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チートウィンドウ2

「わ」

 石碑を見つめてじっと佇んでいると、ばったのような虫がはるかの足を上っていた。

 かすかな感触に目を向けたはるかは、虫の所業に目を剥き、足を払う。

 払った拍子に足元がおぼつかなくなり、よろけたところで、はるかは偶然その虫を踏んづけていた。

ほんのりと足裏に伝わる感触。

「う、わ。踏んじゃった」

 イヤァな表情で靴の裏を見るはるか。

 けれど靴の裏には虫の死骸はなく、代わりに小指の先ほどの小さな石があった、

 さっきまではなかったはずだ。

 いくら小さいとはいえ、こんな綺麗な石、あったら先に気がついている。

 いぶかしく思うと同時に、意識の隅に何かがよぎる。

それははるかが発したものではなく、よそから意識に干渉が入ったような感覚だった。

 ・・・・・・・・・・。

 はるかはウィンドウを立ち上げた。

 ウィンドウの上部部分に、『レベルアップ』と書いてある。

 読み流すとその文字は消えた。

「れべるあっぷ」

 メニューボタンを押し、その中の一つ、プロフィールを押してみる。

 中央画面に小ウィンドウが出て、プロフィールが表示された。


 名前  佐々木はるか

 年齢  15

 職業  学生

 称号  異界人

 レベル 2

 体力  16/22

 魔力  27/27

 

 スキル 天賜

 

「・・・なるほどね」

 なにがなるほどなのか分からないが、とりあえず言ってみる。

 先ほどの石をアイテムフォルダに収納すると、魔石(超小粒)の項目ができた。

 あれは魔石だったということだ。

魔石って何。

「とりあえず、レベル上げでもしようかな」

 お金があれば生きていける世界でもないだろう。

 帰る方法を探すのにも、できることは多いほうが良い。

 あの小さな虫を殺してレベルを上げていけるなら、なんとかなるはずだ。

 だからといって、はるかは素手で虫を殺すのは嫌だった。

 靴で踏み潰すのも良い気分ではない。

「うーん」

 腕を組んで悩んで、はるかは自分のプロフィールの魔力の項目を長押しした。

 魔力についての説明文が表示されるが、どういうものであるかを説明していても、どう使うかの説明はない。

 魔力は魔法を使うときに消費する力らしい。

 うんうん、そうだろうね。

 それぐらいなら説明文を読まなくても想像の範疇だよ。

「うーん」

 メニューボタンを押して表示された項目を片端から指先で辿り、取っ掛かりになるものでもないかと探す。

 お役立ちブックフォルダ。

 フォルダを開くと、家庭の医学、お菓子百科から始まり、魔物大百科、魔石の加工、魔導書まであった。

「やったね、ご都合展開」

 魔導書をクリックして入門編から読んでみる。

 魔法を使うには意思や想像力といったものが大切になってくるらしい。

 それがうまくいくと、魔力の消費も抑えやすくなるし、精度もより上がる。

 魔力はあるのだから、自分はすでに使えるはず。

 確たる自信があったほどではないが、そう思い、はるかは手のひらを上にして、そこに炎を出してみた。

 思うとおりの炎が現れた。

「よし」

 プロフィールを確認してみると、魔力数値が減っていない。

 その後、光や水やらを次々出していくと、10回ほど繰り返した後に、ようやく魔力数値が1つ減っていた。

「よしよし」

 はるかはちろりと周囲を見回した。

 種々様々な虫がいるのを確認し、いっせいに風を走らせる。

 一瞬にしてほとんどが魔石に姿を変えた。

 風が外れてしまったものは、逃げていく。

 魔力は1減り、レベルは5増えていた。

 魔石を収納すると、魔石は計17あった。

 さすがに虫1匹につきレベルが1上がっていくというものでもないらしい。

「とりあえず地道にやるしかないか」

 その言葉通り、はるかは地道にレベル上げに徹した。

 夕方になる頃には、レベルは13になっていた。

レベルが上がると、その次のレベルまではより多く虫を殺さなければならないようで、結構な数を殺し続けたものの、虫ばかりだったために行き詰まってきたのだ。

 魔法の使い方にも慣れてきて、魔力はまだ多少残っている。

 けれどこのまま森にいるつもりはなかった。

 自分が攻撃系の魔法を使えることは分かったけれど、さすがに夜の森は怖い。

「どうしよう」

 自分の制服姿を見下ろす。

 マップ機能があるので宿屋のまん前に行くこともできるしお金もあるけれど、自分の制服姿は果たしてこっちの世界の人たちに不審を抱かせるものではないか、そして金貨を支払いに使っても大丈夫だろうか。

「うーん」

 とりあえず先にこの近くの村の宿屋の説明文を地図で見て、評判の良い宿屋に当たりをつける。

 次に服屋も。

 ブレザーを脱いで収納し、ブラウス姿になる。

 まだこっちのほうが違和感ないだろう。

 ひとまず服屋の傍の路地裏地点を二回クリックした。

「あら不思議、路地裏についちゃいました」

 何度体験しても不思議だ。

 石畳の路地裏、すぐそこの大通りは、相変わらず中世風の衣装の人たちが行き交っていた。

 足早に大通りに出て、服屋に入る。

「???????」

『いらっしゃいませ』

 30代後半ぐらいの女性がやわらかく声をかけた。

 茶色い髪を結い上げている。

 顔の作りは美人ではないけれど、穏やかそうな癒し系だ。

 字幕を見て、言葉が通じないことを思い出した。

 ウィンドウを出し、字幕を解除して音声切替にする。

「どうかなさいましたか」

「いえ。あの、身に着けるものを一式買いたいんですけれど」

「一式でございますか」

 ゆっくりした話し方だ。

 会話しながらはるかは握った手の中に金貨を一枚出した。

「これで足りますか」

「まあ。ええ、足りますよ」

 一瞬彼女は目を見張ったものの、穏やかに頷きはるかを安心させた。

「少々お待ちくださいね」

 店の中からワンピースや靴を持ってくる。

 ふんわりしたスカートや、袖口がパフっぽくなっていて可愛らしい。

 大通りで見かけた人たちの格好と違和感ないものだ。

「いかがですか?」

「かわいらしいですね。買いたいです」

「ありがとうございます」

「ここで着替えてもいいですか?」

「ええ、どうぞ。店の奥を使ってください」

 言葉に甘えて、はるかは店の奥で着替えを済ませた。

 脱いだものは畳んで手荷物にする。

 靴は浄化の魔法をかけて服と一緒に持つ。

 金貨を渡すと、苦笑された。

「お嬢様のような小さなお子様が金貨を出すと、よからぬ企みを持つ者もいます。お一人で行動されているなら、お気をつけくださいね」

「・・・ありがとう」

「なにか、事情がおありなのでしょう。もしよければ、金貨を一枚両替しましょうか?」

「いいんですか?」

 問い返すと、また苦笑される。

「私がよからぬ企みを持つ者だったら、お嬢様がまだ金貨を持っているかという確認のために両替を持ちかけたのかもしれませんよ」

「あ・・・」

 言われた先からやってしまった。

 ちらりと上目遣いに見る。

 この女性ははるかよりも頭二つ分ほども背が大きい。

「失敗を繰り返さないように。すべて、ご自分に返ってきますからね」

「はい。あの、ありがとうございます、色々と」

 女性はにっこりと笑い、はるかの頭を撫でた。

 その後、金貨を2枚両替してもらい、宿に向かった。


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