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01.01 第二話『就職先』

週一位を目標に更新していきたいと思います。

 寛和が虎ノ門の警察合同庁舎を出たのは夜の七時を回っていた。幸い、庁舎内の食堂で夕飯は食べれたが、しばらく避難所から外出しないように言われてしまった。電話番号を聞かれ正直スマートフォンの料金の支払いのこととか頭が痛い問題も思い出すことになった。

いまの契約だと月々九千七百円ちょっと支払わなくてはいけない。地方銀行だったので、中華人民共和国の占領で引き落とし口座自体消滅しているが、いまのところ通話はできている。

 明日は電話のことを避難所の相談窓口にそうだんしないといけないなとその場をあとにした。




 次の日避難所の相談窓口にいくと整理券発券機がおかれていてそこで整理券をとって待合所で待つことになった。

 待つこと六十五分、ようやく相談窓口によばれた。


「こんにちは!」


 そこで相談にでたのは吉川弘子という国土交通省地方管理局北陸支部の職員だった。彼女は二十台前半くらいで寛和からすると、とても若かった。寛和が携帯電話を取り出して、支払いが困難になることを告げると、吉川さんはよこの書類引き出しから書類を取り出した。


「富田さんの場合は日本電信電話会社の携帯電話なので、この書類に記入していただければいまのところ三年間現状の契約のまま無料でご利用できます。戦時特別措置法の施行で、戦地にいた住民の居場所を確認するためにこのような措置をとっています。そのあとは通常通りご利用されることとなりますが・・・・」


「口座が消滅しているんですよね・・・。」


 吉川さんは頷いた。そしてまた別の書類を取り出した。

「それなら・・こちらの郵便局口座を開設していただいて、そちらに移籍という方法もとれます。あ、ほかにも主要銀行に同様の手続きをとることができますよ。」

 寛和は面倒なので郵便貯金口座開設と移籍の書類に記入した。

「ありがとうございます。ところで現在なにかほかにお困りのことはありませんか?」

「・・・・金がありません。配給で生活はとりあえずできてますが、就職できないとどうしようもないです。ですが四十すぎの歳で就職先をみつけるのは、今はきつくて困ってます。」


「避難所のハローワークには登録されてます?」


「はい。」


 吉川さんは考えるそぶりをした。


「・・そうですね~~わたしは畑が違うからなぁ。厚生労働省地方労働局の方ならすぐに・・・ちょっとまってください。」


 そして電話しはじめてしばらくして一人の男性がやってきた。


「戦地労働局の葉山です。富田さんでしたね?」

「はい。」

「仕事が見つからないそうですが、職種はなにかご希望されているのですか?」

「特には・・・。ここにきて三日目ですが、どれもこれもすぐに締め切られてしまってみつからないんですよ。」


「・・・・まあとりあえず、そのおひげを剃ってからですね。ご存知だとは思いますが、就職活動において第一印象は大切です。そのためには髭剃り、散発、服装を整えることが必要です。」


「はい・・・・。」


「とりあえず選ばず仕事が欲しいというのであれば・・・・そうですね、これなんてどうですか?」


 そこに書かれていたのはゴミ収集の仕事だった。それも代々木公園内の清掃だ。


「いま代々木公園は代々木区役所の仕事から切り離して、避難民事務所が管轄しています。それでそこででるゴミ収集や清掃の仕事をする人間が必要なんです。本来なら公募するところなんですが、いろいろ今は暇がなくて、やれそうな人に声をかけているんです。」


 寛和は頷いた。


「それならかまいません。」


「うん。ならこの場所にむかってもらえますか?」

 失礼しますと一礼してから、寛和は言われたとおり代々木競技場内にあるプレハブ小屋に向かった。




 プレハブ小屋のなかには六十台くらいの白髪の男性が椅子にすわっていた。

「こんにちは!初めまして、葉山さんに紹介された富田です。よろしくおねがいします。」


 その男性は首をかしげた。


「あんた東京生まれか?あんまりなまりがないようだが・・・・。」


「学生時代に埼玉で生活していましたから。」


「そうか・・・・。俺は峰岸信夫だ。埼玉出身で戦争が始まるまで東京都の土建部門にいた。」


「峰岸さん、私は富田寛和です。よろしくおねがいします。」


「とりあえず、雇用契約書にサインしてもらおうか。話はそれからだ。」


「サインするまえに面接試験はしないんですか?」


「必要ない。たかだか工賃稼ぎの仕事だ。そこまで厳密にやつひつようはないさ。」

 いわれるがまま雇用契約書に眼を通し、寛和はサインをした。


「よしサインしたな。俺たちはここでゴミ掃除をするのが主な仕事だ。雇用契約書に書かれている通り、日中は自給850円、午後十時から午前五時前までが1100円だ。」


「夜勤がやたら高いんですね?」


「まあな・・・いろいろ面倒ごともある。夜間警備の真似事も含まれるんだ。つってもゴミ清掃しながらへんな人間が居ないかみまわるだけで、たとえいたとしても通報するだけだ。民間警備会社以下の仕事だよ。なにか質問はあるか?」


「警察にしばらく避難所にいるように要請されてるんですが・・・・。」

 峰岸さんは眉をしかめた。


「なにかやったのか?」


「いえ、昔の同級生が爆破事件にかかわってるかもってだけのはなしです。」


「おっかねぇなぁ。葉山のやつ、ちゃんと調べてからよこせってんだ。まあ、お前さんは関係ないのだろ?」


「はい。」


「にしても富山のにこにこ新聞の会だったか・・・・ふざけた連中だ。苦労して逃げてきた避難民を殺そうとはね。だから左翼連中はだめなんだ。この状況で中国に尻尾振ってるあたり最悪だな。」


「そうですね。あの連中は安保法制を廃止しようとしてますしね。」


「戦時下にあるってのに、のんきなものだよな。」

 二人は世間話を続けた。

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