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68 聖典ゲットだぜ

 タクトとセラナが崖の斜面を滑り降りていると、二体のゴーレムが睨んできた。

 なにせ、あの小さな石にすら反応するのだ。

 人間が来たなら、感知して当然である。

 そしてゴーレムは頭部を発光させ、赤い光線を連射してきた。


 レーザー的なものかと思いきや、粒子ビームに属しているらしい。

 崖に当たると、ドッカンドッカン爆発が巻き起こる。


「うひゃあああっ!」


「セラナさん。うるさいですよ。もうアミュレットに魔力送ってますから。ギガントドラゴンに踏まれても大丈夫ですから」


「大丈夫だとしても音と光が怖いぃぃぃ!」


 鼓膜や網膜が潰れるレベルになると防御結界がカットしてくれるが、それ以下は素通りだ。

 そうしないと無音で真っ暗闇の空間になってしまう。今よりも怖いだろう。

 我慢してもらうしかない。


「ほらほらセラナさん。底に辿り着きましたよ。ゴーレムが向かってきました。俺が左のをやるので、セラナさんは右の奴をお願いします」


「わ、分かった!」


 セラナは剣を抜きはなち、てぃやっ、と掛け声を出して走っていく。

 タクトはゴーレムを十分に引きつけてから、拘束魔術を発動。

 地面から光の鎖が伸び、鉄の巨体を縛り上げた。

 ゴーレムは鎖を引き千切ろうと力を込めるが、微塵も動けない。

 この拘束魔術を破りたいなら、空島を消し飛ばすくらいの威力が必要だ。

 いくら何でもそんな力はないだろう。


「えっと、セラナさんは……やってるやってる」


 ちらりと相方を見ると、彼女はゴーレムがくり出す拳の猛攻を回避しながら、相手の隙を探っていた。

 無敵の防御結界があるのだから、真正面からそのまま斬りかかればいいのに――と一瞬思ってから、タクトは自分が間違っていると気が付く。

 セラナは今、修行中なのだ。

 なにせ彼女の夢は、ダンジョンを探索する冒険者になること。

 様々な魔物と戦わねばならない。

 そして、それはタクトの力を借りず、自分の力で行なうのだ。

 ならば、タクトの魔力を当てにしないで、やれるところまでやってみるのがセラナ・ライトランスという少女だろう。

 そういう向上心があるから、タクトはセラナを気に入っているのだ。


 今、セラナはゴーレムの正拳を髪の毛一本分の差で回避し、その懐に潜り込んだ。

 間を置かずに剣を振り上げる。

 銀閃が走り、ゴーレムの丸太のような右腕を切断した。

 だが、ゴーレムに痛覚はない。

 間髪容れずに左腕が振り下ろされる。

 視界の外からの奇襲であったが、セラナは猫科動物の如き超反応で飛び退き距離を取る。

 改めて剣を構え直し、睨み合った。


「うん。あれなら勝つな。やっぱりセラナさんの剣技は凄い。まあ、それはそれとして。こっちもゴーレムを料理するか」


 料理といっても無論、塩をふりかけたり焼いたりすることではない。

 どんな素材で、どんな構造になっているのか調べるのだ。


「さて。セラナさんが斬った腕の断面は空洞だったけど、胴体は?」


 タクトはゴーレムの前に体を浮かせ、コンコンと叩いてみる。

 跳ね返ってきた音からして、やはり空洞のようだ。

 せっかくだから確かめてみようと思い、指先に魔力を集中させて貫手をかました。

 当然、楽々と貫通した。

 が、それはタクトの魔力が卓越しているからで、実際はかなりの強度である。

 二十一世紀の地球では、宇宙開発用やら軍事用やらに様々な合金が開発されていたが、それらすら上回っているかもしれない。

 エルフの手に負えないのも頷ける。

 そして、そんなゴーレムの腕を斬り落としたセラナに拍手だ。

 無論、剣自体が凄まじいというのもある。

 しかし、どんな名刀でも、使い手が素人なら竹すら斬れない。

 実際、タクトだって剣だけでゴーレムと戦えと言われたら、絶対にお断りする。


「ふむふむ。胴体も空洞……つまり全部空っぽ。機械がつまったロボットとかではないらしい。魔術的に制御されているのか。術式はどんなだろう……まあ、調べるにしても、とにかく無力化しないと始まらないな」


