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それからの物語

 タクトが地球に一時帰宅し、牛丼をお土産に持ってきてから一ヶ月が経った。

 そのせいでマオが牛丼にはまってしまい、「もう一度、牛丼を買ってくるにゃ!」とせがんでくる。

 しかし、地球に帰るための次元回廊を開くには、ライトクリスタルを用意して座標を刻み、そして莫大な魔力を解放するという儀式が必要だ。

 無論、帰還用のライトクリスタルも必要である。

 いくらタクトでも、そうそう気軽には行き来できない。


 もっとも牛丼なんて、白米の上に牛肉を乗せただけの料理だ。

『すぎ家』には敵わないかも知れないが、形だけなら真似できる。

 タクトが街で材料を買ってきて作ってやると、それでマオは十分満足してくれた。


「美味しいにゃ! 毎日食べたいにゃ!」


「毎日だと栄養が偏るから、たまにね」


「にゃーん……」


 そのような感じでマオは毎日にゃんにゃんしているし、クララメラは相変わらず一日の大半を寝て過ごしている。

 つまり、魔導古書店アジールは何も変わっていない。

 ただ一つタクトが気にしているのは、あの牛丼を食べて以来、セラナが来店していないということだ。


 おそらく、真面目に勉学に励んでいるのだろう。

 普段の姿からは想像も出来ないが、あれでもセラナはララスギア魔術学園の首席なのだ。

 今すぐ卒業しても差し支えないレベルに達している。

 むしろ、さっさと卒業試験を受けてしまったほうが、学費も節約できていいことだらけだ。


 本人もそれを自覚したらしく、卒業試験に向けて色々やっているらしい。

 多分、近いうちに卒業証書と魔術師免許を持ってドヤ顔で現われるだろう。


「タクトくーん」


 そう。こんな感じの声を出しながら――


「って、本物のセラナさんでしたか」


 タクトが読みかけの本から顔を上げると、そこにはよく知っている銀髪の少女が立っていた。


「え、何その淡白な反応! 一ヶ月ぶりに会ったのに酷い!」


 セラナは涙目になり、だだっ子のように手をブンブン振り回す。

 いつも通りのセラナだ。

 たった一ヶ月会っていなかっただけなのに、そんな彼女の反応が懐かしく思えてしまう。

 どうやらタクトは自分でも気付かぬうちに、セラナに会えなかったこの一ヶ月をとても寂しく思ってたらしい。


「酷くないですよ。それよりもセラナさん。その手に持っている筒はもしかして……」


「ふっふっふ。じゃーん!」


 セラナは黒い筒を自慢げに開けた。きゅぽん、といい音が鳴る。

 そして、中から出てきたのは――まさに卒業証書であった。


「セラナさん、卒業したんですね! おめでとうございます!」


「えへへ、ありがと! 実は昨日、卒業試験だったの。受かってよかったぁ」


「セラナさんの実力なら、もっと早く受けても大丈夫だっと思いますよ?」


