第一章38 『はじめてのダンジョン泊』
人工的に造られているダンジョンの中で、コヤードは下層に進むごとにそれを感じさせないような緑に包まれていく。
「これ、土じゃない?」
歩き続けているからこそ、メアリを含めたメンバーは変化に気付いた。
先程までと違い、足場が柔らかく感じる。
「ああ。人口通路は石で造られていたが、コヤードはこの先から土を敷き詰めてあるんだ。緑も多くなるから、錯覚しやすい」
「どうやって造ったんですか?」
ミスティールが不思議がっているが、それにこたえることは出来ない。
「俺にもわからない。ダンジョンは謎が多いからな……研究者たちは探求者の報告を受けてから調査に出向くことができるようになる。未踏破のダンジョンを踏破するということは、ダンジョンの真理に近づく手助けでもあるんだ」
「そうなんですか……なんだか、知りたいようで知りたくないような気がします」
ミスティールはそう言って再び周囲の景色を注意深く観察し始めた。言われずとも、周辺確認をしているのだろう。
「そんなに気を貼らなくても大丈夫だ」
「え?」
「俺が見てる。だから少しは休んだ方がいいぞ」
「クライさん……」
彼女は頬を赤くして頷いた。
占い師は魔力を使う。先程の戦闘で集中していた分は、こうして補い合うことで支えなければならない。一人で無理に努力することは、意外とチームの足を引っ張る事態に直結しかねないからだ。
「おっ、兄貴。なんか怪しい場所がありますよ」
後方を歩いていると、前方のレクシスが振り返った。
そろそろだな。
「多分そこだ。みんな、キャンプ地に着いたぞ」
「本当っ! やったあ!」
「め、メアリちゃん! そんなに叫んだら魔物が――」
「そ、そうですよ団長さん!」
ミスティールとシェドが注意を促すが、その心配はない。
「二人とも、キャンプ地なら大丈夫だ。メアリがいくら叫んでも、魔物は来ないよ」
「ほ、本当ですか?」
「シェド、俺が嘘を言って何になる」
「……ほっ。よかったぁ」
辿り着いた場所は、あちらこちらに木が伸びている中、繁みの奥にあった開けた場所。誰かが何度も使った形跡のある、コヤードのキャンプ地だ。
クライ達はキャンプ地に辿り着き、ようやく緊張が解けた。
荷物を下ろすと、腕や首を回したり身体を伸ばす者もいる。
「クライ、これからどうするの?」
「今日はここで一泊することになる。各自、明日に備えて疲れを取るといい。特に精神力や魔力を酷使するミスティとメアリは、しっかりと休んでおけよ」
「はい、クライさん」
「……」
「メアリ、どうした?」
普通に言ったつもりだが、彼女はどこか不服そうな表情でクライを見てくる。
「どうしてミスティの名前が先なの?」
「は? そんなの偶然だろ」
「ふうん。まあいいけど」
まだ俺達の関係に不服だったのか。
ミスティを見ると、少し戸惑っていた様子だが、こちらを見て表情が晴れた。そのまま近づいてきて、ニコニコとこちらを見てくる。
「どうしたんだ?」
「い、いえ。クライさんが見ていたので、その、嬉しかっただけです」
「~~!?」
「さすが兄貴だ」
「ミスティは、随分と積極的だな」
「……ミスティ、テント張り手伝ってくれ」
「はいっ!」
ミスティールの言葉にクライは顔を赤くし、周りから(主にレクシスとアスカ)の視線に気づくと、キャンプの準備を再開することにした。