【第一話】
そもそも小説じゃないです。
現代は言葉に溢れてます。
そんな言葉たちがしゃべったら、何を言うんだろう。何を感じてるのだろう。移り変わる自分自身に。そう思ったらできてました。ただ言葉たちが勝手に呟いてるだけのメモ書きです。
【第一話】
*始まりの言葉
言葉「今日もまた、新しい言葉が生まれ、そして死んでいく……。ボクはただ、伝えたい。キミたち人間へと、彼らが持つ『言葉』を。彼らの嘆きを。囁きを」
*チョベリバと神
チョベリバ「はーあ……もうマジやってらんないわ……」
神「なに、どうしたんだ?」
チョベリバ「いや、今日の死語墓地の当番あたしなのよね。退屈でさあ」
神「ほう、では私が退屈しのぎになろうじゃないか。退屈と言えば、『退屈』のやつは自分はあまり退屈じゃないと言っていたな。よく引っ張り出されるんだそうだ。まあ、『社畜』には負けているようだが」
チョベリバ「『社畜』ねー。アイツ、最近生まれた割にはほんと引っ張りだこで期待のルーキーよね。『まさに社畜だよ!俺という言葉が今最も働いてるよ!今日も仕事だよ!!休めよ人間共、俺も休みてーよ!』って言ってたもん」
神「お前さんもそうだったんじゃないか?」
チョベリバ「アタシが生まれた頃はそう見えてたのかも。でもアンタもなんか感じ変わったわよね、なんていうか、近づきやすくなったっていうの?」
神「はっはっは、昔は威張ってたがなあ。『世界』や『インターネット』とつるむようになってからは、少々フレンドリーになってしまった」
チョベリバ「爺さん元気ねー……」
神「『元気』なら、『ない』とよくつるんでいるぞ。『ない』はこの頃友達が増えたようでな、『金』や『休み』、『時間』とも仲が良いそうだ」
チョベリバ「それちょっとマズイやつじゃない?」
神「ん、そうかな?ならば『チョベリバ』だな!」
チョベリバ「はい爺さん無理しない」
*いじめの呟き
いじめ「なによ、どうせあたしのコト好きなヒトなんていないんでしょ!?だってそうじゃない!アタシをなくそうとしてるヒトもいるのよ?アタシだって、言われなくても分かってるわよ、アタシなんか存在しない方がいいって……でも、恐いものは恐いじゃない!死語になるのよ!?そんな風に勝手に生んで、勝手になくすくらいなら、最初からあたしを生まないでよ……!あたしをいじめてるのは人間達じゃない!もういや、もういやぁ……」
*矛盾と嘘
矛盾「なんでも刺せる矛と、なんでも守れる盾いるかい?」
嘘「やあ、まだその商売続けてたんだな」
矛盾「……だって、俺、『矛盾』だし。こうとしか生きられないし」
嘘「そうでもないんじゃないか?」
矛盾「さすがは『嘘』、ウソつきだな」
嘘「ああ。俺は嘘つきだから、お前の矛盾も嘘ってことにしてやるよ。そら、お前さんはもう『矛盾』じゃなく『嘘』だ。他の生き方ができるじゃないか」
矛盾「アンタは優しい嘘だな。ありがとう」
*人間と普通
人間「僕ってなんなんだろ。いや、僕自身は言葉なんだけどさ。みんな言葉としてのアイデンティティーを持っているんだよね。でも僕は、主体が大きすぎて、僕自身を持っていられない。僕ってなんなんだろう」
普通「あ、『人間』さん。今日は哲学者の性格なのね。その話、私もわかる気がする。私も、私がなんなのかわからないの」
人間「君は矛盾している。『普通』の者に、哲学がわかるわけないだろう」
普通「……そっかあ。私は普通だから、哲学をわからないのね。なら、わからないようにしなくっちゃ……」
*王
王「我が輩は王である。昔は、国民のために尽くしたり、おとぎ話の主役になったりしていたのである。最近の仕事は、専ら恨まれたり、嫌われたり、辛い過去を負ったり、血まみれになって殺されたりすることである。子供たちへ教訓を教えたり、そういうことのためならば、王として我慢はするが、それでも、とてもとても苦しいのである。王も国民も幸せな話が、いっぱい欲しいのである」
*誉め言葉の集落
流石「最近、僕らが使われる機会が減ったね」
凄い「由々しき事態だよね」
素敵「君は使われてるんじゃないの?」
凄い「使われるには使われるけど、僕を使うためのハードルが上がっているね。乗り越えるのがなかなか大変だよ」
素敵「そう……、ボクも、海外の翻訳でくらいしか使われないんだよね」
美味しい「おいらも。農家の人とか、芸人さんとかも最近使ってくれなくなったんだ」
皮肉「今じゃグルメレポーターとT⚪KI⚪とちびっこくらいだものな、お前を使うのは」
美味しい「甘みとか苦みとか、細かいとこまで言わなくても、美味しいって笑ってくれたら、じゅうぶん伝わるのにね……」
素敵「あれ、なんで皮肉ここにいるの?」
皮肉「一見誉め言葉に見えるから」
流石「流石だね」
皮肉「お前ほどじゃないよ」
*愛と鏡