 手刀でゴーレムの頭を切断する。

 兜のような頭部は、ガランゴロンと音を上げ、岩の地面を転がった。

 すると奥で光っていた赤い瞳が消え失せ、そして胴体からも力が抜ける。

 タクトの魔力で作った鎖がなければ、倒れていたところだ。


「ははぁ、本体は頭か。セラナさーん、頭を斬り落せば勝てますよー」


 アドバイスしてみたが、しかしそれは無用だった。

 すでにセラナは高く飛び上がり、ゴーレムの頭上を取っている。

 そして振り下ろされる雷光の如き斬撃。

 真っ向からの一刀両断。

 身長四メートルを超える鉄のゴーレムが、真っ二つになった。


「やったぁ! 勝ったぁっ!」


 ガラガラと崩れ落ちるゴーレムの前で、セラナは剣を天に突き上げ、嬉しそうに小躍りを始めた。

 正直、驚きだ。

 さっきも言ったとおり、勝敗は五分五分だと思っていた。

 なのに、割と余裕で勝利している。

 しかも、一度もアミュレットの防御結界を作動させていない。

 つまりは実力。

 魔術による肉体強化と、自前の剣技を高次元で融合させた彼女特有の動きが、タクトの予測を凌駕したのだ。


「セラナさん。魔法剣士って感じですね」


「魔法剣士!? なにそれ格好いい!」


 セラナは嬉しそうに、ぴょーんぴょーんと跳ねながら近づいてくる。

 タクトが可愛いなぁと思っていると、頭上から歓声が聞こえてきた。


「うぉぉぉ、お前ら、本当にゴーレムを倒したのかぁ!」


 見上げると、エルフたちが崖の縁からこちらを見ていた。

 昨夜、タクトたちを馬鹿にしていたエルフが、嬉しそうな顔で腕を振っている。

 そして、ソルーガとソニャーナの姿もあった。


「ワシが見込んだだけのことはある。あっぱれじゃ!」


「オラたちが負けてやったかいがあるなぁ」


 エルフの愉快な兄妹は、まるで自分の手柄のように語っている。

 その頭を後ろから、ロッツが拳でぐりぐりとしていた。

 それを見て他のエルフたちが笑っている。


 どうやら、タクトとセラナの勝利は祝福されているらしい。


        △


「わはは。ワシの手にかかればこんなものじゃ」


 降りてきたソルーガは、倒れたゴーレムの上に仁王立ちし、勝利を誇った。


「兄者よ。別に兄者が勝ったのではないだろうに」


「何を言う妹よ。タクトならゴーレムを倒せるとワシが判断した。そしてタクトは見事ゴーレムを倒した。つまり、ワシの勝利ということじゃ!」


「おお、なるほど。凄いぞ兄者!」


 兄妹は頭が温かい会話をして盛り上がっている。

 そちらの方は好きにさせておき、タクトとセラナはロッツの前に立つ。


「ロッツさん。約束どおりゴーレムは倒しました。それで、聖典はやはりあの建物のなかですか?」


「ああ、そうだ。しかしそれにしても……二人とも何という強さだ。私は人間を見くびっていたつもりはないが……その若さでこれほどとは。信じられん。我々が住んでいるデルニア王国の人間はここまで圧倒的ではなかった。トゥサラガ王国は違うのか……?」


