プロローグ 『されど彼は……』
ダンジョン――。
突如、この世界「ロストフォルセ」に出現した古代の遺物。
そこには何があるのか。
幾多の研究者が調査した結果、ダンジョンは世界中に現れており、そのどれもが深さは様々で、内部に不気味な生物「魔物」が巣食う、危険な古代迷宮であることが判明した。
それを知り、誰かが言った。
ダンジョンの奥には何が隠されているのか。一体ダンジョンは何を護っているのか。
そればかりは研究者達にも見当がつかなかった。
ダンジョンの噂が伝播し、途端に人々は夢とロマンを求めた。人々は彼らを「探求者」と呼び、探求者はダンジョンに挑むようになる。
ある者は巨万の富、またある者は古代の技術、そしてある者は世界の真理を求めて――。
人々はダンジョンに夢を見た。
とある子供は、とある探求者に問うた。
『どうして、命を懸けてまでダンジョンに挑み続けるの?』
『どうしてかって?』
『うわっ!』
子供の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でてから、彼は言う。
『さあな。これは理屈じゃないんだ。ただ、突き動かされて挑むんだよ。まだ見たことのない景色を、見たいからな』
『……!』
それから子供は、その言葉を忘れることなく、心に刻んだという。
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そして――。
ここにも、ダンジョンに魅せられた一人の青年がいた。彼は仲間と共にダンジョンに挑み、そこで絶望と出会ってしまう。
「やめ、ぎゃあああああああ!」
「リンクス! いや、いやああああ!」
ズシャ! ブシュッ!
「はぁ、はぁ……こ、こんな、馬鹿な……! 逃げろ! みんな逃げるんだ!」
仲間たちが魔物に殺され、リーダーの青年は後ずさりながら、残るメンバーに撤退を叫ぶ。
しかし出遅れた仲間が一人、二人と魔物にやられていく。
せめて彼女だけでも――。
そう思い、少年は彼女に叫ぶ。
「マリー! 早く!」
「いま、そっちに――」
そう言って駆け出そうとして、彼女は躓いて転ぶ。
「――! 大丈夫か!」
普段からそそっかしい彼女だったが、ここで転ぶことは予測もしておらず、青年は慌てて駆け寄ろうとする。しかし、彼女の後ろから魔物が迫っていることは捉えていなかった。
彼女は咄嗟に気付き、叫び返す。
「クライ! あなたは逃げて! 私はもう――」
「そんなの出来るわけないだろッ!!」
「お願い! あなただけは生きて……私達を忘れないで!」
「……!」
ズブシュ!!
そう言った瞬間、マリーの背中に魔物が振るった槍が突き刺さる。
「――ッ! ごふっ! いだ、い……」
「マリィイイイイイイイ!」
その声に、マリーは青年を見て、かすかに微笑んだ。
そして次の瞬間、彼は孤独となった。
血の海と化した宝石のダンジョン「カラット」の地下深くで、全てを失った。
あの後の事を、彼は憶えていない。
ただ、青年が気づいた時はもう、誰も傍にいなかった。
そして、ダンジョンから帰った彼の噂はすぐに広まり、彼はこう呼ばれるようになる。
死神。
仲間を救わず、自分一人助かった卑怯者。一人だけ生き残り、仲間を殺した死神。
青年はその言葉を受け、悲しみに沈み、塞ぎ込んで探求者をやめた。
そして、この時まで、あの男の言葉を忘れてしまっていた。
「あなたじゃなきゃ駄目なんです。私達と一緒に、探求者になってくれませんか?」
こうして、彼の物語は再び始まることとなる。