「うーん。でも実技はともかく筆記は難しそうだったから……過去問の勉強して対策バッチリにしたかったの!」


「なるほど。セラナさん、意外と計画的な一面があるんですね。偉い偉い」


「わーい、褒められちゃった」


 セラナは心底嬉しそうに破顔する。

 しかし年下の人間に「偉い偉い」と言われて喜ぶのは如何なものか。

 プライドが足りないと言わざるをえない。


「って、どうして私、タクトくんに褒められて喜んでるの! 私のほうがお姉ちゃんなんだからね!」


「そのフレーズも久しぶりに聞きましたね。卒業してもセラナさんはセラナさんのままで、少し安心しました」


「こ、これでも成長してるんだから!」


 セラナは必死の形相で訴えてくる。

 無論、こうして無事に卒業したわけだから、出会った頃に比べたら成長しているのだろう。

 しかし具体的にどこかどう成長したのかと問われると……タクトはまるで思いつかなかった。


「……まあ、セラナさんは頑張り屋さんですからね。その調子で一流魔術師になってください。そして、この店の売上に貢献してくださいよ」


「貢献するするー。けど、ちょっと待っててね。卒業証書はもらったけど、魔術師免許が発行されるのは来週だから!」


「いくらでも待ちますよ」


 そもそも、免許を得ることと収入を得ることはまるで違う。

 正式な魔術師になれば『見習いの杖』を通すことなく自在に魔術を使えるから、出来ることの幅は桁違いに増える。

 しかし、だからといって、いきなりダンジョンを一人で攻略できるわけでも、優れた研究成果を発表できるわけでもない。

 魔術師として安定した収入を得るには、険しい道のりがあるのだ。


「セラナさん。真面目な話、これからどうやって生活するんです? まさか卒業してからも親の仕送りに頼るわけじゃないんでしょう?」


「うーん……しばらくはバイトとかするつもりだけど」


「だったら、いっそ、アジールでバイトしませんか?」


 魔導古書店アジールには現在、タクトを含めて三人の店員がいる。


 その中でマオはそこそこ頑張ってくれているのだが、やはりまだまだ頼りない。

 あと遊びたいお年頃らしく、カウンターでジッと座っているのに耐えきれず、庭をにゃんにゃん走り回ってしまうのだ。

 今だって虫網を持ってクワガタとの決闘を繰り広げているはず。


 そしてクララメラは、一日の大半を寝て過ごしているから論外である。


 つまり、この店でまともに働いているのはタクトだけなのだ。

 正直、前からバイトを雇いたいと思っていた。


「私がここでバイト!? いいのッ?」


「むしろ、こちらからお願いしたいくらいですよ。セラナさんがよければ是非」


「是非是非! 私、そんなに頼りがいある!?」


「いえ。この際、マオよりマシならそれでいいんです。大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫に決まってるでしょ! いくら何でもマオちゃんよりはちゃんとしてるわよ!」


