07 商談成立
「500万イエンで買わせて頂きます」
「おい待て、ふざけるな!」
リビングに戻り本の査定額を告げると、ギャングたちは目を血走らせた。
タクトがじろりと睨むと怯んだが、それでも500万は承伏できないらしく、もう一度凄んでくる。
「こ、こっちだって面子がある! 2000万の担保として手に入れたものが、どうして500万で手放せる!? 足元見るのも大概にしやがれ!」
「そうですか。では仕方がありません。この話はなかったことに。どうぞ、これからも頑張ってこの本を所有し続けてください」
するとギャングの頭目らしき男が「うっ」と言葉をつまらせる。
なにせ持っているだけで金がかかる代物だ。
本当なら廃棄してでも手放したいというのが本音だろう。
それを500万で買い取ってやろうというのだから、むしろ感謝して欲しい。
「あなた方はまだ自分たちの立場が分かっていないようですね。いいですか、この本は意志すら持っていた。つまり第二種指定グリモワールです。魔術師協会の許可なく所持することはタンノイ条約で禁じられており、協会にバレたら最悪、殺されますよ。魔術師協会の恐ろしさはあなた方もご存じでしょう? あの人たちは国家相手でも遠慮しませんからね。まして街のゴロツキ集団となれば……」
「誰がゴロツキだ!」
「失礼。ですが魔術師協会から見たら何であろうと同じです。さて、いかがでしょうか? もしこの本を売っていただけるのなら、俺がどこかのダンジョンで入手したと魔術師協会に申請しておきましょう。あなたがたの名前は一切出しません。更に封印措置の手数料も考えれば、むしろこちらが代金を頂きたいくらいなのですよ。売っていただけないのなら、あなた方が不法にグリモワールを所持していると、協会に報告するしかありません。俺も魔術師の一員ですからね。そういう義務があるのです」
その言葉はトドメになった。
ギャングたちの顔から血の気が消えていく。
500万イエンにて交渉成立だ。
「ありがとうございます。では500万、数えて下さい。皆さんのような商売なら、小切手より現金のほうがいいかと思って用意してきました」
タクトはローブの内側から、札束を五つ出して、テーブルの上に置く。
代わりにグリモワールを受け取って、その場をあとにした。
実に素晴らしい取引だった。
まだ著者が分からないし、中身も未知の文字で書かれているため解読不能だが、どうやら文字の形そのものが魔術回路となって、何らかの効果を発揮しているらしい。
なんにせよ、強力なグリモワールなのは確かである。
古書というよりは骨董品のような鑑定の仕方だが――再度ちゃんとした封印を施し、魔導書として使えるようにすれば、3000万イエンでも売れるだろう。
だがしかし。すぐに売れてしまっては寂しいから、しばらくは5000万イエンで並べておく。
タクトは店にこの本が飾られている光景を思い浮かべ、帰り道、一人で微笑んだ。
ああ、心が躍る。
お祝いに、寄り道をしてドーナツを買っていこう。
せっかくだから、店長の分も。
いつも寝てばかりの女神様であるが、ドーナツの匂いがあれば、きっと起きてくるはず。