「いえ。どこも似たようなものだと思いますよ。俺たちは参考にしないでください」


 トゥサラガ王国の魔術師だって大抵の者は、ソルーガやソニャーナにすら勝てないのだ。

 一方、タクトは異世界から来たチート転生者だし、セラナも反則的切れ味の剣を持っている。

 何の基準にもならない。


「そうか。だが、本当にありがとう。エルフを代表して例を言う。さあ、聖典を取りに行こう」


 ロッツを先頭にして、あの四角い建物に向かう。

 するとソルーガとソニャーナの兄妹もあとを追いかけてきた。

 しかし、残りのエルフはまだ崖の上にいる。

 やはり、まだまだ人間と一緒に行動する気になれないのだろうか。

 いや、むしろ単純に、崖から飛び降りるのが億劫なのかもしれない。


「これが扉だが……押しても引いても動かないな」


 ロッツの言うとおり、四角い石造りの建物には大きな扉があった。

 だが、見るからに重そうだ。人力でどうにかなる代物ではない。


「魔術で破壊してしまってもいいですか?」


「仕方あるまい。しかし、扉を破る程度のことはエルフにも出来る。君らの手を煩わせるまでもない」


「そういうことなら隊長。ワシと妹でやろう」


「うむ。兄者とオラなら朝飯前じゃ」


 ソルーガとソニャーナは小躍りするように前に出た。

 そしてパンと手を叩いてから、術印を結ぶ。

 二人から同じ波長の魔力が放たれ、そして扉の前に集まっていく。

 次の瞬間、眩い光と共に、一匹の蛇が顕現した。

 長さは十メートル以上。

 その体はなんと炎で作られていた。


「ゆけいファイヤー・スネーク!」

「兄者、そのネーミングはなんとかしてくれ!」


 炎の蛇は石の扉へと体当たりする。

 まずは右下の端。

 そこを高温でもって溶かし始めた。

 扉は見る見るうちにドロドロになり流れ出した。

 それから蛇は上へ上へと登り、石を溶かし斬っていく。

 工場などで使われる、プラズマジェットの切断機のようである。


「よし、綺麗に斬れたのじゃ。妹よ、扉を押すぞ」

「心得た」


 兄妹は最後に、空気の塊を扉に叩き付ける。

 石の扉は奥へと倒れ、轟音と煙を上げた。


「ぬはは。ワシらにかかればこんなものじゃ」

「文字どおり朝飯前だったな、兄者。おかげでお腹が空いたぞ」


 ソルーガとソニャーナは二人揃って胸を張り、ふんぞり返る。

 やたらと偉そうだが、いつものことだし、実際に手柄をたてたのだ。

 好きにさせておこう。


「中がよく見えませんね」


「あ、じゃあ私がライティング使うわ」


 タクトが中を覗き込むと、セラナがすかさず魔力で明かりを作ってくれた。


「ありがとうございます」


「ふふ、私だってこのくらい出来るんだから!」


「知っています。むしろ、すでに空を飛べるし、雷系の攻撃呪文も威力ありますし、セラナさん魔術師っぽいですよ、ちゃんと」


「ほんと!? タクトくんに褒められると自信出るわ!」


 セラナはウキウキと踊り始める。

 それを放置し、タクトとロッツは中に入っていく。


「何千年閉ざされていたのか知りませんが……空気がひんやりとしていますね」


「うむ……ご先祖様の残した空気がずっと残っていたのだ。なにかこう、忸怩たる思いになる」


 ロッツは目を閉じ、何かを感じとっているらしい。

 しかしタクトにとっては、別に先祖でも何でもなかった。単純に古代遺跡として興味深い。それだけである。


 そんなエルフの遺跡は、内部の壁も灰色の岩で出来ていた。

 そして、奥が一段高い台座になっており、そこには箱が一つ安置されている。

 RPGに出てきそうな、如何にもな宝箱だ。


「聖典が入っていそうですね」


「ああ。他にそれらしきものもないし、あれだろう」


 そう答えるロッツの声は、少し震えていた。

 なにせ念願の聖典がもうじき手に入るのだ。無理もない。


「ロッツさんがあけてくださいよ。エルフの聖典なのですから。俺があけても仕方がありません」


「そうか……では、お言葉に甘えよう」


 ロッツは台座に登り、宝箱に手をかけた。

 タクトたちはそれを後ろから固唾を飲んで見守る。

 宝箱には鍵もなく、すんなりと開いた。

 ダンジョン系のゲームならここで罠が作動したりもするが、そういう仕掛けもない。

 その宝箱の奥には、更に金属の箱が入っていた。


 辞書くらいの大きさの本が収まりそうな、銀色の箱だ。

 装飾は一切なく、完全に均一な作り。


「伝承が確かなら、この中に聖典の原書が入っている」


「なるほど。ですが、どうやってあけるのです? 蓋みたいなものは見当たりませんが……」


「そんなものはない。原書は神聖であるがゆえ、封印されているんだ。見ることは許されない。内容は口伝で残っているから、見る必要もない」


「はあ……それじゃあ、どうして苦労して取りに来たんです?」


 タクトとセラナは並んで首をかしげた。

 見ることが出来ないものを手に入れても、意味がないように思える。

 たんに手元に置いておきたいというのも分からなくはないが、しかし、これだけ厳重に保管されていたのだ。

 空島に安置されているということ。それこそが聖典に神秘性を与えていたはず。

 なぜ危険を冒してまで回収に来たのだろうか。


「それは単純な話だ。タクト、セラナ。君たちは、出来ることならこの鉄の箱を壊して、中の聖典を見たいと思っているだろう?」


「それは――」


「当然よね」


 タクトとセラナは顔を見合わせて呟き合う。

 するとロッツは、それこそが理由だと語り始める。


「人間はたびたび、この空島を探索している。さっきの二体のゴーレムが破壊され、聖典を奪われるのは時間の問題だった。そして、人間は確実に中を見るだろう。エルフとして、それだけは看過できない。それを防ぐには、こうして手に入れるしかなかったのだ。これは私たちの村だけで決めたのではなく、デルニア王国に住むエルフ全員の総意なのだ」


 ロッツは鉄の箱を両手で、大切そうにかかえる。

 あけないことによって価値を生み出す箱。

 しかし種族が違えば、その価値は理解できない。

 日本人でなければ三種の神器のありがたみが分からないように、タクトも聖典の価値が分からない。

 価値の分からない奴の手に渡してたまるかというのは道理であり、エルフとしては他に選択の余地がなかったのだ。


「それでロッツさん。聖典が手に入った以上、エルフは空島から撤退してくれるんですね?」


「それはもちろん。じきに生存領域に入る。そのときに飛び降りよう」


「分かりました。それなら問題ありません。俺もセラナさんも、魔術師協会にあなた方のことは報告しません。俺たちが辿り着いた時点で、空島には誰もいなかった――と言っておきましょう」


「助かる。我々は聖典を村まで持ち帰らなければならないからな。魔術師協会と戦っている暇はない」


 そしてタクトたちは建物を出て、崖上に戻った。

 すると意外なことに、エルフたち全員が歓迎してくれた。

 いや、それどころか。

 彼らはタクトたちのために朝食を作って待ってくれていた。

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