 セラナは唇を尖らせて叫んだ。

 そのとき、話題のマオが店に入ってきた。


「にゃー、誰か私の名前を呼んだかにゃ?」


「あ、マオちゃんだ! 相変わらず可愛い!」


「にゃにゃ? セラナが来てるにゃ! お久しぶりにゃん!」


 マオはタタタと走ってきてセラナに抱きつく。

 耳と尻尾がピコピコ動いていて、とても嬉しそうだ。

 セラナも幸せそうな笑顔で、マオの頭を撫でる。

 相変わらず仲がいい。

 というか、セラナとマオは基本的に誰とでも仲良くなってしまうので、そんな二人が顔を合わせれば親友になってしまうのは必然だった。


「ふぁぁ……何だかセラナちゃんの声が聞こえるわ」


 そして今度は二階からクララメラが降りてきた。

 相変わらずネグリジェのままで、眠そうにアクビをしながら目を擦っている。


「お久しぶりです、クララメラ様!」


「あら、セラナちゃん、幻聴じゃなくて本物だったのね。久しぶり。今日はどうしたの?」


「実はですね……じゃじゃーん!」


 セラナは女神に対しても卒業証書を自慢げに見せびらかした。

 するとクララメラは頬に手を当て、あらあらと驚いてみせる。


「セラナちゃん、これで一人前の魔術師になったのね」


「はい! このアジールで買った本のおかげです!」


「ふふ、そう言ってくれると嬉しいわ。けど……セラナちゃん。卒業したのに制服のままね。もしかして、いまだに他の服を持っていないの?」


「う……それは」


 確かに言われてみれば、セラナはララスギア魔術学園の制服のままだった。

 制服以外の服を持っていないと以前聞いたが……卒業すると、こういう予想外の問題に繋がるのか。


「セラナさん、制服をずっと着ていたいがために卒業を遅らせていたとか……?」


「ち、違うわよ! それに卒業したって制服着ててもいいでしょ!?」


「え?」


 セラナの反論にタクトは言葉をつまらせる。

 論破されたからではない。

 呆れてものも言えなくなったのだ。


「セラナちゃん。卒業したのに制服着てたら、ただのコスプレよ?」


「コスプレイヤーにゃーん」


「うぅ……」


 クララメラとマオに非難され、セラナは唸り始めた。

 しかし、唸ろうが泣こうが、現実は変わらない。


「でも服を買うお金が……」


 また別の厳しい現実がのしかかる。

 貧乏コスプレイヤー、ここに爆誕。

 学校を卒業して魔術師になるとは、かくも厳しいものだったのか。

 タクトはまるで知らなかった。


「そうねぇ……じゃあ私がメイド服を作ってあげるわ」


「私とお揃いにゃん!」


「マオちゃんとお揃いなのは嬉しいし、メイド服は可愛いと思いますけど、普段着にするのはちょっと恥ずかしいですよー!」


 セラナはまともなことを言い出す。

 なんと彼女にも人並みの羞恥心があったのだ。

 これはタクトにとって新鮮な発見である。


「ああ、そうだ店長。セラナさんをバイトとして雇う予定なんですけど、どうせならアジールの制服をメイド服にしたらどうですか? マオが既に着ていることですし」


「あら、それはいいアイデアね。店が華やかになるわ。私の分も作っちゃいましょう!」


 セラナとクララメラのメイド服姿。

 それを想像したタクトは、悪くないと思った。

 なにせ二人とも、中身はともかく外見は大変な美少女だ。

 店が華やかになるのは確かで、おそらく客足も増えるだろう。

 売上に直結するかは微妙なところだが、タクトの目の保養になるだけでも意味はある。


「制服として着るなら恥ずかしくない! クララメラ様、お願いします!」


「はーい。頑張って作るわー。けど、三着も作るのは大変そうね」


 睡眠時間の長いクララメラが作り終えるのは、果たしていつのことだろうか。


「あれ、ちょっと待ってください。今、三着と言いましたか? マオの分は既にありますよね。二着じゃないんですか?」


「え、三着よ。だって、私とセラナちゃんと、タクトの分。お店の制服にするなら、全員分作らないとねぇ」


「あ」


 クララメラのニヤニヤとした笑顔を見て、タクトは自分が墓穴を掘ったことを理解した。

 なぜ自分はメイド服を制服にしようなどと言い出してしまったのか。

 こういう流れになるのは目に見えていたではないか。

 迂闊にも程がある。


「タクトくんのメイド服! この中で一番似合いそう!」


「にゃーん。きっと可愛いにゃー」


 セラナだけでなく、マオまではしゃぎだす。

 参った。これには参った。

 そろそろ年貢の納め時だろうか?


