01.07 第八話『国家の歯車と産業』
だいぶん間があいてしました。
峰岸は寛和の言葉に首をかしげていた。
「仮にそれが事実だとして森家に何のメリットがある?」
その問いにすぐに答えれた。
「中華人民共和国の長老会に恩を売っておけばそれは中華人民共和国の世界征服事業完遂時に利益となると考えれるからでしょうね。ただし、中国側がそのように表向きは取引材料があるように見せかけていますが、実際にはそれはない。それにアンビバレンツがあります。」
寛和の説明に峰岸がまた眉をしかめた。
「つまり中国にいいように利用されてるってお前さんは言いたいわけか?」
「そうですね。ただ俺個人の感覚では森家は自家のこと優先で、日本の公共の利益はまったく無視ですから、排除できるなら排除しておいたほうがいい存在です。」
峰岸は一瞬黙った。
「・・・・・・お前さんにとっては森家は厭わしい存在か。」
「そうですね。森家は日本の害にしかなりません。それどころか世界にとっても害悪です。」
峰岸は問いかけるように言った。
「俺は公共インフラの建設に関わっていたからわかるんだが・・・・・日本の中で森家の果たしている役割は大きいと思うぞ?国を回している歯車の一つといっていい。それを排除するなんてのはそれこそ害にならないか?」
「・・・おれの地元で野菜製造栽培のパイオニアの会社があったんですけど、そこに森家の分家の女性が勤めていたんですが、その女性はその会社の取引先をつぎつぎ切っていってそして会社をやめました。ところが今度は森家の運営する同じような会社がつくられ、そこにそこにその森家の女性は参加して、先のパイオニアの会社の取引先できられた会社を取引先としてえてました。そのうえ森家はその自治体に影響力を行使して何億ともいう補助金を得て大規模に野菜製造をおこなっていたんですよ。」
「それは・・・・・。」
「パイオニアの会社は取引先を切られるまでかなりの収益を得ていましたが、森家の女性が辞める前後にはぎりぎり存続できるかどうかまでおいこまれていたんですよ。ようするに他者の得ている利益を森家はかすめ取る。真面目に努力している経営者や労働者が馬鹿をみるんです。パイオニアをつぶして我田引水するような勢力は国家運営上好ましくないのは自明の理でしょう。そんなことをすればだれも新しい産業を作らなくなりますから。」
峰岸は目を細めていた。
「なるほど。」
「ほかにも例はありますけど・・・・。」
「いやいい。やり口はわかった。」
「・・・これから地球は寒冷期に入ります。そうすると日照量がへり、食物生産が劇的に減少します。それを防ぐには野菜や穀類の工場生産を行わなくてはいけない。そのためには莫大な投資がひつようになります。栽培する野菜や穀類の成長や管理に適した波長の発光ダイオードの開発も必要ですからね。さきの話の会社はそれの中核になる会社になるはずだったのにそれをつぶされたんです。」
「・・・だがまあ・・・・競争だから仕方ない面があるんじゃないか?」
「そういう見方もできますけど、新しいことをするには温室栽培の組織が必要なんですよ。厳しい競争だけに晒される会社は新しいことをする余裕はでてきませんからね。勘違いされやすいですが、激しい競争に単にさらされればうまくいくなんて幻想です。競争にさらされれば洗練される部分はたしかにあります。しかし、過度の競争は産業を落ち込ませるだけなんですよ。デフレ下の日本企業をみていればそれはわかるでしょう?あるものを工夫してつかうだけ・・・新しいものを作り出す余裕なんてどこにもないんですよ。」
峰岸はそれを聞いてはっとした様子だった。
「・・そうか・・・確かに新しいことが日本で生まれなくなったのは・・・・・・そういうことか。」
「だから害悪なんですよ。」
峰岸はため息をついた。
「だがなぁ・・・・国を動かす歯車を取り外すと、代わりのものがどうしても必要になる。そういった存在を作り出すのは並大抵の努力じゃすまないぞ?」
「腐敗を除去するのは、きちんと動く組織を作り出すためです。いまのままでは森家の組織防衛によって日本は沈むだけです。」