第一章2 『ある少女の第一歩』
ダンジョンに挑むには、国家間で定められた条件を満たす必要がある。
まず一つ、探求者が六名以上で構成される「探求団」に所属している事。
これはつまり、仲間と自身を合わせて六名以上のチームでなければ、ダンジョンの目の前で止められるということだ。
この条件は、無謀な挑戦者を堰き止めるための措置で、ダンジョンが出現した当初というのは、命を絶つ者が圧倒的に多かったという。
そしてもう一つ「ギルド」と呼ばれる職人施設に所属すること。
そこで徒弟となり、師範から技を習うことで、探求者はダンジョンの中で魔物と対峙しても戦うことができる。ギルドには下級と上級があり、経験を積むことでより多くの技を教えてもらえる。
ちなみにこの二つの条件は、探求者の生存率を伸ばすためのものだ。
王国側も、ダンジョンに挑む挑戦者が増えて死んでいったせいで、国を動かすことができないという事態を回避しなくてはならなかった。
「――わかったか? つまりそういうことなんだよ、お嬢さん」
「そ、そうだったんですか……知らなかった」
「ほら、この資料読んで、本当に探求者になりたいなら、ちゃんと考えな」
「はぁい」
一人の少女が、ダンジョンの入り口で門前払いにあった。
綺麗な黒い瞳で、瞳と同じ色の髪をなびかせる町娘の格好をした少女。身長はそれほどなく、顔立ちは幼さが残っており、体つきは華奢だった。
「はぁ……せっかく居候先も確保してこれからなのに、ルールがあったなんて」
彼女はトボトボ引き返し、街に戻って食事をとることにした。
手近な店に入り、好物のピザを注文すると、それが運ばれてから資料に目を通す。
「まずはギルドかな。えぇと、もらった資料によると……」
それによると、下級ギルドは8。上級ギルドは14もあった。
少女は片手でピザを持ちながら、もう一方の手に資料を持つ。
「はにはに? ごくん。えぇと『上級ギルドの門を叩くには、下級ギルドで師範に認められなければならない。初心者の君は、まず仲間を集めるのよりも先に下級ギルドに所属し、戦う力を身に着けなければならない』かぁ……」
『スタートダッシュ探求者。これを読めば、キミも明日から探求者だ』と書かれた資料には、下級ギルドの詳細しか載っていなかった。
騎士・戦士・狩人・僧侶・占い師・盗賊・曲芸師・戦術士。これが下級ギルドの種類だ。
「どれがいいのかなぁ……あ」
悩んでいると、ページの続きがあることに気が付く。
「うーんと、『チームの柱は治療が可能な僧侶。僧侶を選んでおけば、自分の治療も出来て生存率もグンと上がる! もう一つオススメなのは戦術士。リーダーに求められる指導力を得ることができる。探求団を起ち上げたいキミにはこれがおすすめ!』……成程」
頼んであったピザを平らげて、少女は席を立つ。
「まずは何より、ギルドに入って徒弟になろう!」
息込んで、一度居候している家に戻って事情を説明してから、荷物をまとめて広場へと戻り、この街にあるギルド施設へと足を運んだ。
ギルドは各国の首都にあるらしく、どの施設でも等しく力を習得できるため、グレンタの首都を拠点としている彼女にとっては、ここしかない。
ギルド施設は簡素な受付と、各施設へと通じている扉があるだけの空間だった。
「いらっしゃいませ」
受付の女性の所へと歩み寄ると、挨拶された。
「あ、はい」
「ギルドに入会希望でしたら、まずはどのギルドに――」
「僧侶ギルドに入りたいです!」
相手の言葉を遮ってしまったが、女性は不快な顔一つせずに応対してくる。
「そうですか。ではお名前を窺ってもよろしいですか?」
「はい。私の名前は『メアリ=ゴーシュ』です!」
「では、これから――」
受付嬢が続けようとすると、少女は彼女の肩を掴む。
「な、何かご不明な点でも?」
「違います。……この名前、憶えておいてください」
「はい?」
「私がここにいるってこと。そして、私が世界中のダンジョンを制覇するってことです。憶えておいて、損はないと思いますよ」
そう言い切り、彼女――メアリは、ニッカリと笑ってみせ、勢いよく僧侶ギルドの扉へと走って行く。
「では、いってきます!」
今日この日を持って、彼女の物語が始まりを告げる。