        △


 タクトがメイド服を着るか否かという問題は先送りにして、セラナの卒業祝いに外食をすることにした。

 場所は、エミリーがいつも冷凍魚を降ろしている、あの食堂だ。

 せっかくなので、そのエミリーと、セラナの親友であるシンシアも呼んだ。

 出来れば、かつて一緒にイカの刺身を食べたエルフの兄妹も呼びたかったが、彼らは隣の国にいる。

 いずれ遊びに行くとして、今日は残念ながら無理だった。


「いやー、しかしセラナちゃんもついに正式な魔術師かぁ。めでたいなぁ!」


 エミリーはアジのフライをつまみに、ビールをごきゅごきゅと飲みながら言う。


「ありがとうございます。エミリー先輩!」


「せ、先輩!? いやぁ、照れるなぁ」


 セラナに先輩と言われたエミリーは、はにかみながら頭をかく。

 持ち上げられると弱いタイプらしい。


「それにしてもセラナ。本当におめでとうございます。わたくしも負けていられませんわ!」


「ありがとう! きっとシンシアだってすぐに卒業できるわよ!」


「が、頑張りますわ!」


 セラナに次ぐ成績であるシンシアであるが、彼女の卒業はもう少しかかりそうだ。

 才能自体はそこまで差があるわけではないのだが、セラナの場合、タクトが贔屓して色々経験を積ませているので、成長の仕方が違うのだ。

 ズルいような気もするが、タクトと親しくなったセラナの運の勝利である。

 シンシアには地道に頑張って頂こう。


「ねえ、セラナちゃん。学校を卒業して大人への第一歩を踏み出したんだから、お酒飲んでみない?」


 クララメラは赤ワインが入った自分のグラスを掲げてみせる。

 それに対してセラナは興味深げな視線を送った。


「ワインって美味しいんですか!?」


「美味しいわよー。ほら、一口どうぞ」


「わーい」


 セラナは大喜びでグラスを受け取ろうとする。

 だが、駄目だ。

 タクトは横からそれをひったくる。


「タクトくん、何するの!」


「セラナさんこそ何を考えているんですか。空島での醜態を忘れたんですか?」


「あ」


 言われて初めて思い出したらしく、セラナは真顔になり、そしてションボリとうつむいた。


「にゃにゃ? 空島で何があったのにゃ? 気になるにゃー」


「いや、そんな大したことじゃないよ……」


 ハチミツ酒を飲んだセラナが酔っ払い、タクトが入浴しているところに乱入してきたというだけのことである。

 タクトは大変恥ずかしい思いをしたので、あまり思い出したくないし、二度とくり返してはならない。

 というか、普通は逆の立場で起こるべきイベントであろう。

 女性が裸を見られて悲鳴を上げるのが世界の法則ではないのか。

 何故にタクトが「セラナさんのえっち!」などと叫ばねばならないのか。

 世界は不条理に満ちている。


        △


 食堂でささやかなパーティーを終え、一同は帰路についた。

 エミリーはいつものように箒に跨がり空を飛んでいく。

 シンシアには迎えの馬車がやってきた。

 そして――


「タクト。セラナちゃんを部屋まで送って行きなさいな」


 クララメラにそう促され、タクトは夜空の下をセラナと二人っきりで歩く。

 もっとも、言われずともそうするつもりでいた。

 いくらセラナが強くなっても、やはり夜の街を女子一人で歩かせるのは真っ当ではない。

 いや、もう少ししっかりした相手なら一人で行かせたかもしれないが――なにせセラナである。どうしても心配になってしまうのだ。


「タクトくん、見て見て。今日は晴れてるから天の川がハッキリ見えるわよ」


 案の定、セラナは空ばかり見ていて、周りに注意を払っていない。

 襲われたりしたらひとたまりもないだろう。

 セラナよりも強い者など、この世にいくらでもいるのだ。

 住み慣れた街だからと油断していると、いつか大変な目に合うかも知れない。


「セラナさん、ちゃんと前を見て歩きましょうよ」


「大丈夫よー、子供じゃないんだから――」


 言ってるそばからセラナは小石につまずき、ビターンと地面に顔面を打った。


「……だ、大丈夫ですか?」


「いたいよぅ……」


 起き上がったセラナは鼻をさすり、涙目になる。

 やれやれ、だ。

 この人はもしかしたら、一生こんな感じかもしれないな、とタクトは思ってしまう。

 本当に危なっかしくて、目が離せない。


「膝もすりむいてますね。回復してあげますから、そこの公園で少し休みましょう」


「うぅ……ごめんねタクトくん」


「いつものことです。気にしてませんよ」


「それはそれで困りものだわ……もっと頼りがいのあるお姉さんを目指したいのに!」


 それは無駄だから絶対にやめたほうがいい。

 しかし頑張るセラナは素敵だから、このままにしておくのもありかもしれない。


「ほら、セラナさん。靴下を脱いでください」


