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されど彼らはダンジョンに挑む  作者: 新増レン
第一章 「夢幻の探求団」
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第一章27 『支配者を賭けて』


 開始のゴングと共に、クライとベルハは距離を取る。


「考えることは同じですか」

「そうかな?」


 ベルハの言葉に、クライは笑う。


「もう開戦してるんだ。その辺、忘れてると痛い目見るぞ」

「え……」


 ベルハが気づくよりも先に、彼の背後に魔法陣が展開していた。


「攫え、ディープシャドウ」

「――ッ! クイックモーション!」


 ベルハは自身に速度の強化を付加し、突如現れた真っ黒な波をかわして見せた。しかし、これは予想通りの動き。


「二手三手先を読んでも無駄だぞ」

「なっ!」


 ベルハの脱出した場所には、既にクライが剣を構えていた。


「俺なら、十手先は常に読んでおく」

「くそっ!」


 ベルハは剣を咄嗟に抜き取り、そのままクライに斬りかかろうとする。

 だが、その瞬間、脳裏に迷いが生じた。



「(速度の強化を付加したこちらが脱出するポイントに先回りしていた。でもそれだと、剣戟になった際に、能力を付加されたこちらの方が有利のはず! なのにどうして、こんな。まさか、考えがあるのか? もしや既に付加を終えて――)」



「一瞬、隙が生じたな」

「……!」


 ガシィッ!


「隙は大きなリスクだ。特に、戦術士の立場にしてみればな」


 ベルハの剣が抜き取られるよりも先に、彼の背後から出現した影の腕がベルハを拘束する。


「まさか、背後に……いつの間に」


「さあな。……いくら速度の強化を付加しようと、動けなければ意味がない。筋力の強化もある程度は同時に行っておくべきだった。基礎中の基礎だろう?」


「このっ……(確かに生身で戦う力を持たない戦術士の基礎だけど、あの一瞬でなんて不可能だ!)」


 ベルハが振り解こうとしても、微動だに出来ず、そんなベルハに剣が突きつけられる。


「――!」

「即詰みだ。すまないな。本気を出してしまって」


「ふぅ……降参です」


 剣を突き付けられ、ベルハは降参の意思を示す。これ以上続けるのは愚作。ここだけは彼の判断が正しい。

 こうして、開始から一分としないうちに決着がついた。

 過去最速とも思える決着に、会場は不思議なほど、静寂に包まれていた。



「あ、っと、勝者クライ=フォーベルン!」



 あっという間の決着にアナウンサーも驚いていたが、その言葉に会場から声が漏れてきた。

 そんな不思議な空間の中、拘束を解かれたベルハは、悔しそうではなく清々しいといったような表情でクライを見上げる。



「先程の、初手で決めていたんですね。ディープシャドウは影魔法の一種、影魔法の特徴は辺りに撒き散らした影から魔法陣を発生させることができる点にあります。視線を回避に向けて、こちらが逃げる先にバインドを仕組んでおいた。という感じですか?」



「概ね、その通りだな」


「はぁ……あなたがこの魔法の使い手と知っていながら、何もできなかった。……完敗です。これが、あなたの本気ですか」


「悪いな。今回は負けたくなかった」

「きつい言葉だ……」

「次の挑戦、待ってるぞ」


 それだけを告げ、クライは舞台から引き下がっていこうとする。

 その間際、静寂に包まれる会場に大声が響き渡った。



「クライイイイイ! さいこおおおお!」

「クライさん! カッコよかったです!」

「さすがだ! おめでとう! あとで一騎打ちしてくれ!」

「兄貴イイイイ! 最高だぜえええええ!」

「ちょ、みなさん!」



 一際大きく、周りの視線も無視してこちらに声援を送ってくる恥じらいの無い五名を見て、クライは苦笑いを浮かべる。


「あいつら……」


 観客席の一番上、特別席から歓声を送ってくる彼らに、クライは無言で拳を突き上げ、それに応えた。


「クライさん!」

「……?」


 そのまま去ろうとすると、ベルハが声をかけてきた。


「勉強になりました! 手合せ、ありがとうございました!」

「……ああ。次は期待してる」

「はい!」


 そして今度こそ、クライはその場を後にした。



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