第一章14 『地獄軍神』
二日目、ダンジョンに早速出向いたクライ達は昨日と同様、ウルフと交戦していた。
本日からは、クライも戦闘に加わっている。
だがクライの仕事は直接的な戦闘ではなく、戦況を見極めて補助や指示をする戦術担当の役割だ。
「アスカ! 二頭目のウルフが来る! そちらにシフト!」
「んなっ! こいつはあたしの獲物だぞ!」
「二頭目の方が体力もある。強者と戦うのが希望なら、二頭目にシフトしろ!」
「……! ふはっ! そう来たか。面白い!」
アスカが指示通り、現れた二頭目のウルフに剣を交える。
彼女は煽る方が効果的だ。
一騎討ちを望んでいるのならそうさせる。こういったタイプはそれがいい。
次にクライが視線を向けたのは、戦列の前線で足を震わせるチャラ男だ。
「レクシス! 手負いの一頭目をやれ!」
「ちょ、ま、待ってくれって!」
「待たん、やれ!! やらないなら、どうなるかわかってるのか?」
「わ、わかったよぉ!」
レクシスは泣きそうな声を上げてからウルフに突っ込んでいき、一撃で仕留める。
「え……」
「よくやった! 三頭目が来るまで警戒!」
「お、おう! ……いま、褒められた? 俺様ってもしかして天才じゃね?」
レクシスに指示を出すのはとても簡単だ。
彼は頭を使うのが苦手で、直感的に動くタイプだったが、昨日の今日でクライの言うことを聞くようになった。
抑圧させるばかりではなく、今のように成果が出るようにしていけば、成長する可能性が大きい。
まあ、図に乗るようなら叩くけどな。
「ミスティ!」
「もうやってます! 三頭目は予測通りですが、次の襲来に警戒します!」
「任せた!」
「はいっ!」
ミスティールは昨日の今日で急激に成長した。
自分で考え、占い師の予測と、自身の推理や観察で状況を以前よりも大きく把握している。
状況を見ながら味方を支援し、動きがとてもよくなっている。
「シェド! 落ち着いてから弓を構えておくんだ!」
「は、はい!」
彼はレクシスとは正反対。
威圧すれば彼の良さが消える。
そこで、緻密な指示を出すのではなく、大まかに指示を出しておく。彼も彼で考えて行動でき、指示の意図を理解して動いてくれた。
「なんか、クライの指示で探求団っぽいね」
「メアリ、警戒を怠るなよ。後ろからの襲撃を見張っておいてくれ」
「大丈夫! 背中は預けたぜ、相棒!」
メアリは、メアリだった。
彼女は指示を出す必要が無い。というより、僧侶として戦術担当の横に立っているため、仲間が大怪我を負わない限りは出番と動きが少ない。
「みんな頑張って! 私達が後ろを護ってるからじゃんじゃんやっていいよ!」
言葉で鼓舞する。団長としての仕事は絶やさず、素晴らしい働きをしている。
「クライさん! 三頭目来ます! 位置は予測とは違いそうです!」
「わかった! シェド! 頼む!」
「はい! 視認しました!」
シェドは三頭目のウルフが走ってくる頭上、岩陰に位置取っており、弓矢を振り絞り、一気に命中させる。
ズドンッ! という音と共にウルフの悲鳴が上がると、アスカもタイミングよくウルフを倒したようだった。
「やったね! みんな、お疲れ様! 集合して!」
メアリの言葉に、皆が安堵の息を漏らし、安全な死角となっている岩陰に集合した。
集合すると、メンバーに昨日ほどの消耗が見えず、少しばかり驚いているようだった。
「なんつーか、すげぇ、動きやすくなかったか?」
レクシスが言うと、クライを除く皆が頷いた。
「クライさんの、アドバイスのおかげですね」
「さすがクライ! 私が認めた英雄だね!」
「んな大袈裟な」
「そんなことありません!」
意外にも反論してきたのはメアリではなく、ミスティールだ。
「いいぞミスティ! もっと言ってやれ!」
「クライさんは、ご自身の事を、もっと評価すべきです!」
「……」
この光景に、近くに腰かけていたレクシスがニヤニヤして近づいてくる。
「旦那も隅におけませんなぁ」
「やめろ。旦那言うな」
「いやいや、俺様はあんたの事を旦那って呼びてえんだ。なんなら、兄貴でもいいぜ。いや、むしろそっちのほうが舎弟っぽくていいな」
何を言ってるんだ、この阿保は。
「好きにしてくれ」
「ありがとよ! 兄貴!」
そう言ってレクシスはシェドに絡みに行く。
ミスティールとメアリは何故かクライの話で盛り上がっており、クライとアスカだけが取り残されていた。
「……兄貴か。あたしもそう呼んだ方がいいか?」
「アスカ、お前はやめてくれ」
「冗談だ。しかし、驚いた。あたしに命令してくる連中はいたけど、あんなこと言う奴は初めてだ。この団は、居心地がいい」
「そうか。それならよかった」
「……ありがとう」
アスカの小さな感謝の言葉を聞き、クライは思った。
またここに戻ってきて、よかったのかもしれないと。