01.04 第五話『面通し』
文章に説明が多いのをどうにかしたいところです・・・・。
*20016/04/14誤字修正
鎹警部補の用事は面通しだった。
「彼女の顔に見覚えはありますか?」
マジックミラーの向こうは取調室らしい。
寛和にはたしかに見覚えがある顔つきだ。野々村、野岸・・・・・いや野田英子だ。辻刹那に可愛がられていた女子生徒で三年三組では学級委員をやっていた。下手をすると森正文よりかわいがられていたかもしれない。
しかし、よくよく考えてみると、森を辻刹那が優遇していたのは家の事情の面が大きいかもしれないと寛和は思い直した。覚えていることを総合すると教職員組合のかくれ組員として辻刹那はふるまい、それを利用して出世し、影響力を大きくするのが目的だった気がする。
いずれにせよ彼女の信者である野田英子は間違いなく今回のテロ騒ぎに関係しているだろう。
「たぶん野田英子だと思います。小学三年生の時に辻刹那に指名されて学級委員をやっていた女子です。」
鎹警部補はふむとうなずくと、その部屋からでて事務所へ寛和を案内した。
「なるほど・・。」
そこまで言って眉をしかめながら言った。
「ところで、辻刹那の関係者で、有力者とか権力に近い人物はいませんか?」
鎹警部補のその言葉で、捜査が妨害かあるいは圧力をうけているらしいと寛和は思った。そうでなければこんなことをわざわざ言うはずがない。
「・・・・・森家ですね。北陸の有力者で有名な一族ですが・・・・・・。」
鎹警部補は一瞬固まって首を傾げた。
「森家ですか・・・なにか証拠になるようなものはあるんですか?」
「野田英子のつぎに優遇されていたのが森正文です。それに・・・・北陸ではわりと森家と辻家の上下関係は有名なんですよ。極端なことをいえば辻家は森家の家臣みたいな扱いですね。」
「なるほど・・・・。」
鎹警部補は表情は変えなかった。
「森家は北陸の財閥ではトップですからね。色々面倒ごとが多いと思います。歴史的にうちの富田家は森家から嫌われてますからね。いろいろ嫌がらせにちかい扱いをうけてますから。」
「ほう?それはどんないわれで?」
寛和は昔祖父に教えてもらった内容だと断ったうえで森家とのかかわりを話した。
「なるほど・・・・そうすると富田さんは森家を恨んでいる?」
その言葉に寛和は一瞬首をかしげたがいまひとつ恨みと言われてもぴんとこない。向こうが一方的に恨んでいるというのが実情に近い。
「恨んでいるかどうか聞かれれば恨んでいるでしょうね。ただ・・・どうしようもないとあきらめてますけどね。呪いを理由に嫌がらせをされるって気分的に最悪ですからね。そんなことで邪魔されたのかとか陥れられたのかと思うとね。」
「偉い人の考えることは我々一般庶民にはわかりかねますからね。」
鎹警部補がそうはなしたところで後ろから女性職員がお茶を汲んできて二人の前の事務机に置いた。
「・・ああ・・・矢上君ありがとう。」
「いえ。」
短くそういってその女性職員は離れていった。
「・・・・富田さんは森家がテロに関わっていると思いますか?」
それを聞いた寛和は直接は違うだろうと思った。森家は直接的な行動をとることは少ない。ほかの人間をつかって何らかの影響力を行使することが多い。ただ、計画は知っており、それに対して影響力を行使しかたと言われれば頷ける。
「直接は関係していないと思います。ただ・・・・浅間山荘事件で森家のひとりが逮捕されていますが、結局ヨド号では北朝鮮には渡らなかったというのがある一面を表しているはずです。すくなくても日本政府の膝下にいる間は森家の保護が与えられるということでしょう。」
「意外なお話ですね。」
「ただ中華人民共和国の日本への侵攻に関して関わっていないかと言われるとノーを確信を持って言えます。」
鎹警部補はそこで初めて眉を動かした。
「それってどういうことですか?」
ようするに内部から呼応するかたちで侵攻に協力する組織に資金を与えたり、人材を派遣したりしているということだ。直接ではないが詰将棋のように周りかを固めてあるとき一気に動かす・・・・富田の祖先が切腹に追い込まれたのは次の筆頭家老に内定していた上に、高山の領地を富山藩に割譲されたらその功績で富田の家の独り勝ちの状況が前田家の中でうまれるから、周りから追い込んで最後は切腹させ取りつぶしたのだ。
ここで問題なのは当時の世相を森家が知らないわけではないのに、それより自家の藩内の立場を優先したことだ。いままでの森家のふるまいからその点は一貫している。国より家のことを優先する。
「今回の件で辻家の経路から森家に飛び火するのを警戒しているのでしょうね。森家は本家と分家の扱いは天と地ほど違いますから・・・分家が泥をかぶっている可能性はありますね。」
富田家は家より国を優先するから逆に取りつぶされたともいえる。だから藩内での立場を固めれなかった。武家諸法度に反しても商業行為を武家としながら行ったことからもいえる。もちろん親戚の神保家をかいしての徳川幕府とのつながりがあったからできたことではある。
「となると・・」
「森正文を逮捕したとしてもその先への追及はむりでしょうね。北朝鮮と必ずつながっている上に中国ともつながっているが・・・・同時に日本政府内にも協力者がいる。外務省の官僚が海外でヨド号事件の田宮とゴルフをしていたという事が・・たしかあれはスイスでしたか。あることがからも言えます。もっともその官僚達は北京大使館の書記官や上海総領事館の領事を経験していた人物らしいので中国側のスパイなんでしょうけど。」
「意外と情報通ですね?」
「ただ知ってても利用できる情報じゃないですけどね。表ざたにしても煙たがる人が増えるだけですから。おまけに精神病患者ときてる。信用力なしですから。信用できない情報はないとと同じです。」
「本庁の警察官の一部が・・・・渡邊だったかが関与していたことは知っていますよ。彼は息子の盗撮癖がもとで懲戒免職にされてますから。」
その渡邊の息子は寛和の大学時代に同じアパートの二階にすんでおり、一階の寛和の部屋に盗撮カメラを配線してネットで放送していた変態である。それをやらせていたのも辻刹那が関与しているというのだから救われない。
そのせいで寛和はノイローゼになり、統合失調症を発病したと警察の資料ではなっていることを寛和は知っているが、あえて言う必要はないだろう。
「浅間山荘事件とヨド号の中革派の連中・・・呼び方は連中の側からはコロコロかわってますが、ヨド号で最初は北京にむかったことから、連中が中華人民共和国とつながっていたのは確実です。中国側はそれを隠ぺいするために亡命を拒否しましたけどね。ここでも森の影がちらつきます。」
「その理由は?」
「森死刑囚がなぜヨド号への乗機を断ったかです。その時点で刑務所内に協力者がいたのは確実ですし、そのあとの森死刑囚の足取りを考えれば必然です。」
その日は結局夕方まで鎹警部補と話し込んでいた。