葛藤
お酒を嗜むのは、あまり得意でもなく好きでもなかった。
だがその日は、翌日が休みということと、日に日に暖かくなってきている気温のせいで無性に喉が渇いていたこと、冷蔵庫を開けた時に発泡酒がふいに目に留まったこと、その他にも無意識の中で「俺はお酒を飲むのだ。」という洗脳を自らにかけていたこと、幾つかの条件が複雑で、繊細に組み合わさった精密機械の様に上手に噛み合った上で嗜んだお酒であった。
熟睡していた。記憶に残っているのは寝る前の習慣となっている携帯の画面を眺めていたこと。窓越しの街灯よりも遥かに眩しいがそこに不快感は無く、ただぼーっと睡眠時間を逆算しながら眺める。お酒に酔っていると自覚していても止めることを考えてもいないこの行動は、もはや習慣よりも呼吸に近い、若しくは自分自身の生態系の一つとして受け入れることが素直に出来た。
顔を洗い、テレビをつける。聞き慣れた声がナレーションをしていたが何の番組で聞いた声かは頭の中がまだ覚めきっていないからか、ただ、とても穏やかで宝石の様に煌びやかな海の映像がそこにはあった。