第一章31 『暇を持て余す』
「よし、そろそろギルドで技術を学んでくる必要がありそうだな」
いつものように新緑のダンジョンで経験を積んでいる夢幻の探求団。
初回に比べると深い階層まで辿り着けるようになったが、ここから先は魔物も手強くなってくる。初心者向けのダンジョンだが、最下層への道のりは、厳しいものだ。
それを知っているクライは、このタイミングでギルドでの修練を提案した。
「さらに強くなるってことだね! 賛成!」
「わたしも、賛成です」
「異論はない」
「これで俺様は、更に誰も寄せ付けない曲芸師になれそうだな」
「ぼ、僕も、賛成です」
全会一致で認められ、翌日はギルドとなった。
「……」
何しようかな、明日から数日。
こうなるとクライが暇になるのは当然。クライは修行することもなく、彼らがギルドへ行っている最中、宿舎で留守番となるからだ。
クライはそれを想像し、溜息をついた。
前なら、ずっと一人でも平気だったんだけどな。
変わりつつある自分に、喜びと戸惑いを覚えたが、予定は明日になってから考えることにした。
そして翌日。メアリたちをギルドへと送り届け、クライは一人になった。
「……暇だ」
そう感じることは、一人の時にはなかった。あの時は周りの事もどうでもよかったから、家で何もしないでいても平気という、以上過ぎる精神状態だった。
「とりあえず、帰るか」
そう思って宿舎に戻ると、更に寂しくなった。
「……静かだ」
部屋から中庭を眺めてみても、アスカが素振りをしていない。
アスカのポテンシャルは高い。前衛としての能力は他の探求団と比べても、遜色ないだろう。これからさらに経験を積み、上級ギルドに所属するようになれば、きっと彼女は戦力として十分に活躍できる。
「――ハッ!」
中庭を見ていただけで、またしてもいつもの様にメンバーの事を考えていた。
「いかんな。こういう時くらい、リフレッシュしたいんだが」
いつもならこの時間帯の宿舎は騒がしい。休みの日だと、レクシスは外にシェドを連れて遊びに行き、夕方まで帰ってこない。どこで何をしてんだか。
だが、あの二人が仲良くなるのは意外だったな。
シェドも嫌がってるようには見えないし、二人は特にトリッキーな立ち位置にいるから、連携の機会も多い。団にとって面白い戦術を可能にさせる二人だ。
「――! だ、駄目だ……」
またしてもメンバーの事を考えてしまっている。
ぐぎゅるるる……。
「お腹空いたな。……久しぶりに料理でもするか」
そう思って一回のキッチンへと向かう。
しかし、そこに来て思い出した。
「そういえば――」
『クライさん、わたしがいない時の為に、食事を作り置きしておきましたよ。継続魔法クーラーに入ってるので、取り出して食べてくださいね』
「……あった」
魔法冷蔵、食材を冷やしておくための魔法道具。一家に一台の優れもので、開発者はクライの知り合い。大手探求団の研究者だ。
クライはミスティールが作り置きしてくれた料理を同じく魔法道具「継続魔法ヒーター」で温め、昼食にする。
「……うまい」
最近はミスティールの料理ばかり食べていて、以前の食生活とはわけが違う。
ミスティールとは、団の中でも仲良くしている方だ。というより、彼女から話しかけてきたりすることが多い。
彼女は冷静な判断力と、広い視野を持っていて、優秀な少女だ。
「守って、やらんとな……」
そう思わせる少女で、最近なぜか彼女が気になってしまう。
「ご馳走様……」
昼食の後は、やることもなく、リフレッシュするのを諦め、これからの計画を練っていた。
ちなみに、ダンジョン計画はメアリに一任されており、クライの役目となっている。
「コヤードは、そろそろ最終階層か」
何が待っているのかは知っているが、メンバーにも最終階層は見てほしい。
最近の探求者は、財宝や名誉ばかりを追い求めてるから、クライの様に昔の探求者の感動を味わってもらいたかった。
「最終階層となると、ダンジョン一泊は覚悟する必要があるけど、みんな初めてだからな。出来る限り考慮してやらないと」
新緑のダンジョンに挑み続けて、二か月。
初心者脱却は完了した。次にしなければならないことは、一つ。
ダンジョンの踏破だ。
しかし踏破と言っても、既に踏破されたダンジョンの場合はカウントされない。加えて財宝はなくなっている。
それが嫌で、ほとんどの探求団は未踏破のダンジョンを狙う。
そして返り討ちにあう。このケースが多い。
「段階を踏まなきゃな……」
その段階は、かなり踏んだ。
今回の修業で技術を得て、一度は試しにダンジョンで技術を使用する。
その次だろうな。タイミングとしては、そこがベスト。
「よし。これで行くか」
メアリが帰ってきたら、早速全員で相談する。
目標は、コヤードの踏破だ。