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されど彼らはダンジョンに挑む  作者: 新増レン
第一章 「夢幻の探求団」
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第一章33 『朝帰り。そして』

 

「ふわぁあ」


 眠い。あれから朝まで話しつくしてしまった。

 帰ったら寝よう。

 そう思って宿舎に戻り、カギを開ける。

 ……すると、中から物音が聞こえてきて、扉が開かれた。


「え?」

「遅かったですね、クライさん」


「ミスティ……え?」


 そこには頬を膨らませ、ジトっとした目を向けてくるミスティの姿があった。


「どうして……ギルドは?」

「終わったから帰ってるんです」


「……どうして、怒ってるんだ?」


「ふんっ! わからないんですか? 折角早く終わったから、晩御飯を作ってあげようと思ったのに、一向に帰ってこない人を待つ気持ちです」


 もしや、昨晩から……。


「す、すまない! さすがに、昨日の夜に終わるとは思ってなかったから、その……」


 見通しでは、今日の夜だと思っていた。

 しかしまさか、誰よりも早く終わるとは……確かにギルドというものは技術を習得すれば修業期間も短くて済む。

 ミスティールはやはり、才能があるのかもしれない。


「……クライさん」

「あ、ああ」

「朝食、一緒に食べませんか?」


 ミスティールは呆れた顔をしていたが、そう言ってニッコリ笑うと、クライを迎え入れてくれた。



「クライさん、お酒臭いです」


 朝食を食べることとなり席に着いたが、ミスティールに鼻をつまみながら、開口一番でそう言われる。


「ちょっと、リリーゼ達と飲みに行ってんだよ……ほら、うちの団は未成年ばかりだし、その、ちょっと飲みたくなる時もあって……」


「そ、そうだったんですか。クライさん、お酒好きなんですね」

「まあ、そうだな。でも阿保みたいに飲まないから、安心してくれ」


「……ふふっ、なんかクライさんの見たことの無い一面を見ました。これなら完徹して良かったです。眼福ですから」


「え?」

「あ、冷めないうちに食べちゃいましょうよ」

「そうだな。いただきます」


 むぐもぐ。


 ミスティールの作ってくれた朝食を食べると、すぐにいつもと違うことに気が付いた。

 出されている料理は焼き魚だが、味付けがいつもよりも薄い気がする。


「これ……」

「もしかして、と思って……帰って来た時に食べやすいようにしておいたんです。わたしの占い、当たりましたね」


 そう言ってミスティールは近くに置いてあった水晶を持ち上げた。


「もしかして、占ったのか?」

「そうですよ? あまりにも帰りが遅くて、心配しちゃいました」


 だからって、占ってまで……それに料理も。


「……あのさ、どうしてここまでしてくれるんだ?」


「え?」


「仲間だけど、その、ミスティは俺に随分と良くしてくれるから……年上だからってことなのか?」

「――! そ、その、えっと」


 最近、妙にミスティールが気になっていた。

 そこで、こうして二人きりの時にクライは訊ねておきたかった。勘違いだけは避けたかったというのが本心だし、勘違いでなければ、彼女の気持ちを受け止めたいと思っていた。


「あの、笑わないでくださいね」

「もちろんだよ」



「えっと、その……クライさんの事が、特別、だからですよ」



「……え?」


 ドクン――。


 こんなことを言われたのは初めてだった。心臓が跳ね上がるような感覚に襲われ、急激に顔が熱くなり、頭も熱くなってきた。


「と、特別って……」



「言わせないでください……好きってことです」



 そう言ってミスティールは耳まで赤くして俯いていた。

 これ、本気なのか?


「好きって、本当に?」

「はい。本当です。……それじゃなきゃ、アタックしません」


 そうか。

 ミスティールが妙に積極的だったのは、アタックだったのか。


「で、でも、クライさんは、恋愛とか興味ありませんよね。わ、忘れてください! これからも一方的に――」


「そんなこと、ないけど」

「え?」


 顔から火が出そう。

 そんな恋愛にまつわる詩を読んだ記憶がある。

 まさにそれだった。詩人は嘘をついていない。


「え、え、ええっと、あの、クライさん?」


 ミスティールは目を回し、頭から蒸気が出そうな程に真っ赤になっている。

 きっと、両者同じだろう。

 クライはそう思いながらも、ここ最近の感情を言葉にしたかった。


『恋愛は、勢いが大事なんだよ!』


 いつか、マリーがそんなアドバイスをくれた。


 俺には関係ないと思ってたけど、ミスティールとなら……最近はそう思っていた。

 彼女といる時間が安らげて、幸せに感じていた。

 探求団の中で信頼を置く程度に差はつけてない。

 メアリなんかは信頼の塊だ。しかし、この感情はそんなものじゃなかった。



「ミスティ、その、俺も好きだ。お前の事」



「……へ?」


 ガンッ!

 ミスティールは頭をテーブルに打ち付ける。


「い、いたい……夢じゃない」

「ミスティ、大丈夫か?」


「だ、だだだ大丈夫、です。あ、あの! 今の言葉、本心、ですか?」

「そりゃあ、嘘で言いたいとは思わないな」



「~~~~! じゃ、じゃあ! わたしと結婚を前提に、お付き合いしてくれませんか!?」



「そ、それ、そっちが言うのか?」


「あ、あわわ、そうでした。男性の見せ場を取ってしまって、でで、でも、気持ちが先行したといいますか、その……えっと」


 大慌てでアタフタするミスティールを見て、クライは思わず吹き出しそうになる。


「――! あ、クライさん笑ってませんか?」

「いや、そんなことないぞ」


「絶対笑ってます! うぅ、初めて告白されたのにぃぃ」


「お互い、心に残るシーンになったな」

「……そう、ですね」


 ミスティールは告白に憧れがあったのか、少しだけ不満そうだった。

 それを見たクライは、彼女の目をしっかりと見つめ、先程の返事をすることにした。


「え、ど、どうしたんですか? 朝食の食べ残し、ついてますか?」

「違うよ。さっきの、俺からお願いしたくて。……付き合って、くれませんか?」


「~~~~! も、もちろんです!」


「え、えっと、これで俺達はカップルというものになったのか?」


「そ、そうですね。空想上のアレになってしまいましたね! 嬉しいです! しかも相手がクライさんだなんて、感動です!」


 少々大袈裟だが、ミスティールが浮くほどに嬉しそうな顔をしており、クライも心が和まされる。



「あ、そうだ。カップルになりましたけど、どうしましょうか」

「なにが?」


「メンバーの方々に、教えますか?」

「……まあ、帰ってきたら教えた方がいいよな」


「で、ですね。あ、えっと、今後とも末永く、お願いします」

「こ、こちらこそ」


 こうして、クライとミスティールが付き合うこととなった。

 二人は知らない。

 後に自分たちがバカップルと呼ばれる程、妬みの視線を一挙に集めるようなアツアツカップルになることを。



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