00.01プロローグ
それから六年後、寛和は野村小学校の三年三組の中で理不尽に耐えていた。いわゆるイジメである。その日は嫌いな音楽の時間があったが、だからといってソプラノリコーダーを忘れてくるなんてことはしない。しかし、音楽の時間になって寛和が机の青い引き出しを引き出すとそこに笛のはいった布袋はなかった。その結果、担任の辻刹那に立っているように指示されて席でずっと立っている。
イジメの切欠はたいしたことではなかった。出席番号順で森正文という同級生にしてはがたいのいい生徒の前の席になり前には東粽、林次圭吾、隣には樋丘一美という幼馴染にかこまれた席になったことが原因だ。
なんのことはない寛和はアレルギー性鼻炎で、鼻を日常的に噛んでいた。そのことに対し林次圭吾と樋丘一美が汚い、不潔ということを言い始めて、教室じゅうに不潔という渾名でとおることになってしまったのだ。それが集団イジメになり、今の状況を生み出している。
そして、担任の辻刹那はなぜか授業が終わった後、教室の後ろにあるゴミ箱に手を突っ込みそこからリコーダーを引っ張り出してきた。
「富田、これはどういうこと?笛がなんでこんなところにあるの?」
寛和としては知らないというしかない。
「知りません。」
「笛がかってにゴミ箱にあるいていくともいうのかしら?」
「それは・・・だれかがトイレにいっている間に捨てたんだと思います。」
「誰かってだれ?」
「わかりません。」
辻刹那はため息をついた。
「あのねぇ、私の授業が受けたくないならうけたくないで別にかまわないわよ?」
まわりで同級生たちがげらげらわらってる。
「そんなつもりは・・・・。」
「そう?なら今日はエーデルワイスを引けるようになるまでいのこってなさい。」
しかし、今日は寛和が算盤の塾東海林算盤にいく金曜日だった。
「・・先生算盤に・・・・。」
「算盤?塾より学校の勉強のほうが優先でしょ?なにをふざけた事をいっているの!」
「すみません・・・・・。」
辻刹那は首を振って座るように寛和に指示した。
「とりあえず今日は、掃除はいいから私と一緒に来なさい。」
そして寛和と辻が教室をでていくと、森正文のまわりに人だかりができた。
「どんくせ~。」
「今日もやっちゃいますか?」
「しかっし、傑作だ!俺たちが隠したのにあいつが怒られてやがんの!」
「おいおい、あんまりやりすぎるなよ?いくら辻の家がうちの傘下だってやりすぎたらあいつにばれる。ばれたらどうなるか・・・・。」
「森君、臆病ね?」
「そりゃ臆病になるさ。うちのご先祖を恨んで呪いをかけるような家のヤツだぜ?」
「うわぁ・・こえ~~呪い?」
「子孫代々呪い尽くして断絶する呪いなんだってさ。」
職員室にはつれてこられず、北校舎の四階の道徳教室とよばれる畳の間に寛和はつれてこられた。
「・・・富田の家の人間も無様なものね。」
寛和は何をいわれたのかわからなかった。
「先生、それはどういうこと?」
「口の利き方がなってないわね?」
そういって辻刹那は寛和の頬を叩いた。
「どういうことですか?でしょ?」
「すみません・・・・・。」
「いいわ、特別に教えてあげる。あなたの家は江戸末期に富山藩の家老を務めていた家系なのよ。そのくせ武家であるにもかかわらずロシアや朝鮮半島と密貿易を行い暴利をむさぼっていた。それをただしたのが加賀藩の筆頭家老だった森家や辻家。」
そこまでいってからまた口を開いた。
「意地汚いことにあなたの家のご先祖はそれを逆恨みしてうちの家なんかに呪いをしかけた。だからいまだに恨まれてるのよ。」
「え?呪い?そんなことのために・・・。」
「呪いは実在するわ。」
寛和はいったいこの人は何をいっているんだと思った。いくら小学三年生でも魔法や魔術が存在しないことぐらいの判断は付く。そんなことのために・・・。
「せいぜいわたしの出世の邪魔にならないようにおとなしく苛められてなさい。あなたはずっと苦しみながら人生を歩めばいいの。」
ひどいと思った。
それとどうじにさっきの笛の一件のことについて気が付いた。
「・・もしかしてさっきの笛を隠したのは・・・。」
「私の指示で森君がやったみたいね。」
「そんな・・・・なんで先生が・・・・。」
「・・・いいこと教えてあげる。あなたはすでにどうしようもないだろうけど、森家に逆らうのはよしなさい。生きていられるだけで幸せなんだからね。」
「それってどういう・・・・。」
「森家は織田信長公のそば仕えだった森欄丸から続く名家でこの北陸では最大の力を持つ一族。落ちぶれたあなたの家がどうこうしたところでどうにかなる相手ではないのよ。その森家は富田家を眼の敵にしている。せいぜいわたしの出世のために苛められてなさい。まあ無事にことがなったら森家も潰れるでしょうけど。」
「それって・・・。」
「あなたは知らなくていいことよ。」
そういうと辻は離れていった。