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されど彼らはダンジョンに挑む  作者: 新増レン
第一章 「夢幻の探求団」
22/47

第一章21 『ミスティール=アリエッタ』

 

 夢幻の探求団の休日。

 メンバーが外出する中、クライとミスティールは宿舎に残っていた。


「みんな、外で済ませていそうですね」

「そうだな」


 こちらは宿舎。夕方になり、クライは作業を中断してミスティールと食卓を囲んだ。


「食べましょうか?」

「ああ」

「「いただきます」」

 二人で手を合わせて食事を始める。


 向かい合っているだけで、どことなく空気が硬い気がしたが、会話に花が咲くことなく無言のまま食事が進んでいく。


「「(な、なにか話題を!)」」


 二人して話題に困る中、ミスティールがあることを思い出した。


「そ、そういえば、団の連携もスムーズになってきましたよね」

「あ、ああ。最初は酷かったけど、最近じゃ様になってきてる」

「これも、クライさんのおかげですよね」

「違う。これはみんなの――」


「いえ、クライさんのおかげです。わたしの称賛くらい受け取ってください」


「ご、ごめん」

「ふふっ」


 笑顔をみせるミスティールはとても印象的で、心が洗われるようだった。

 クライは少しだけ見惚れ、恥ずかしくなってスープをすすった。


「――うまい」

「ほ、ほんとですか?」

「ああ。こんなスープ、飲んだことない。いつも出してくれればいいのに」

「あ、あはは。今日はちょっと奮発しちゃったので」


「え?」

「あ、いえ。気持ちの方です」


 どういう意味だ?

 クライは首を傾げる。それを見てミスティールは少し肩を撫で下ろしていた。

 互いの変な緊張も解け、それからは会話に花が咲いた。


「ところで、ミスティは生活に慣れたか?」

「はい。すごく楽しいです」

「そうか。それはよかった」

「あの、クライさんはどうですか?」


「俺? 俺は……楽しいよ。こんな俺を慕ってくれる人がいて、頼ってくれる仲間がいる。こんなに幸せな事はない」

「クライさん……」


 ミスティールは何か考え込んでから、真剣な表情を向けてくる。


「あ、あの。クライさんには話しておきたいことがあって」

「ん? どうしたんだ? 妙に改まって」


「実は、わたしが探求者になった理由、クライさんにだけは話しておきたくて」


 それを聞いて少し驚いた。

 ずっと気になっていたが、まさか自分から話してくれるとは。


「いいのか? 他の連中には、話したくないみたいだけど」

「クライさんなら、平気です」

「……わかった。教えてくれ」

 ミスティールは、ゆっくりと話し始める。



「わたしは北の王国の生まれなんです。都から離れた田舎町に住んでいて、弟と妹がいます。常に雪景色、そんな町で生まれて、わたしは両親から愛情をたくさん受け取りました。

 でも、数年前に父が他界して、それまでも苦しかった生活が、さらに苦しくなってしまって――」



「それで、探求者を目指したのか?」

「はい。探求者は人によりけりですけど、高収入ですから」


 確かに、探求者は普通の食よりも稼ぎやすい。

 だがそれは、競争が発生し、命懸けだからという理由もある。

 博打と呼んでも、否定できない職業だ。


「探求者になったのは、家族の為ってことか」

「そう、なります。え、えと、理由はもう一つあって、早く結婚したいということも」

「け、結婚?」



「母に、楽になってほしくて……。え、えっと、これまで稼いだお金は少しずつ故郷に送ってるんですけど、やっぱり、結婚して母を安心させたいんです。た、探求者になるために都に出て、結婚相手も探すつもりで……」



 女の子は、そういうものなのか。

 メアリやマリー、アスカからは想像できないな。


「一つ、質問したいんだけど、いいか?」

「あ、はい。どぞ」


「どうして、東の王国を選んだんだ? 北の王国にも探求団の仲介所はあっただろ?」


「えっと、それは……いくつかの仲介所を回っていたので」

「もしかして、他の王国でも?」


「はい。声をかけられたりすることはあったんですけど、わたしその、田舎者ですし、ちょっと怖くて」

 なんとなく、その気持ちは分かる。


 故郷から出てきて、いきなり経験者ばかりの探求団に入るのは度胸がいる。

 それに、男ばかりの団に入りたがる子は少ないだろう。

 探求者という職業は七割が男性で、混合で団を作っているのは大手とここくらいものだ。

 大体の女性探求者は、女性限定で団を作ったりする。


「そ、それに、探求団には多くの人がいますし、やっていけるのかも不安なんですけど――」


 なるほど、そういうことか。


「それは、良い判断だな」

「え……」

「大人数の探求団は、分配される報酬が少ない。そう思ったんだろ」

「――! はい、そうなんです」



「確かに大人数だと、そういう問題って多いんだよ。特に報酬の分配で揉めたら最後、団として機能しない。

 大人数はダンジョン探索が安全になる反面、団内の管理が難しいんだ。有名な大手の探求団は上手く機能してるが、経験の少ない大人数の探求団は自滅しやすい」



「そ、そうだったんですね。よかった」

 ミスティールはホッと肩を撫で下ろす。


「――それでも、中規模の女性探求団もあっただろ。ああいう所なら、きっと上手く機能するし楽して稼げたと思うぞ」

「そ、それも考えたんですけど……それ以上に、ここに入りたかったんです」


「……理由を、聞いてもいいのか?」

「もちろんです。ここは団長の方が女性で、しかも人数制限があって、退団させられないって書いてあったので、すぐに決めちゃいました」


 確か、そんな募集条件って聞いたな。今思えば無茶苦茶だ。

 きっと、レクシス辺りは退団させないって所に惹かれたんだろうな。

 しかし――。


「俺がいても、よかったのか?」


「えと、ちょっと怖かったです。でも、話したこともないのに怖がるのは、失礼だと思って」

「――!」

「今は、ここでよかったです。クライさんとも、こんなに楽しく話せるようになりましたし」

「……人格者だな、ミスティは」

「そ、そうですか?」


「ああ。なんか感動した。……俺も手伝うよ」

「え?」


 何の事かわからない。

 ミスティールの顔にそう書いてあった。


「ミスティに報酬を少し渡すってことだよ。他の連中には内緒だぞ」

「え、え、え!? そ、そんなの駄目ですよ!」

「だって、このままだとミスティが自由に使う小遣いがなくなるだろ」

「そ、それは……」


「協力させてくれ。もうミスティは、それ以上のものを俺にくれてるんだ」

「クライさん……」


「秘密の約束、だな」

「――! はいっ!」


 こうしてクライとミスティールの距離は、人知れず縮まった。




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