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01.00 第一話『戦争の始まりと日常の変化』

 寛和は眠りから覚めた。

 今は平成三十年四月四日だ。第二次朝鮮戦争から始まり、中華人民共和国の日本侵攻から三日たった日だ。


 中華人民共和国は、日本海のことを東海と称し、日本のことを東海青竜王土であり、歴史的に中国の領土であると侵攻を正当化した。侵攻はなく内乱鎮圧だと宣じて、在日米軍に領土からの撤収を求めている。

 記憶が一部戻ってきている今ならわかる。これは過去の歴史の繰り返しの一幕だと。



 結局、統合失調症だと診断されたのは森家の差し金に父親の和弘がのってしまったこともあるなと思った。どこまで病気の妄想でどこまで記憶の復活なのか微妙なところではあるが、結局統合失調症というのは空間情報システムの情報のやり取りのオーバーフローでおこる症状であるということだ。個人の精神などというものも光子場情報に一つにすぎないということだ。空間情報システムが正規の状況なら起こりえないが、いまはいろいろ壊れている状況だ。

 記憶が戻ったということは因果応報システムの一部が解除された状況なのだろう。そうでなければシステムの補助をうけれず生きるのが更に困難になっているはずだ。




 いま寛和がいるのは東京都の代々木公園にある避難施設だ。家族とは離れ離れになってしまった。祖父の昭吉が死んで大体三十年の月日が流れている。ふとそろそろ自動車免許の書き換えの時期だったなと的外れなことを考えていた。


 現在、新潟県、富山県の一部が人民解放軍に占拠されている。北海道にロシア連邦が侵攻したという情報も入ってきていて混沌としている。


 配布された布団を畳んで、外に出た。この避難施設は本来ならオリンピックの競技場として利用されるはずの施設だが、いまの状況ではとてもそれに利用は出来ないだろう。


 テレビの情報を見る限り、水上の付近で壮絶な塹壕戦になっているらしい。制空権も完全には確保されていないらしく、時々爆撃機が突入してきて上毛高原あたりで撃墜されている。


 寛和としてはため息をつくしかない。自分が異世界間国家スター・ストリーム・ユニオンの特等管理官であることは思い出しているが、人前で話せる話題ではない。すぐに病院にぶち込まれかねない厨二病か、精神病扱いされかねない情報だ。かといってこのまま手をこまねいているわけにもいかない。


 前回の地球における戦争では中華人民共和国の核とテロリズムを併用した攻撃により、アメリカ合衆国の首都ワシントンは壊滅し、ニューヨークなどの東海岸の主要都市もほぼ壊滅の憂き目をみた。西海岸もカルフォルニアやロサンゼルスあたりもテロで深刻な損害を受けた。そのうえオレゴン州で内乱が発生し、反撃をおこなえないまま、日本列島とハワイなどは中華人民共和国に併合されてしまった。


 前回の地球において、アメリカ合衆国に避難して、ずいぶん差別されてえらい眼にあったのを覚えている。中国人のみならず日本人も厄介者扱いされていた。

 その後、何度かの戦争を経て中華人民共和国は世界政府を宣言し、世界のあちらこちらを併合していった。その際に核攻撃をためらわず、結果的にすめなくなった場所がいくつも生まれていた。主にプルトニウム型核分裂ミサイルを多用したためだ。


 中国人のネットワークは恐怖に値するとそのときの経験で寛和はいやというほどわかっている。


 そして結果的に核テロリズムを呼び込むことになり、地球人類は壊滅する。世界制服のために中東でテロリストを養成していた中華人民共和国が自らの犬に殺されたという結果だ。


 これを回避しなければならないのに国会ではいまだに野党が安保法制のせいで戦争を招いたなどとお門違いの追求を与党に対して行っている。最初から戦争する気まんまんで、準備万端になるまで五十年以上かけてきた中華人民共和国あいてにそんなことを言うこと自体ナンセンスであるのにだ。




 寛和は時々匿名を利用して中華人民共和国の情報をネットに流してきた。

 情報源は空間情報システムなので、足もつかない。あとは社会工学的演算で導き出す結果もある。


 とはいうもののいまは状況ではネット喫茶で書き込むしかない。これはリスキーだ。インターネット喫茶の多くに中国人資本がはいっているから、まず間違いなく寛和のことが見つかる。とはいっても情報をださなければ今頃とっくに日本は占領されていただろうこともわかっている。


「とはいっても手持ちのお金が三万しかのこってないか・・・・正直、職をみつけないときついな。」

 ため息をついて寛和は配給所へ向かった。




 配給所は相変わらずゴミゴミしていた。占領地から逃げ出してきた人々があつまっているからある意味当然である。


 寛和はお金があればなぁと思う。お金があれば近所の渋谷のブティックで服を買い求めたりなどと贅沢なことを考えてしまった。


 避難所でふと見上げると既視感のある人物が居た。


(あれ、あれはたしか・・・・・・川本・・・って結婚してたから別の姓だよな。こんなところで何してるんだ?)


 川本鈴鹿は小学校のときの同級生だが、辻刹那に心酔していた信者のひとりで、寛和にとって正直苦い思いしかない。

(辻のばあさんは確か人民解放軍に協力していたとかで指名手配されてたよな・・。あいつらもそれに協力しているからこっちに逃げ出す必要はないはずだけど・・・・。)

 配布されたサンドウィッチを手にしながら、元川本こと鈴鹿を追いかけた。




 後ろをおかけながら寛和は首をかしげる。

(・・う~ん・・誘い込まれた?いや・・いまさら四十の無職男を誘い出して向こうに得があるとは思えないし・・・・・。)

 鈴鹿はどんどん進んでいく。代々木公園を出たところで、待っていたタクシーにのりこんだ。

(くぅ・・いま手持ちが・・・・。くそ・・・しかたない!)

