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チートウィンドウ4

  

 手づかみで肉を食べながら、ウィンドウを眺める。

なんだかという魔物の肉らしい。

聞こえてくる会話から想像するに、一般的に肉用の家畜の飼育はされておらず、魔物の肉が食用として流通しているらしい。

魔物の肉って大丈夫なのかなと思いつつ、魔法で殺菌等々してみた。

万能ウィンドウの地図機能によると。

 ギルドは町の中心部にあった。

 説明文によると、現在は登録冒険者の依頼の受注を総括するのが主な仕事になっているようだ。

 それに伴い、登録冒険者のランク付けや育成なども行っているという。

 派遣業かな。

 肉の脂で汚れた手を舐める。ふりをして、浄化する。

 バゲットパンを食べる。

 時間が経ったせいか、ちょっと硬い。

 果汁たぶん80%のジュースは文句なしに美味しい。

「ごちそうさまでした」

「あいよ」

 店のおばちゃんに銅貨1枚を渡し、店を出る。

 うーん。

 箸がないのは分かってたけど、ナイフとフォークまでないとはね。

 この店だからなのか、この町だからなのか、この国だからなのか、この世界だからなのか。

 まあ、浄化できるからいいんだけど。


 てくてく大通りを歩いていくと、屋台の並びが見えてくる。

 美味しい匂いがする。

 お昼ごはん食べたばかりじゃなかったら買うのになぁ。

 肉の香ばしい匂いが多いなあ。

 甘いもの系が見当たらない。

 ギルドは円形の3階建ての建物だった。

 中に入っていくと、外国のバーに置いてあるような背の高い小さな丸テーブルがいくつもあって、雑談している人たちがいっぱいいた。

 カウンタには3人窓口の人が並んでいる。

 壁には依頼の紙らしいものがびっしり貼ってあった。

 依頼の紙を見に行く。

 さっきの食堂でウィンドウを出したときに、音声切替を解除して言語切替ボタンを押したら、文字も音声も切り替わった。

 なんというご都合ウィンドウ。

 バンザイである。

 オーク討伐、薬草採取、ゴブリン討伐、デュラハンの剣、レッドボアの牙、等々。

 それぞれの依頼には、達成条件や報酬も記載されている。

 つまり、これらの依頼を受けるには、ギルドに登録しないといけないわけだ。

 そして冒険者はこういう依頼をこなして生計を立てている人たち。

 そういえば、改めて聞かなかったけれど、2階の本を読むのはギルド登録なくてもいいのかな?

 アンナさんの口ぶりだと、気にしなくてよさそうだったけど。

 依頼とは別の場所に張ってあるギルド登録案内を読む。

 登録条件は、10歳以上であることと、銀貨1枚の支払い。

 うん、一応登録してみようかな。

 ちょうど空いた窓口に向かう。

 黒髪を夜会巻きっぽくした、ちょっときつそうな女性だ。

「あの」

「はい」

「登録をしたいんですけれど」

 言うと、怪訝そうに眉を寄せる。

「申し訳ないんですが、10歳以上でないと登録できないことになっているです。失礼ですが、年齢は」

 あれ。

 10歳未満に見えてるのかな?

 私ってば、一桁に見られてるの。

 あれ。

 もしかして。

 朝のホットミルクとか、アンナさんが色々丁寧に教えてくれるのって、私をお子ちゃまと思ってのこと?

 ががーん。

 いやでも待てよ。

 よし。

「10歳です」

「・・・そうですか」

 自己申告でいいらしい。

 信じているのかいないのか、黒髪さんは顎を引いた。

「それでは、お名前を教えていただけますか」

「ナツです」

「ナツさんですね」

 言いながら、カウンターの向こうで手元を操作する。

「こちらがギルドカードになります」

 受け取ったカードには、『名前ナツ ギルドランクF』と書かれていた。

「依頼人からの指定がない限り、受けられる依頼に制限はありません。自分の実力に見合ったものをお選びください。ギルドカードは世界共通ですので、他の国のギルドでもこのカードを使っていただけます。ギルドランクはギルドへの貢献度により変わります。貢献度の判断は、だいたいは依頼達成ですね。FからE、Aに上がって行き、その上のSが最高峰になります」

 何か質問はありますかと聞かれる。

 レベル上げのついでにお小遣い稼ぎしようかなぐらいの気持ちだからなー。

「2階の本は、いつでも読んでいいですか?」

「・・・・・はい。お好きに読んでいただいてかまいません。ただ、部屋から持ち出そうとすると、防衛装置が働くので気をつけてください。それから、3階はギルドマスターの部屋なので、近づかないように」

