第一章30 『記念パーティー』
クライ達は順調にダンジョンを進んでいき、少しずつ探求者として上達してきた。
収入も安定し、ようやく定休を定めることができ、初心者脱却となる。
そして今日は、その記念すべき最初の定休日だ。
初日ということもあり、クライはいつものように朝食を食べ終えると、夕方の今まで戦略構想に明け暮れていた。
いつもならミスティールやメアリが部屋に遊びに来るのだが、珍しく来なかった。
そう思った束の間――。
「クライ! リビング集合だよ!」
「……急になんだ。用件を言ってくれ。今は忙し――」
「細かいなぁ、そんなことは後でいいからさ、早く来てよ!」
「そんなの事って、ちょ、おい!」
ぐいっ!
クライはメアリに腕を引かれ、部屋を出る。
すると、鼻を刺激してくる香ばしい匂いがしてきた。
「これって――」
一階へと下りてくると、リビングがいつの間にかパーティ会場の様に飾りつけしてあり、随分と華やかになっていた。
「あ、クライさん。こっちに座ってください」
「わ、わかった」
リビングの変化に戸惑っていたクライは、ミスティールに促されて席に着く。
既に他のメンバーは席に着いており、随分と美味しそうな料理を前にして、なぜかこちらを見てきた。
「……な、なんだ?」
「みんな、せぇ~の!!」
『支配者クラス、防衛おめでとう!』
パチパチパチパチ!
声をそろえた祝福と同時に、拍手が巻き起こる。
「これ、わざわざ俺の為に?」
「えっへん。私が考えたんだよ」
メアリが自慢げに胸を反らす。
いつの間にこんな……。
「正式にお祝いしてなかったので、メアリちゃんの提案もあって、みんなでお金を出しあったんです。料理は全部、わたしが腕を振るいましたよ」
テーブルの上には湯気の立った美味しそうな料理が数々並んでいた。
肉料理から魚料理、野菜に様々な種類のパンが置かれており、豊富なラインナップに驚かされる。
「んで、リビングの飾りつけはレクシス達がやったんだよ」
「そうっすよ、兄貴! な、シェド」
「は、はい……頑張りました」
シェドが恥ずかしそうに、レクシスは相変わらず自慢げにしている。
朝食の後から、ずっと飾りつけをしてたのか。
「アスカは、何かしたのか?」
試しに訊ねてみると、アスカはフッと笑うだけだった。
あれはきっと、何もしてないな。
「クライ、どうかな? 喜んでくれた?」
「そりゃあ、もちろん。こうやって祝ってもらえたら、嬉しくないなんて、ありえん」
周りの視線が無かったら、涙が出そうだ。
「よおし、クライも喜んでくれたみたいだし、さっそく乾杯しようよ! ミスティ、あれ持ってきて!」
「うん、わかった」
「……乾杯って、まだお前ら未成年だろ?」
「そこはほら、果物ジュースだよ!」
そう言ってイタズラっぽくメアリは笑う。
メアリの合図で席を立ったミスティールは、ガラス瓶を持ってきてその中に入っている紫色の液体を各人のグラスに注いでいく。
「はい、クライさん」
「あ、ああ。ありがとう」
これ、本当にジュースだろうな。
クライはグラスを手に取って匂いを嗅いでみる。果物の香りだ。
「大丈夫ですよ。わたしが買ってきた果物で作ったものですから」
クライが怪しんでいると、ミスティールは耳打ちするように小声で教えてくれた。
「あ、ミスティ! 近すぎ!」
「そ、そんなことないですよ~~」
そう言ってミスティールは顔を少し赤らめて席に戻る。
「むぅ、なぁんか最近、二人の距離が近い気がするなぁ」
メアリが疑うように半目になる。
「まあまあ団長、兄貴とミスティはお似合いカップルだし、そんなにヤキモチ焼くことじゃ――へぶっ!」
「レクシスさん!?」
レクシスが後ろにぶっ倒れ、隣に座っていたシェドが驚いて寄り添っている。
その元凶は……。
「あ、ごめん。手が滑っちゃった」
メアリの手元にあったナプキンが、丸めた状態でレクシスに命中した。
絶対にワザとだ。
「はぁ……なにしてんだよ。俺の祝いじゃないのか?」
「んなっ! そもそも、クライがはっきりしないからじゃん!」
なんのこっちゃ。
「あ、あの、料理も冷めてしまいますから、早く食べませんか?」
「それもそうだな。いただくとしよう」
アスカは待ちきれなかったようで、とっとと食事を開始する。
「あ、ちょっと皆さん! レクシスさんがまだ――」
「ま、魔球を見たんだ。本当さ……」
「レクシスさああん!」
「おい、メアリ。治してやれよ」
「ふふん。このタイミングじゃないよ。私はお高い僧侶だからね、状況とタイミングは自分で決めるよ」
あっそ。
……なんか、いいよな。こういうの。
「ふふっ」
「クライ?」「クライさん?」
「いや、なんでもない。ちょっと面白くてな」
そう言うとメアリとミスティールは顔を見合わせ、アスカは食事の手を止め、レクシスは起き上がり、シェドもこちらを見ていた。
「……なんだよ」
「い、いえ。クライさんも面白いって思うことあるんですね」
「どういう意味だ、それ」
「わ、悪い意味じゃないです!」
そうは聞こえないんだけどな。
「ふふっ、クライも楽しんでるみたいだし、なによりだよ!」
「あ、はい。そうです!」
「防衛おめでとう」
「おめでとうございます!」
「兄貴も、今夜ばっかりは羽目外して楽しもうぜ!」
なぜかみんなが一斉に元気になり、こちらも感化され、パーティーは再開した。
みんなで食べて飲んで笑って、とても楽しい一日となった。