表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
侍に忍ぶ  作者: ろーくん
1/12

とある宵闇の武家屋敷

1話あたり、1000文字ほどしかない、お手軽な時代モノ小説です。

カクヨムにて全12話を投稿済みで、同じ内容のものをこちらにも順次投稿していきます。



 月が中天に差し掛かる(とき)。それはまだ夜半ばである事を意味する。



「………」

 灯火の明かりが小さくも力強く煌めく中で、4畳ほどの部屋には武士が一人、静かに書物と向き合っていた。

 障子に投影された人影が揺らめく……


「………」

 静かな夜だ。が、《《静かすぎる》》。動物の遠吠えも虫の(さえず)りも消えこない――――不自然。




 シュヒッ!!


 突如、障子と反対側の(ふすま)が上下二つに切り分かれる。

咄嗟(とっさ)に飛びのいたが、障子を背に構えた武士の左腕から、鮮血が吹いた。


「くっ、何奴っ!」

「………」

 問われた者は答えない。ただ沈黙のうちに間合いを詰めてくる。逆手に持った短めの直刀が、灯火の輝きを受けてギラついた。


「おのれ、曲者っ!!」



 ビュッ……ギィインッ!!


武士は腰より脇差を鞘ごと引き抜いて投げつけると、小太刀を抜刀しつつ敵に斬りかかった。

 鍛えられた金属同士が甲高い音を立て、火花を散らしながら幾度も斬り結ぶ。しかし、互いの身を傷つける事かなわず。


「はあ、はあ、はあ、くっぅ」

 出血が武士の意識を持ってゆこうとする。しかし彼は唇の端を噛むと、自らが座っていた座布団を蹴り上げ、そして―――


「ここだっ!!」


 ドッ!!!



 真っ直ぐに突き出した小太刀が厚手の布を貫いた。そして座布団の向こうにある刃先は確実に敵の肉体へと届いた……はずだった。


「がはっ! …はぁ、はぁ、はぁっ」

 血を滴り落としたのは武士のほうだった。敵は座布団の目くらましに惑うことなく、背をかがめて彼の腹に下から刃を突きつけていた。


「小細工は通じない。諦められよ」

「そう…か、はぁ、はぁ…忍び…か…、…がふっ!」

 口いっぱいに鉄の味がこみ上げ、そして腹から徐々に体の感覚が消えてゆく。苦痛と共に、夜より暗い闇が視界の端から侵食し、やがて何も見えなくなった。


「な…ぜだ…、(それがし)を手にかけ…、なんの…い…み…、が……」

 武士は絶命した。

 名があるわけでも、高禄でもないどこにでもいる貧乏侍。その絶命を待って、彼は初めて頭巾を取り、その素顔を晒した。



「汝を選んだのは俺と顔が似ていたからだ。これも使命ゆえ悪く思うな、迷わず成仏してくれ」

 (しのび)は片手のみで簡単に祈りの所作を取り、殺害した相手の冥福を祈った。


 数瞬の後、所作を解くや否や武士の遺体は黒き風が吹きすさぶと共に跡形もなく消え去る。

 灯火の消えた室内に、また火が灯る。死んだはずの武士の、先刻と何一つかわらぬ影が障子に映された。




なお、カクヨムではレイティングがR15までのため、R18相当のお話はカットして構成しておりますが、

小説家になろう、ではR18も投稿可能なため、

未公開のR18話を別途、小説家になろう(ミッドナイトノベルズ) に投稿しました。


侍に忍ぶ-裏舞台-

http://ncode.syosetu.com/n5628dl/


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