で罷免できて――」
資料を見ながら歩き始め、少しして角を曲がった辺りだった。
「え――」「……!」
ドン! ――とメアリは人とぶつかってしまう。
「いつ~~! あ、大丈夫ですか!」
相手も同様に尻餅をついていて、腰の辺りをさすっていた。
「あ、ああ……」
「ほ、本当? なんか、とても大丈夫そうには……」
やつれた青白い顔で、折れそうなくらい細身の身体。
メアリの方が心配になった。
しかしよく見ると、その顔には見覚えがある。見覚えしかない。
「……ごめん。こちらの不注意だった」
それだけ残して、男性は立ち去ろうとする。
しかし直前、メアリは思い出した。
「――あ! あなたってもしかしてクライ=フォーベルンさんですか!?」
「……」
「ど、どうして黙るんですか!? 見間違えるはずありません! 私、あなたを探していて、まさか、こんなところで出会うなんて思ってもみませんでした!」
メアリは瞳を輝かせ、クライの進行方向へと先回りする。
「な、なに。報復なら受けるから、さっさと――」
「そんなんじゃないです! 私の、探求団に入ってください!」
「……は?」
「だから、探求団に!」
クライはキョトンとして、瞬きしていた。
「あの、俺のこと知ってる? からかってるの?」
「そんなこと!」
「だったら、他に理由は――」
「あなたに、憧れたからです!」
「憧れ……?」
「はい。黄昏の探求団の団長、クライ=フォーベルンさんに憧れて、私は探求者になろうと思ったんです!」