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侍に忍ぶ  作者: ろーくん
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 その合戦は、険しい山越えを要した。


 見上げるほどの山をいくつも越えてようやくたどり着いた敵地。だが兵は疲弊しきっていて、戦況は芳しくなかった。


「もともと無理なんだよ。相変わらず太田の大将は無茶な戦を仕掛けやがるぜ」

「ふんぞり返ってばっかだもんな。生きて帰れるのかなぁ俺たち…」

 道らしい道がない山の中では敵の伏兵にいい様に痛めつけられた。無事だった兵士も合戦前から傷だらけだ。

 そのままたいした処置も行われずに放り込まれたこの戦場で、雑兵は次々と死傷していった。



「山原様。我らの部隊も被害深刻です」

「わかっている。だが大将が大将だからな、まともな采配は期待できん。此度は厳しい戦いとなるだろう、覚悟を決めねばなるまい」

 あるいはワザとである可能性もある。太田義男(おおたよしお)といえば家臣の中で最も高い位にあり、大殿より支城を2つ任されている重臣だ。姫の婚儀の相手として国内ではもっとも有力視されている。


 自分の栄光を脅かす、姫のお気に入りである成り上がり者(山原)を排除する心算(こころづもり)があるのかもしれない。



「(で、あるならば功を上げても上げなくても罪に問おうとしてくるだろうな。山原を追い落とすために。…よし)」

 現在の山原の部隊は兵200ほど。以前よりは増えたが、全軍で6000という兵数の中にあっては小勢も小勢。

 その目立たぬ利を生かし、山原()は部隊を動かしはじめた。





「はぁっ、はぁっ!! な、なぜじゃあ!? 伏兵はすべて蹴散らしたはずではなかったのか!?」

 太田の指揮する本陣は越えてきた山を背にして、そのふもとに陣取っていた。

 周囲には小高い山がいくつもあり、敵の目より部隊を隠して安全を図っていたはずが、ありえない後方よりの奇襲を受けて一転、窮地に陥っていた。


「わ、わかりません!! 周り込んできたのかも―――ぐべっ!」

 応対していた兵士の頭を、長い矢が貫く―――長弓による長距離狙撃。


「ば、馬鹿なぁ!? このように木々の多い場所で…狙撃じゃとぉ!??」

 軍として弓を扱う場合、森林など障害物の多いところでは有効性に欠ける。使ってもせいぜい短弓で、それなりに距離を詰めて射るくらいだ。



「俺にとっては造作もない事なんでね、太田殿」

「!? 貴様っ、山原。これは一体何の真似じゃあ!?」

 周囲を《《500近い兵》》で取り囲まれ、指揮する将が彼と知るや怒り散らす総大将。そのあまりの醜さに、取り囲む兵士は一様に汚物を見るように顔をしかめた。


「無謀な戦いを強引に推し進め、殿を丸め込んだ貴方には皆ついていけない、という事でしょう。加えて(それがし)を亡き者にせんと謀られてはこの状況は必然」

「ぬぐぐ、この……成り上がり者如きがぁぁぁ!!! ぐがっ――――」


 ズドドドドドッ!!


 全身に矢が突き刺さり、太田は絶命した。


「皆の者、我らの総大将、太田様は《《討ち死に》》なされた! 故に全軍、速やかに撤退せねばならぬ! 他の部隊にもそう伝えよ、必ずや皆で生きて帰ろうぞ!」







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