 公園のベンチに並んで座り、ニーソックスを脱がせる。

 顕わになった膝は血が滲んでいた。

 タクトはそこに手を触れ、そして魔力を流し込む。


「温かーい……タクトくんの回復魔術って、優しい感じがするわ」


「そうですか? 多分、誰がやっても同じだと思いますよ?」


「そうかなぁ? タクトくんのは特別だと思うわよ」


 きっとセラナの気のせいだ。

 あるいは、そう思いたいだけ。

 しかし、言われて悪い気はしない。


「はい、完治です。転ばないように気をつけてくださいよ。無理だと思いますけど」


「ありがとう……けど、そんなしょっちゅう転んでるわけじゃないわよ!?」


「でも、半年に一回くらいは転んでるんじゃないですか?」


「そ、それは……普通のペースだと思うわ!」


「普通の人はそんなに転がり回ったりしませんから」


「むぅ……タクトくん、相変わらず毒舌ね!」


 セラナはぷんすか怒りながらニーソックスを履き直した。

 彼女の子供っぽさも相変わらずである。


「ところでセラナさん。学生寮にはいつまでいるんですか?」


「えっと、一週間はいていいんだって。その間に荷物をまとめて、一度、実家に帰るわ。それで、改めてこっちにきて部屋を探すつもりなんだけど……」


 と、そこでセラナは言葉を切った。

 何だろうとタクトがその横顔を見ていると、セラナは拳をぎゅっと握りしめ、意を決したようにもう一度、口を開く。


「あのね、実家に帰るとき。タクトくんも一緒に来てくれない? ララスギアの街で一番お世話になった人だって、お父さんとお母さんに紹介したいから……あ、それ以上の意味はないからね……!」


 一気に言葉を放ったセラナは、タクトと目を合わせようとせず、手足をモジモジさせる。

 そんなセラナを見ていると、タクトは何やら自分までモジモジしたくなってきた。


「……三日くらいだったら、店を閉めても問題ありませんから……いいですよ」


「本当!? ありがとうタクトくん!」


「セラナさんが一人で街の外に出るなんて心配ですからね。どこにだって着いていきますよ」


「そ、そういう理由!? 私、この街に来るときは一人で来たんだけど!」


「それは凄いですね。よく迷子にならずに辿り着きました。偉い偉い」


「迷子は……ちょっとなったけど」


「……セラナさん。今後、ダンジョン探索とかに出かけるときは俺に言ってくださいね。絶対に着いていきますから」


「ダンジョンにも着いてきてくれるの? やったー」


 セラナは両腕を上げて喜びを顕わにした。

 が、すぐに思い直したらしく、眉間にシワをよせ、首を傾げる。


「タクトくんと一緒なのは心強いし嬉しいけど……この全く信用されていない状況を喜んでいいのかしら……」


「信用できるセラナさんなんてらしくないですから。今のままでいいですよ」


「タクトくぅん!」


 セラナは目に涙を浮かべ、タクトの服を掴んでグイグイと引っ張る。

 何か文句でもあるのだろうか。

 信用を勝ち取りたいなら、まず半べそをやめればいいのに。


「はいはい。大丈夫ですよ。セラナさんがちゃんとした大人になるまで、俺が面倒見てあげますから」


 タクトはセラナの頭を撫でてあやす。

 月明かりに照らされた銀色の髪がとても美しかった。


「ふえーん。ありがとうタクトくん」


 もっとも、彼女がちゃんとした大人になる日が来るとは、到底思えない。

 ――すると、俺は一生セラナさんの面倒をみることになるのかな?

 まあ、それもいいか、とタクトは思えてきた。


「さあ、セラナさん。そろそろ行きましょう。明日から引っ越しの準備でしょう? 俺も手伝いますよ」


「本当!? けど、引っ越しくらいは自分でやってみせるわ! 大人の女性になるんだから!」


「そうですか」


 引っ越しの準備のため、夜空に向かって拳を突き上げ決意を固めるセラナ。

 それを見たタクトは苦笑を堪えることが出来なかった。

 ああ、この人は本当に可愛いな、と心の底から思えた。


「では、せめて、部屋までエスコートさせてください。なにせ店長の言いつけですからね。守らないと大変なことになります」


 タクトはベンチから立ち上がり、セラナへと手を伸ばした。

 しかしセラナはその手を握らず、ぽつりと漏らす。


「クララメラ様の言いつけだからなの?」


 ああ、うん。なるほど。

 確かに今のは駄目な台詞だった。

 ならば正直に答えよう。


「……いいえ。俺がそうしたいからですよ」


「そっか、そうなんだ! じゃあエスコートさせてあげる!」


 そしてセラナはタクトの手を握った。

 月明かりの下、二人は誰もいない街を歩いて行く。

 学生寮に着くまで、手を繋いだままだった。

外伝はもう一本あります。それが魔導古書店の最後のエピソードになります。

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