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東雲の姫君  作者: 小花衣 杏佳
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桐壺の御息所

用語解説に伴い、一話目の「梅壺」を一部、編集させていただきました。


これからもよろしくお願いします!!

無事に夜這いが終わり、三日の餅を食べると、遙貴からのお召しは、ぱったりと止んだ。

やはり、自分の予想はあっていたのだと、櫻子はしみじみ思った。

始めのうちは、櫻子だって何かと文を送ったり、梨壺に足を運んでいたのだが、遙貴は全くその気ではない。常に上の空で、適当に相槌を打っているのが、一目でわかった。であるから、通うのをやめたのだ。

両親は、何かと櫻子を梨壺へ連れて行こうとするが、櫻子は頑なに拒んでいた。

好きでもない女が、御所にいるのも、遙貴はあまり良い気はしないだろう。ましてや、櫻子は今上帝の女一の宮である。

十四になった女九の宮は、これに甘んじて、遙貴の元に通っているという。女房達からも、遙貴の人気は非常に高く、梨壺の殿舎は、大変な賑わいであった。


櫻子の住む桐壺の殿舎にも、人は絶えないが、櫻子は病を理由に人前に出るのを避けていた。確かに、頭痛がするのだから、あながち嘘ではないのだが。

今、遙貴の側室候補として名を連ねているのは、事もあろうが、櫻子の女房なのである。

若狭の君、常陸の君、和泉の君…

彼女たちは、いずれも宮中で人気の美人女房で、恋の噂が後を絶たない。

当然、彼女達の態度は目に余るものが多く、櫻子は敬遠していた。


ある朝、櫻子が朝餉の前に身支度をしていると、例の若狭の君がやって来た。その日は、父帝と中宮に挨拶をする予定で、朝からきっちりとしていた。

櫻子は訝しげに目をやったが、若狭の君は、相変わらずの傲慢とも解されないような笑顔であった。


「なんじゃ、若狭。朝餉の支度は整ったのか。」


「東宮様から、朝餉の支度を梨壺に整えてあるので、一緒に取らないかとのお達しがありました。」


「そなた、いつから梨壺の女房になったのじゃ?行く暇などなかろう。」


「ございますわ、御息所様。」


※御息所…東宮(皇太子)の正妃


櫻子が眉をひそめるのと同時に、若狭は口元を歪めた。


「御息所様が桐壺でお休みになさっていらっしゃったので、梨壺の東宮様には、女子がいらっしゃりません。東宮様ともあられる方が、情事には寂しくいらしておいででしたから、私が、お側に。」


不遜な態度を崩さずに、若狭の君は続ける。


「朝餉も、御息所様のご気分が優れないようでしたら、私が代わりに参りますので、ご心配なく。」


むしろ、そうしろと言わんばかりである。

だが、彼女なには立派な建前があるのだ。

病と偽る、わがままで冷たい御息所の代わりに控える、優しく美しい女房。

何と憎たらしい事だろう。櫻子の行動を逆手に取り、自らは遙貴の側に佇んでいるのだ。


「いや、良い。今日は調子が良いから梨壺に出向くと、梨壺の女房に伝えなさい。」


明らかに不満そうな表情ではあったが、主君の命に従わない訳にはいかない。

キッと眉根を寄せながら、若狭の君は出て行った。

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