第一章12 『死神の実力』
あれから数度、ウルフとの戦闘をこなした。
終わった頃には全員疲弊しきっていて、クライは引き上げを提案する。
「なぁ、一回だけ、死神様の実力を見せてくれねぇかな」
すると、凝りもせずにレクシスが発破をかけてきた。
「レクシス、いい加減に――」
怒りだそうとするメアリを止め、クライは前に出る。
「いいだろう」
「え、いいの?」
メアリも実は見たかったようで、喰い付いてきた。
「手軽に、ウルフ三頭でいいよな」
「ははっ。あんたは司令塔だろう。手軽にとかカッコつけなくてもいいんだぜ」
そのセリフ、そっくりそのまま曲芸師に返すよ。
多分、これはいい機会だ。
レクシスは自分勝手が過ぎるから、コントロールする必要がある。その為に、彼よりも上であることは、いつか必ず示す必要があった。
「じゃあ、少し歩くか」
そこから少し歩いた先でウルフと出くわした。
「皆は下がってろ」
「クライ、大丈夫?」
「大丈夫じゃなきゃ、こんなことしない。誰かさんと違って、俺は見栄を張ったりしないからな」
「うぐっ」
レクシスが苦虫を食い潰したような顔をしているが無視する。
クライは右手に剣を持ち、左手に杖を構えた。
ゴクリ。誰かが息を呑む。
「ばうっ!」
ウルフの一頭が走り出すと、釣られて他の二頭も走り出す。
それを静かに観察し、クライは杖を地面に着いた。
「バインド」
術を唱えると、一瞬で先頭のウルフの足元目掛けて影が這い、前足をからめとる。
それによってウルフは体勢を崩して転んだ。
「ぎゃうっ!」
他のウルフも前のウルフにぶつかって体勢を崩し、一塊に倒れ込む。
その瞬間を見逃さず、クライは魔法陣を描きだした。
「炎よ、我が命に応えよ。インフェルノ」
その詠唱の後、ウルフの足元に赤い魔法陣が出現し、彼らを一斉に燃やし尽くしていく。
「ギャアオオオオオ!」
ウルフの叫び声がこだましたが、すぐに止み、クライは杖と剣をしまった。
残ったウルフの残骸を見て、彼らの牙を引き剥がし、振り返る。
「終わったぞ」
「……あ、悪魔だ」
レクシスは震えて青ざめていた。彼には良い効果だったようだ。
ちなみに、こんな仰々しいことをせずともウルフは倒せた。今回は力量の差を知らせるための演出というわけだ。
すまん、ウルフ。
「すごいです……」
「さすがというべきか」
「こ、恐い……」
ミスティール、アスカ、シェドの順で感想を述べ、メアリに至っては別の意味で震えていた。
「すっごい! クライってすごい! やっぱりすごい!」
少々大袈裟なほどに喜ばれたが、悪い気はしない。
「さ、戻るぞ」
「うんっ! みんな撤収!」
こうして夢幻の探求団はダンジョンとのファーストコンタクトを終え、ウルフの牙や毛皮などの戦利品を持ってダンジョンを出た。
そのまま市場で換金し、食料を買って宿舎に戻り、最初の晩餐を堪能した。