第一章1 『死神の日常』
「おい、あれって」
「ああ。我らが死神様だよ」
「話しかけてみろよ」
「嫌よ、縁起でもない。魔物に食い殺されるでしょ?」
「……」
ここロストフォルセは、五つの王国から成る世界。
かつては王国間で戦争を繰り返していたが、近年はダンジョンの出現や国民の組織化により、王国側も協力体制を取っている。
国の協力もあり、探求団に所属する探求者はダンジョンで得た戦利品の一割を国に寄付することで、自由な探索と居住を認められ、各国間の往来にも許可証は必要なくなった。
死神「クライ=フォーベルン」は西の王国「グレンタ」の首都に暮らしている。
そこは石畳の美しい街で、観光客も多ければ、探求者たちも多い。近くにはグレンタのダンジョンも多く存在し、拠点として住み着く者は多かった。
クライも、その一人だ。
彼は有名人で、他の国からわざわざ見物しに来る探求者もいる。中には、チームが全滅しないように反面的なお守り代わりに見物する者もいた。
些細な注目に気にせず、クライは大通りを抜けて街の外れの家に帰る。
いつものように、誰とも話さず、誰とも接することの無い孤独な世界。
「……ただいま」
クライはボソッと呟いて、食事を喉に通すと、そのまま眠りについた。
このような無味無臭で張り合いの無い生活が四年も続いていた。
四年は長かった。
探求者として溜めておいた資金がなければ、クライはとっくに野垂れ死んでいただろう。
クライは仲間のいない世界でも、なぜか生に執着した。
彼女の死に際の言葉を聞いていなければどうだったかわからないが、それでもきっと、クライは延命を選んでいただろう。
だが、それももう、あと一年で終わりそうだった。
資金も底を尽きる計算で、そこから先は何も食わず、何も飲まず、この家も追い出された生活となり、やがては朽ち果てる。
その時を待っているわけではないが、探求者である以上、ダンジョンに行く以外に稼ぐ方法はない。
そして、探求者を辞める覚悟も何かをする意欲もなく、うだうだと資格の延長だけを続けてきた。
眠りについた闇の中でも、クライは同じ夢を見続ける。
そして時折、バッと起き上がり夢だと気付く。
「……くそ」
言葉を吐き捨てて横になるが、目が冴えていた。
夢の中、また仲間たちが死んだ。これで何百人死んだか。
あの時、もっとこうしていれば。そんな後悔の念は拭おうとしても消えることが無く、夢で見るたびに自分を責めて、もう摩耗しきった心では、涙すら出てこない。
「ごめん、みんな……」
届かない謝罪を口にして、クライはもう一度目を閉じた。
明日になったら、自分が消えていることを祈って。