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00.13 第十四話『アナザーエルの交渉その二』

その場の向こう側の責任者の男性がおもむろに言った。

「セラフィムへの束縛を解放することはできない。」


特使の男性としては無駄な時間を過ごしたなというのが正直な感想だ。あれもだめこれもだめでどうやって活路を見出すつもりなのか。この際決裂も止む無しとしてはっきり言ったほうがいいだろう。


「わかりました。あなた方は滅ぶ運命にある種であると確定したといっていいでしょうね。」


特使の男性のその言葉にその場がざわつく。


「スター・ストリーム・ユニオンが古い銀河国家とはいえ、我々アナザーエルに対してのその言葉は侮辱だ!」


そうだそうだと頷く技官や技術士官らアナザーエルのテクノラート達。


アナザーエルは人口がひっ迫してきた関係でいくつもの省庁を統廃合している。その関係上、宇宙に関する部分は軍事政権に近い。そのため軍人である士官が政治組織のテクノラートを兼任している場合が多い。


これは彼らが梃入れしている中華人民共和国の共産党の仕組みと同様である。中国共産党のもとになったのが八路軍という、日本軍の中の満州防備を行った関東かんとん軍の一組織であることが大きい。まあ関東軍自体、現地の馬賊や盗賊まがいを組織に組み込んでいたためであるが。



辻参謀のノモンハン事変失敗で関東軍が満州里より撤退せざるを得なくなったことの関係で関東軍内部に亀裂が入っていた。

もともと華北人は『勝ち馬に乗るが、泥船は御免』という義理のない民族性であるから、彼らがソビエト社会主義共和国連邦のKGBに接触をうけて行動を行っていたのもその関係だ。


関係に亀裂がはいったのは大本営からの出向者である辻参謀が戦力の逐次投入という馬鹿げた方策をとり、現場の実行戦力を壊滅させてしまったのにも関わらず、大本営発表では作戦が成功したと発表したからだ。撤退したにも関わらずである。

機関銃を制圧するのに逐次投入という馬鹿げた方策をとったのはあまりに有名すぎるが、当時の関東軍は辻が入ってくる前までは戦線を押し上げており、一部部隊はバイカル湖まで侵入を果たしていた。

ようするにソ連にたいして勝てると戦勝気分にあったわけで、そこで東条英機の子飼いの組織である陸軍憲兵隊出身の辻に手柄を与えようとしたわけだ。

現場の組織運営を全く無視したわけだ。


当然のごとく現場は反発する。当初から前線に配置されていた八路軍は辻の指揮権発動に強く反発していた。

しかし当時まで指揮していた日本人士官を本土に召喚されてしまい指揮があやふやになってしまった。そのうえでのノモンハン事変である。華北人軍属達が反旗を翻すのもある意味当然ではある。そこにKGBが接触してきてという流れだ。



そのことを思い出して特使の男性は苦笑いをした。

「あなた方は結局、組み込んではならない因子を組み込んでしまったんですよ。あなた方の因子だけならまだ許容範囲です。しかし、あなたがたがあらたに組み込んだ因子は宇宙の常識では遺伝子兵器に相当する因子です。ほかの因子を取り込んでいく優位性の因子である部分まではいいんですが、いずれこの因子のみが残ります。」


むこうの技術士官が首を傾げた。

「それのどこに問題が?」


事の重要性が理解されてないなと思った。

「これ単体では必ず内部崩壊して自滅してその種が壊滅する因子なんですよ。」


特使の男性がそのことをいうと一瞬その場が静かになった。

「この因子が外へ出ていくことは文明宇宙協定ネセラに反します。速やかなる排除が求められています。それに反するならネセラに加盟するすべての宇宙国家が排除に乗り出すでしょう。」


「馬鹿な・・・・。」

「そんな話は聞いたことないぞ!」


余計なことを言うまいとは思ったが付け加えた。

「・・・・もっともこの手の因子は進化過程でその自滅性を徐々に落としていきます。その自滅因子の減衰率が現在どの程度か、しっかり測定する必要がありますね。すぐにすべてを消滅処分せよとはなりません。しかし、それが程度を超えるなら処分を行わざるを得ないでしょう。」


特使の男性はさらに付け加えた。

「減衰率はほかの因子を取り込んだ率が大きいほど当然大きくなります。ただこの手の因子を少しでも組み込まれると安定性に欠ける文明になりますね。出生率を改善するという当初の目的を果たすのに都合がいいわけでしょうけど・・・。」


技術士官のその男性がうんざりしているのを隠さないで言った。

「・・まだなにかあるというのですか?」


「他の因子の出生率を故意に低下させている文明構築プログラムの早急なる是正を特使として求めます。このまま先進国の出生率の低下を招いている性に対する疚しいものだとい思想はすぐさま排除してください。特に文明発生因子をもつ日本人におけるこの思想は恒星系全体として致命的です。」

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