「はい。ありがとうございました」

 早速2階に向かう。

 丸い建物の壁に沿って軽く螺旋になっている階段を上ると、2階はまるで図書館だった。

 木の本棚が所狭しと整列している。

 1冊手に取ってみて、感動した。

 厚みのある表紙、年代を感じさせる紙、インクの滲む文字。

 けして読みやすくはないけれど、見ているだけで胸が高鳴る。

 なんて、感動してる場合じゃない。

 我に返り、タイトルを読む。

 ロスマニア帝国興亡史。

 興亡したらしい。

 どの本に記載があるか、手がかりもないし、とりあえず片端から読んでいこう。

 1日1冊3日で3冊。5日あれば5冊読めるよ。

 ・・・明日からは午前中を読書に当てて、ごはんを食べたら、午後はレベル上げだね。

 



 午前は、ユスティニアヌス帝の覇業を読んで、屋台の串焼きを食べて。

 午後。

 ギルドで黒髪さんのアドバイスを受けて、ラビラビの肉×5の調達依頼を受けた。

 ラビラビはウサギみたいな生き物だ。

 すばしこいから見つけて倒すのは大変だけれど、攻撃力が弱いから、攻撃を受けてもあまり被害がない。とのこと。

 常時依頼なので、期日もない。

 怪我をしないようにねと注意を受けて送り出された。


 というわけで、どん。

 森です。

 地図を出し、森部分をクローズアップして、地図画面の大きさは縮小してウィンドウの右上に固定する。

 地図機能の魔石探査ボタンを押す。

 森地図に一斉に大小さまざまの光点が表示された。

 たぶん光が弱いものほど、弱い生き物なんだろう。

 近場の弱い光を目指して歩き出す。

 すぐ傍にあったのは、リスみたいな生き物だ。

 風を飛ばしてカットする。

 魔石と尻尾部分だけがその場に残った。

 この尻尾、どうすればいいんだろう?

 とりあえず収納。

「肉もこれで残るのかな?」

 殺すと魔石になる。

 肉ってどうやって手に入るのかと悩んでいたけれど、こんな感じで魔石と肉が落ちるのかも。

「ファンタジーって不思議」

 弱い光を片端から殺していく。

 30分ほど経った頃、うさぎっぽいのを発見した。

 目が合った瞬間逃げられる。

「・・・だめじゃん」

 ため息をつく。

 とりあえずまた片端から殺して行く。

 そのうちまたラビラビに辿り着くだろう。

 はい、どん。

 ラビラビだ。

 今度は逃げられないように、すぐに風を起こす。

 さっきよりも、ラビラビの動きがゆるく感じられたけど、慣れたせいかな?

 ラビラビの光点もなんとなく分かってきたので、大きな光点に近づかないようにしながらラビラビを狙い撃ちする。

 ウハウハだ。

 最後のほうにはラビラビがほとんど止まって見えた。

 ・・・なんでだろうね。

 アイテムフォルダのラビラビの肉は120だ。

 レベルはなんと、25になっていた。

「・・・そろそろ帰ろうかな」

 気がつけば空は茜色だ。

 お腹もすいてきたし。

「あ」

 ギルドにどうやって肉を渡そう。

 手をかざして出そうと思えば、アイテムフォルダの中身はそこに出せるんだけど、それはしないほうがいいよね。

「うーん」

 袋がほしい。

 そしてできれば渡す前まではアイテムフォルダに入れておきたい。

 だって重いから。

「アンナさんのところで、袋って売ってたかなあ」

 とりあえず行ってみよう。 

 地図のホームボタンを押す。

 宿屋の自分の部屋にいた。

 ホーム機能に宿屋の部屋を設定したのだ。

 宿を出て服屋に向かう。


「こんにちは」

 そろりとドアを開けて入ると、誰もいなかった。

 あれ?

「いらっしゃいませ」

 奥からアンナさんが出てくる。

 相変わらず柔和な笑顔だ。

「こんにちは。昨日はありがとうございました。早速ギルドに行って、登録と、あと、2階にも行ってみました」

「まあ、そうですか」

「それで、依頼を受けてみたんですけど、袋が欲しい思って。袋って扱ってますか?」

「袋ですか? どういった用途のものでしょう」

「ラビラビの肉を5つギルドに提出したいんです」

「ああ。そういった袋でしたら、アイテムバッグがこの先の魔法店で売っていますよ」

 アイテムバッグ。

 魔法店てことだし、たぶん、アイテムフォルダのバッグバーション?

