第一章22 『強烈な出会い』
「ほら見ろよシェド! 夜の街は最高だろ! 俺様達を照らす闇の星と光り輝く魔法ネオンの灯り。くぅぅぅう! たぎってくるなぁ!」
「あ、あの、レクシスさん。さすがに宿舎に戻った方が……あ、明日のこともありますし」
「いいってことよ! ここは男同士の付き合いだ」
夜の街中を歩くのはレクシスとシェドの二人だ。
レクシスが無理矢理肩を組んで、アンバランスに歩いている。
「男同士の付き合いなら、クライさんも呼んだ方が……」
「いいんだよ。兄貴には団長やミスティちゃんがいるじゃん? あの二人の目は、恋する乙女の目なんだ。兄貴はもう、幸せを手に入れてんのさ」
「そ、そうだったんですか」
「お前も男なら、ナヨナヨしてないで恋の一つでもしてみるしかねえって。世界変わるぞ」
「そんなものなんですか?」
「まーな」
いかにも適当に思い付きの言葉を並べていた気がしたがシェドは言及せず、レクシスに付き合うことにした。
レクシスに連れられてやってきたのは、男性向けの店だった。
「れれれレクシスさん! ここって!」
「おうよ。金を払って可愛い女の子と話したり遊べたりする場所だ」
「か、帰ります! 急用です!」
「いいからいいから。あ、二人ね」
「レクシスさんんんんん!」
十分後――。
「ねぇボク? お姉さんと遊ぶ?」
「け、けけけっこうです」
「あら、可愛いわねぇ。レクちゃんの友達?」
「(レクちゃん!? も、もしかして常連?)」
「もー友達超えてっし。超越してっし。マブよマブ」
「きゃ~~!」
黄色い声援が飛び交う桃色の空間。
そこには露出度の高い衣装を着た女性たちが大勢いて、テーブルを囲んだソファに座らされている。
今日ほど、シェドはクライ達に助けを求めたいと思った日はない。
「あっはっはっはっは!」
陽気に笑うレクシス。緊張で固まったシェド。
そんな二人の元に、客の一人がやって来た。
「おい、お前さん達。少しいいか?」
「え?」「あ?」
立っていたのは風貌だけで威圧されそうな大男。
「――! え、あんた……」
「きゃあああ! 本物よぉおお!」
その顔を二人は知っている。周りの女性たちも当然知っていて、彼はサイン攻めにあっていた。
その男を知らない者は、この世界にいない。
彼こそが最強の男にして最強の探求者、カイウス=ベルベットだ。
「同席、したいんだがね」
同刻。
夕食を終えたメアリとアスカは、満足感を得たまま店を出る。
「いやぁ、食べたねぇ」
「うむ。また来たいな。今度は皆で来よう」
「あ、それいいかも。ふふっ」
二人で談笑しながら大通りを歩き、宿舎へと戻ろうとする。
「……! 団長、下がれ」
「え……どうしたの?」
すると、アスカは何者かの視線にすぐ気が付き、メアリの前に庇うように立った。
人気の少ない道。確かに視線を感じていた。
「何者だ? 姿を現せ」
暗闇に向かってアスカが言うと、小さく笑う声が聞こえた。
「ふふっ。さすがは、あの方が組もうと決めた者達です」
「え、あなたは――」
暗闇から姿を現した人物に、メアリは驚いた。
アスカは警戒心を剥き出しにしていたが、その正体を見て警戒を解く。
「どうして、あなたのような方がここに?」
アスカが問いかけると、彼女は持っていた杖を地面にトンとつく。
シャリーン。
綺麗な音色が響き、静かに風が吹いた。
まるで彼女が操っているかのようで、彼女の髪がなびく姿は夜には幻想的だった。
そしてようやく、彼女は口を開く。
「少し、あなた方と話がありまして」
「話? わざわざリリーゼ=メルフォルンが話?」
アスカが訝しむと、メアリは一歩前に出た。
「団長?」
「聞いてみようよ。クライの事、ですよね? このタイミングで面識の薄いリリーゼさんから話があるなら、それしかありません」
「その通りです。どうやら、少しは利口な方の様で安心しました。お時間、よろしいですか?」
「大丈夫です。アスカは先に帰っても――」
「いや、一緒に聞こう。団長一人を残すわけにはいかない」
「……ありがと。それで話って?」
「はい。実は、既に存じているかもしれませんが、私と彼は旧知の仲なのです。もう一人の友人であるカイウス様を加えて、クライ様と私達はよく遊んでいましたの」
「カイウス……カイウスって!」
メアリもアスカも目を丸くする。
カイウスの名前を聞けば、当然の反応だ。
「ご想像通りの、カイウス様ですよ」
「そ、そのような大物とまで知り合いだったとは……」
「さすがクライだね!」
その反応を見て、リリーゼは少し笑みを浮かべる。
「当時は探求者も多くなく、私方も有名ではありませんでしたから。ですが、いつからか私方は変わりました。多くのメンバーを集い、効率よくダンジョンを探索するようになっていったのです」
「……!」
「それは、生存率を上げるための策じゃ……」
「ご存知でしたか」
「前の団で口うるさく言われたので」
アスカがぶっきらぼうに言う。あまり良い思い出ではないらしい。
「しかし、クライ様方は変わらなかった。六人でダンジョンに挑み続け、伝説とまで呼ばれました。……今日、この日にお二方に会いに来たのは他でもありません。彼の事を、頼みに来たのです」
「頼みに?」
「はい……」