第一章19 『休日の過ごし方』
メアリは私服に着替えて宿舎の広間に戻る。
しかし、クライの姿はなかった。
「あれ? クライ、どこ行ったんだろ。アスカ、知らない?」
中庭で素振りをしているアスカに話しかけると、彼女は首を横に振った。
「見かけてないな。他の男どもは町に行ったらしいが」
「そっかぁ。折角デートしようと思ったのに」
「ほぅ。興味深いな」
ブンッ!
素振りを続けながら、アスカが話し相手になる。
「団長と彼はそういう関係だったのか?」
「ち、違うよ! そりゃあ願望はあるけどさ。デートって言ってもショッピングしたかっただけだし。……あ、そうだ。ミスティは?」
「ミスティールなら、まだ宿舎にいるだろう。出て行くのを見ていない」
「それならさ、アスカも一緒に行こうよ!」
「え?」
メアリは満面の笑みを浮かべる。
しかしミスティールの部屋に向かうと、彼女は部屋にもいなかった。
「あれ? 変だなぁ」
「彼女の事だ。買い出しに行ったのかもしれない」
「それもそうだね。じゃあ、アスカと二人で行こう」
「……あたしには鍛錬が」
「たまには息抜き! ほら!」
「――!」
メアリは強引にアスカの手を引き、そのまま宿舎を勢いよく出る。
しかし直後、アスカが手を振りほどいた。
「な、何をする! いくらなんでも、この恰好というわけにはいかない!」
アスカの今の格好は鍛練着。いつもは鎧の下に着るような薄いシャツとパンツで、宿舎の外を歩けば色々な意味で視線を集めそうだった。
「そ、そうだね。ごめん」
「……支度してくる。待っていてくれ」
「うん!」
その数分後、見慣れない武装解除したアスカが出てきた。
普段からは想像できない清楚でお嬢様のような気品ある服。これはメアリにも予想できなかった。
「わぁ……! アスカ、美人さんだ」
「?! せ、世辞はいらん!!」
「本当だもん。いいなぁ、高身長でスタイル良くて……はぁ」
「団長もすぐになれる」
「そ、そうだよね。じゃ、いこっか」
「ああ」
他のメンバーが目撃したらギョッとするような組み合わせで、メアリとアスカは買い物へと出かけて行った。
一方、ミスティールはまだ宿舎にいる。
自分の部屋ではなく、クライの部屋にいた。
「いいのか? 休日なのに出かけなくて」
「そっくりそのまま返します」
「……俺はいいんだ」
「じゃあ、わたしもです。ふふっ」
ミスティールはクライが部屋で作業すると踏んで、クライの部屋にお邪魔し、編み物をしていた。
「ミスティって、メアリみたいに変わってるな」
「そうですか?」
「俺に執拗に構いすぎてる」
「……そうかもしれないですね。でもでも、メアリちゃんとは違いますよ」
そう言うと、クライはキョトンとした顔をする。
「当り前だ。癖も性格も違う」
「……む」
「ど、どうした? なんで急に不機嫌になってるんだ?」
「ふんっ、そんなんじゃ結婚は難しそうですね」
「結婚? な、なんの話だ?」
「こっちの話です」
ミスティールの言葉にクライは戸惑っていたが、ミスティールは敢えて何も言わない。
あの日、彼が人知れず皆の事を考えていた姿を見て、気になってしまったなんて、絶対に言えなかった。
「さてと、今日の夕飯はどうしたらいいですかね?」
「外で食べる人もいるだろうけど、作ってくれるなら嬉しいかな」
「……! わ、わかりました。クライさんに作ってあげますね。あ、アスカさんもいますから勘違いしちゃ駄目ですよ?」
「……? わ、わかった」
「ふふっ。でも、もすこしだけ、ここにいますね」
「どうぞ、ご自由に」
少しだけ茶化すような口調でクライが言った。
ミスティールは「言われなくても」と口に出さず、彼が机に向かう姿を見ながら、編み物を再開した。