表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
されど彼らはダンジョンに挑む  作者: 新増レン
第一章 「夢幻の探求団」
17/47

第一章16 『懐かしい顔』


 しばらく歩くと、見知った顔が手頃な木に寄りかかって待っていた。


「クライ、久しぶりだな。エスコート助かったよ」

 小麦色の肌をした高身長の女性だ。


「そっちも元気そうだな」

「おうよ。姫、どこで話すのか決めたか?」


 彼女は「ミカ=クルルサ」。

 リリーゼの付き人で、世話役の女性。男勝りで鋼のように美しく、戦う姿は屈強の男でも恐怖する。

 彼女も十二神に数えられており、またの名を「神速の雪豹」と呼ばれる凄腕の探求者だ。リリーゼとは正反対で女性のファンが多い。


「わたくし達の本拠地は遠いですし、その辺でいいでしょう」

「ま、そうなるよな。クライ、お前の噂を聞いて、姫が大変だったんだぜ?」


 その言葉の意味はすぐ分かる。

 彼女達の本拠地は、隣国ラヘイラの首都だった。彼女がここにいるということは、大抵の想像がつく。



「すまん」

「謝るなよ。あたしらの間柄だろ? あっちも姫のワガママにも慣れっこだから、平気さ」

「ふふっ。そうですよ。わたくしの大切な仲間ですから、信用してください」


「姫は、少し反省しろ」

「な、なんでですか!」


 本気でわかっていないようで、やはり変わっていなかった。

 リリーゼはその容姿と強さで、探求者のアイドル的存在。

 しかし本当の姿は、ワガママで天然な、箱入り娘だった。



「こほん。本題に入りましょう」

「ここでいいのか?」

「場所はどうでもよいです。今回は軽い挨拶ですし、近々、拠点を移しますから」

「ミカ、またリリーゼが勝手なこと言ってるぞ」


 忠告するも、ミカは呆れ顔で首を振る。


「仕方ないだろ? お前が復帰したとなればこうなる。うちの連中は、みんな知ってるさ。今だって、引っ越しの準備で忙しい」

「本気か……」

「本気だ。お前だって、薄々勘付いてたろ?」


 まったく気づかなかったわけではないが、確かにリリーゼの性格上、ありえないとは思えなかった。


「そうか――で、話があるんだろ?」

「はい。あなたは知らないでしょうから、報告が一点。カラットのダンジョンを憶えていますよね」

「ああ。嫌という程に憶えてるよ」


 宝石のダンジョン、カラット。そこはクライが仲間を失った場所だ。


「あのダンジョンですが、わたくしと、さる方の意向で封鎖してあります」

「……さる方って」

「ご想像の通りです」

「……」


「王国側に提案し、あのダンジョンに足を踏み入れることができるのは、あなたのみとしています。それを、教えておこうと思いまして」


 ダンジョンの封鎖。普通なら不可能だが、リリーゼと奴が提案すれば、五傑の恩恵に授かっている王国側は頷くしか手段はない。

 特にリリーゼ達「深淵を覗く者」は唯一、王国と提携を結び、探求者の生活環境向上などに関わっている探求団で、信頼も厚い。


「……ありがとう」


「お礼を言われるようなことはしていませんよ。ここから先は、あなたに決定権を委ねているのですから。これほど残酷はことはありません」


「でも、礼を言わせてくれ」

「そうですか」


 最初に出た言葉が、感謝の言葉だった。

 本当なら、近づきたくないほどに憎いが、今はそうではなかった。



「……ふふっ」

「ん? どうした?」

「いえ、こうして話していると、あの頃を思い出します」

「ちょ、姫――!」


 リリーゼの言葉に、今まで見守っていたミカが飛び込んでくるが、リリーゼは続ける。


「大丈夫ですよね、今のあなたなら」

「……え?」


 ミカとリリーゼがこちらを向く。

 リリーゼには、とっくに気づかれていた。

 彼女は元々目が見えていないから、耳だけで全ての状況を把握している。

 その卓越した聴力に、心の声までもが漏れていたのではないかと思ってしまいそうだが、本当にその通りだった。


「団の名前、教えていただけませんか?」

「夢幻の探求団だよ。メアリっていう、俺達のファンが団長で、入った時には名前が決まってた」


「そうですか。……では、今日はこの辺にしておきましょうか」

「もういいのか?」

「ええ。お仲間の方も、そろそろ疲れていそうですし」

「え?」


 リリーゼはそう言ってクライの後ろを指さした。

 すると、慌てて物陰に隠れる影を捉えることができた。


「あいつら……」


「ふふっ。では、またお話ししましょう。前みたいに飲み会なんてどうですか? 誘いますよ? 誘っちゃいます」


 飲み会って、あれのことか。

 ……あいつらとも、会ってないな。

 行って、みたいな。


「わかったよ。……今日はありがとう。少しスッキリした。それと、ごめんな」

「いえ。クライ様が楽になったのなら、良かったです」

「……悪い。じゃあ、またな」

「はい」


 クライは以前のようにリリーゼの手を握り、挨拶とした。

 それからミカにも挨拶し、その場を立ち去ると、前方にメアリとミスティール、レクシスとシェドにアスカまで、全員が揃っているのが見えた。


「あ、クライだ。ぐ、偶然だね。私達今から買い物に――」

「下手か。そんなギルド装束で買い物なんて、もっとマシな嘘にしたほうがいいぞ」

「ご、ごめん」

「……はぁ。待たせたな。帰ろう」

「うんっ!」





 遠巻きに彼らのやり取りを聞いていたリリーゼは、微笑んだ。


「姫、悔しくないのかい?」

「何がですか?」


「とぼけちゃって……クライを最初に誘ったのは、姫だろ」


「ふふっ。あの方には、あの方の生きる場所があります。クライ様が幸せになれるのなら、さすがにワガママは言いませんよ」

「……そうかい」


「ただ、ジェラシーですね」

「嫉妬してるじゃないか」

「もちろん。クライ様は誰にも渡したくないですから。ふふっ、勝負はこれからです」


 リリーゼはそう言って踵を返し、ミカを伴って宿へと向かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