 寛和も目の前の別のタクシーに乗り込んだ。


「前のタクシーを追いかけてください。」


 その寛和の言葉にタクシー運転手が鋭い眼をした。


「あんた何するきだい?やましいことならやめておきなよ。」


寛和は自分がいま無精ひげをはやした姿だということを思い出した。


(くぅ・・どうする・・・・。ってあ・・・)


 運良く、指名手配のチラシをポケットにはいっているのを思い出して、取り出した。


「前のタクシーに乗り込んだ女性が、この指名手配犯の教え子なんですよ。元のなまえは川下鈴鹿。まあおれも教え子なのは確かなんですが、あの連中とは敵対してるんで。」


「おいおい・・面倒ごとはごめんだぜ。降りてくれ!」


 寛和はタクシーを降ろされてしまった。

(くそ・・・。仕方ないか。とりあえず避難所に戻って寝るか・・・。)

 とぼとぼと寛和は代々木競技場へ戻る道を歩いていった。




 太陽系外延部の宇宙艦から地球地表の様子を眺めていた女性があきれた様子だった。


「いま干渉を自由に出来るのはチーフなんですから、もうちょっと考えて行動してほしいところなんですが・・・。まあしかたないですよね。」


 その言葉に後ろの男性が首を振った。


「戦争自体は予定通り起きた。戦況もまずまずだ。ロシア連邦の動きが不確定だが、いずれにせよこのまま推移して、中華人民共和国が負ければ問題はない。」


「そうそう簡単にことがはこぶかしらね。むこうは因果律を奪い取って行動しているのよ?因果計算からの推移どおりには動かないわ。テラフラクトの連中が手を出しているのは間違いない。」


「アメリカ合衆国への技術供与はうまくいったが・・・。」


「その合衆国がテラフラクトの連中の牙城になってるのをわかってるわよね?」


「かといってもういっこのテラフラクトの牙城の中華人民共和国に勝ってもらっては滅亡は回避できないしな。」


「チーフとテラフラクトの連中とのつながりをかんじるんだけど・・・。」


「そりゃあるって本人がいってたしな。太陽制御コロニーのメンテに協力したことがあるとかいってたからな。」


「あの連中、スターストリームユニオンのインフラをつかってるからね。」


「そのコロニーも奪われて何年たってるんだか。再生したといってもね。」


「武力制圧したいところだけど・・・・そうすると国民の精神体回収ができないからな・・・むこうもそれはわかってるから強気だし・・・。」


「チーフのがんばり次第だね。」




 寛和は結局あまりに暇なので避難所内のハローワークで職を眺めた後、靖国神社にでかけて避難所に帰ってきた。

 しかし、避難所の中の様子がおかしかった。警官が何人も立っている。寛和の様相が妖しく見えたのだろう、警官が近寄ってきてすぐに職務質問された。

 寛和は仕方なく個人番号カードを取り出して警官に渡した。

 その警官は首をかしげてそれをながめていった。


「・・・・避難民の方ですか?」


「そうです。いま住所は代々木競技場避難所の1-1-568ですね。」


「そうですか。それで今までどちらへ?」


「靖国神社ですよ。一応大叔父が先の大戦で戦死しているものですから。たしか高雄型重巡洋艦だったかにのっててレイテ沖海戦で死んだらしいです。」


「大叔父さんのお名前は?」


「高木康之です。わたしの父かたの祖母の実家ですよ?」


「失礼しました。」

 といって警官は身分証を返還してくれた。寛和はやたらしつこく質問されたので疑問に思って聞いた。


「なにかあったんですか?ずいぶん警備が厳しいみたいですが・・・。」


「避難所に爆弾が設置されていてそれが爆発したようなんですよ。」

 それを聞いて寛和は驚いた。


「それって・・・・。」


「にこにこ新聞の会が犯行声明を出したようで、現在捜査中なんです。」


 同時に午前中に見た鈴鹿のことを思い出した。にこにこ新聞と聞いて小学校の三年三組のことを思い出した。


「ちょっとまってください。にこにこ新聞の会って・・・ひょっとして辻刹那の主催するテログループですか?」


 警官が眼を鋭くした。


「ええ。そうですが、なにか?」


「えっと、実は辻の教え子だったことがあって・・・・同じくあのばあさんの教え子の川本鈴鹿、いまは結婚して苗字が変わっているんですが、そいつが朝避難所からタクシーにのってでていくのを見かけているんですよ。ひょっとしたらあいつも避難民なのかもしれませんけど・・・・ちょっと気になって・・。」


 警官は手をあげて寛和がしゃべるのを止めた。そしてトランシーバーでしゃべった。


「本部、こちら現場の鎹警部補だ。テログループの関係する情報者を確保した。いますぐ本部に向かうので代わりの要員を派遣してくれ。」


『・・・こちら本部、岩崎巡査長。了解しました。交代要員がつき次第、鎹警部補は本部にむかってください。』


「了解した。」


 そのあと鎹警部補につれられて警察のテントにはいり、寛和は根掘り葉掘り聞かれることとなった。

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