「ものにもよりますけれど、ラビラビの肉が5つ入るものでしたら、銅貨1枚で買えますし、今後も続けていくようでしたら、もう少し大き目のもののほうがいいかもしれませんね」

 なるほど。

「じゃあ、魔法店に行ってみます」

 詳しい場所をアンナさんに聞いて、店を出る。

 大通りを町の中心部に向かって何軒目かのところだったので、すぐに分かった。

 枯れかけた草の植木鉢や、尖った帽子が通りに面した場所に陳列されていて、怪しさ満開だ。

 どうしよう。

 重さとか気にしなければ、ふつうの袋に入れていけばいいだけだし。

 でもこの先も考えるとあったほうが誤魔化すのに便利だよね。

「うーん」

 とりあえず、悩んだ末に入ってみる。

 アンナさんが何の注意もしなかったということは、そんなに危険じゃなさそうだし。

 ドアを開けると、外からは見えなかった店の中の陳列棚には、虫の死骸や何かの角や、水晶や杖等が置かれていた。

 怪しさが増した。

 店の奥から出てくる人に、警戒心が沸き起こる。

 しかし。

「いらっしゃいませ」

 現れたのは、気の弱そうな男性だ。

 40歳ぐらいの、凡庸な顔立ちの・・・。

「今日は、どのようなご用で?」

 おどろおどろしいお婆さんでも出てくるのかと持っていただけに、気が抜けた。

「あの、アイテムバッグを買いたいんです。とりあえずは、ラビラビのお肉を5つギルドに提出したいんですけど。できれば少し大きめのもので」

「冒険者の方でしたか」

「昨日登録したばかりなんですけど」

 幼い見た目だろうはるかにも、丁寧に接してくれる。

 店の中のものを見ていると、アイテムバッグは金貨1枚から10枚ぐらいで陳列されている。

「予算はありますか?」

「いえ。ええと、特に決めていないので」

「そうですか。では。こちらなどいかがでしょう。間口を気にしなくて良いタイプなので、少し高くなりますが、オークぐらいなら、5体は収めることができますよ。初心者のうちはこれぐらいあれば十分かと思います」

「じゃあ、それを」

 男の提案したものは、ポケットに入りそうな小さな巾着袋だ。

 オークの大きさがどのくらいのものか知らないが、内容量は問題じゃない。

 金貨五枚を支払い、店を出る。

 一旦宿に戻り、部屋の中でアイテムフォルダから出した肉をアイテムバッグに入れ替える。

 めんどくさい。

 常時依頼だったということは恒常的に出ている依頼なのだと考え、はるかは50体ほどをギルド窓口に提出することにした。

 生肉なんて持っていてもしょうがないからね。

 かといって、目立つつもりもない。

 その境目がはるかにとってはラビラビの肉50体だったのだ。

 ギルド窓口では偶然にも黒髪さんの列だった。

 縁があるなぁ。

「これは、綺麗に剥ぎ取れていますね」

 ・・・・・・。

 あれって、ほんとは、剥ぎ取るものだったんだ?

 はるかは1つ賢くなった。

 生き物を殺すと、自動的に魔石と素材になるわけではないらしい。

 良かった、万能ウィンドウがあって。

 肉などスーパーのパック詰めしか見たことがないはるかには、死体を捌くなんて心情的にも技術的にもできそうにない。

「依頼達成おめでとうございます」

「ありがとうございます」

 今回の討伐結果を記録されたギルドカードを受け取り、報酬は現金でもらう。

 まだまだ金貨ばかりなので、銀貨銅貨小銅貨はありがたい。

 特に小銅貨は、屋台の品物が概ね1つ小銅貨1枚という価格設定であることが多いので、なくてはならないものだった。

「ラビラビの肉の調達がここまでできるようでしたら、一角ウサギやモブゴブリンの討伐も大丈夫かしら。どちらも繁殖力が強くて、常時依頼が出ているのよ。強さも、少し慣れてきた初心者冒険者が挑戦するぐらいですね」

 うーん。

 強さの基準が良く分からないからな。

 レベルも他の人のは見えないし。

 ラビラビよりは強い程度ってことかな?

 ・・・他の人のレベル、見えないかなあ。

 ここまで万能ウィンドウあったんだから、何かあるんじゃないかとはるかは思った。

 ここで探すわけもいかないので、一旦宿屋に帰ることにする。

「一角ウサギとボブゴブリン討伐を受けてみます」

「畏まりました。討伐依頼は、指定の部位の提出が必要になるから気をつけて。一角ウサギは角で、モブゴブリンは左耳よ」

「はい。よろしくお願いします」

 はるかがぺこりとお辞儀をすると、黒髪さんは一瞬苦笑を浮かべた。

 はるかが顔を上げた頃には、その苦笑は消えている。

 ギルド内にいた他の冒険者たちがざわめいているのにも気づかず、はるかはギルドを後にした。

 角は残りそうだけど、モブゴブリンの左耳って討伐した後に残るのかなぁと考えながら。



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