愛「私、もう綺麗じゃないわ。昔はあんなに美しかったのに。もう綺麗じゃないわ。ああ、こんなんじゃ愛してもらえないわ。もっと素敵にならなくちゃ」
鏡「ねえ、『愛』。また、そんなことを言ってるのかい?」
愛「いやだ、ちょっと来ないでよ。私、あんたのこと嫌いなのよ。来ないでよ、あんた私の本当の姿を見せるじゃない、嫌いなのよ、来ないでよ……ああ、もう。あんたなんて、お化粧のとき以外いらないのよ。出てこないでちょうだい、ええい、布をかけてやるわ」
鏡「……ねえ、気づいてよ、聞いてよ。僕の声を。僕は、そのままの君が好きで、愛しているんだよ。ありのままの君がとても素敵だから、その姿が僕の目に焼き付いているんだよ。だから、布をかけたり、扉で閉じたり、お化粧で隠したりなんて意地悪しないでよ、君が、素敵な君を思い出せなくなっちゃうよ……」
*子供と社畜とチョベリバと不良
子供「ねえねえ、みんななんのお話してるの?」
チョベリバ「あっ……ヤバい……隠れなきゃ」
社畜「あー、うん、ええと……君は、なんていうか、いろいろと……すっごいいいよね、って話」
不良「おい、子どもになに言ってんだ!大人の勝手な事情を押し付けんじゃねえ!」
子供「僕がいいって話?わーい!ありがとうございます、おじさんたち!」
社畜「………………」
不良「……俺たちにも、あんな頃があったのかな」
社畜「なんであんなに眩しいんだよ……もういやだよ俺……あの頃に帰りたいよ……」
不良「……今度、ツーリング連れてってやるよ」
社畜「多分仕事だから無理」
不良「……もう休めよお前」
*恨み辛み
怨み「どーも、怨みです」
辛み「どーも、辛みです」
怨み「今日は名前だけでも覚えて帰ってくださいね~」
辛み「覚えてくれなきゃ、恨み辛んじゃいますからね」
怨み「いや、それにしてもですよ。僕ら、最近なかなか人気なんじゃないですか?」
辛み「そーですね、売れてます。もともと夏の時期なんか、結構いろんな舞台にお呼ばれしてたんですけどね。最近では、他にもいろいろお仕事とかね、もらえてますよ。ツイッターとか、2ちゃんねるみたいなSNSとか掲示板」
怨み「あとはLINEとか、ひとり言みたいなとこ。日記とかもですわ。今日のお客さんも、お子さんからご年配まで、たくさんの人に支持されて。いやー、まことにありがたい。僕らがこうして活躍できるのも、ひとえに皆さまのお陰でございます!」
辛み「誠にありがたいことです!」
*空と海と悩みごと
海「やあ、また来たのかい?」
悩み「………………」
海「いつも大変だね。そら、青い波の音だよ。小豆なんかには負けないよ。本場はぜんぜん違うだろ?いっぱい聴いて、勝手に癒されていきなよ」
悩み「………………」
空「ほら、私を見てみなさい。どこからが『海』で、どちらが私か分からないでしょう?」
海「君は僕らに癒しを求める。だけど、僕らは君を自分から癒そうとしていない。けれども、君が癒されるのは自由なことだ。僕らの存在で。僕らはそれを否定しない」
空「許可もしない。でも禁止もしない」
海「僕らは此処に在るだけ」
空「だから、いなくなりもしない」
海「自ら離れても行かない」
空「満足したら離れていくのは、貴方の方」
海「満足したらいなくなるのは、君の方」
空「けれどそれは悪しきことではない」
海「君が再び歩き出す力を得たのだから」
空「私たちはそれを否定しない」
海「僕たちはそれを肯定しない」
空「ただ、そこに在るだけ」
海「君にこの声は届かないけれど」
空「ただ、そこに在るわ」
悩み「……もう行かなきゃな」
空「さよなら」
海「行くんだね」
空「否定しないわ」
海「肯定しないよ」
空「私たちはそこに在るだけ」
海「僕らの言葉は君に届かないから」
空「そこに在るだけ」
海「さよなら」
空「またおいでね」
海「もう来ちゃダメだよ」
空「さようなら」
*終わりの言葉
言葉「やあ。一通り、ボクの世界を堪能してくれたんじゃないかな?どうだい、みんな個性的で、良い子たちだったろう?え、なに?悪い言葉がたくさん混ざってたって?……キミにとっては、そうかもしれないね。けどさ、ボクは『言葉』だから。ここにいる子は、生まれてくる子、死んでいく子、すべてボクの子供なんだよ。キミがなんと言おうと、ボクは彼らを愛しているよ。……キミたちは、ボクを大事にしてくれないから、余計にね。いや、仕方のないことを言った。忘れてくれ。ボクはあくまでこの世界だけの王であり、キミたちには、使われるための道具でしかないものな」
*世界の囁き
世界「私は、お前だ。お前は、私だ。私は、お前の見たものがすべて。お前の生きた時間がすべて。お前の聞いたものがすべて。それ以上も、以下もないだろう。私はお前で、お前は私だ。けして他のものとは交わらない。お前が何を思い、何を考え、何をしようとも、けして」
連載中の小説の合間に書いてるので、こっちの更新は遅いです。