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06 地下倉庫

 魔力は大別すると、二種類ある。


 大地から噴き出したり、宝石や魔剣などの物質が放つ、マナ。

 意志を持つ存在が精神力によって生み出す、マギカ。


 当然、魔術師が生み出すのはマギカだ。

 魔術は物を燃やしたり、凍らせたり、宙に浮かべたりと様々あるが、基本的に自分のマギカを使用する。

 場合によっては、マジックアイテムが作り出すマナを組み合わせ、マギカ不足を補うこともあった。

 ただし、マナの使用には注意が必要だ。


 なぜなら自分が生み出せる以上の魔力は、自分の身の丈を超えている。

 強力なマジックアイテムを手に入れた未熟な魔術師が、マナを暴走させて死亡したという話はよくあること。

 一人で死ぬならまだいいが、周りを巻き込むことも珍しくない。


 では、グリモワールが生み出す魔力はマナであるか、マギカであるか。

 物質であるのだから、マナと考えるのが自然だ。

 実際、ほとんどのグリモワールが放っているのはマナである。


 しかし、だ。

 何事にも例外が存在する。

 優れた魔術師によって書かれ、悠久の時を過ごし、人から人へと渡った結果――本そのものが〝意志〟を宿す。


 そうなれば、そのグリモワールは既に生き物。

 マジックアイテムとしての使用と保存は困難を極める。いや、不可能と断言してもいい。


 マナとマギカ。最大の違いは、安定性だ。

 物質が作り出すマナは、機械的に安定している。磁石がその日の気分によって磁力を変えたりしないのと同じく、マジックアイテムは壊れるまで一定のマナを放つ。


 対してマギカは不安定だ。魔術師の体調、精神状態によって変動し、やる気がなければゼロにもなる。


 つまり意志を持ったグリモワールは、気分次第で所有者を攻撃してくる。

 本棚に飾っておくだけで病を撒き散らし、手に取れば灼熱の炎を放ち、ページを捲るたび雷鳴とどろかす――。


 グリモワールは必然的に貴重で高額ゆえに、それを巡った争いも絶えない。

 人間の欲に晒されて、グリモワールは際限なく邪悪になっていく。


 そして、地下倉庫の奥にあるグリモワールは、間違いなく、意志を持っている。

 心臓の鼓動のごとく揺れ動く魔力。

 しかも激しい怒りが、ありありと感じ取れた。


 扉を開いた瞬間に噴き出してきた悪意ある魔力。並の魔術師なら浴びただけで胃液を全てぶちまける。常人なら無論のこと即死。

 タクトだからこそ平然と踏み込めるのだ。


 室内に光源はなく、完全な暗闇だった。

 タクトが手の平から光の玉を出すと、灰色の岩が剥き出しになった内装が照らし出される。

 広さは八畳間ほど。

 壁の棚には、資産隠しのためと思われる金の延べ棒や、宝石箱。

 価値のありそうな絵画や壺もある。

 そして部屋の中心に、一冊の本があった。


 床の中心に、ではない。

 空間のど真ん中に、本が浮かんでいるのだ。


 勝手に開かぬよう革のベルトで固定され、さらに魔術的結界が幾重にも張り巡らされている。

 にもかかわらず、グリモワールは一匹の魔物と化していた。


「ほう――扉の呪符を剥いでくれたのか、小娘。ありがたいぞ。礼として、まずはお前から殺してやる。そして私をこんなところに閉じ込めた愚かさを、人間どもに思い知らせてくれるぞ――」


 グリモワールは好き勝手にのたまった。

 実際、大した魔力マギカである。

 このまま放置しておけば、千人単位で死者が出るかもしれない。


 しかし、人間に思い知らせるというには程遠い。

 第一、タクトの性別を間違っている時点で、底が知れるというもの。


「魔導書ごときに小娘呼ばわりされる覚えはない。俺は男だ。端的に言って腹が立つ。悪いがお前の意識は封印して、アジールの商品になってもらうぞ」


 手っ取り早く決着を付けるため、タクトは右手の甲に、勇者の紋章を浮かび上がらせた。

 こちらの世界の条理から外れた規格外の魔力マギカを発生させ、グリモワールの意識をページとページの狭間に押し込んでいく。


 それは技というより、力ずくの殴りつけ。

 単純な出力の巨大さによってグリモワールの意識を握り潰す。


「こ、この力は……貴様……!」


 貴様――? はて、何を言いたいのだろうか?

 続きが気になるが、残念ながらもう遅い。

 グリモワールの意識は形を失い、分解され紙の中に溶け、ただの本に還っていく。

 辺りに撒き散らされていた凶暴なマギカは、本という監獄の中に圧縮された。

 もう、口を聞くことは出来ない。


「予想以上に強力な本だったな。これは高く売れるぞ」


 力を失いバサリと落ちてきた本をキャッチし、タクトはニヤつきながら、その表紙を撫で上げた。

 タイトルも著者名も書かれていないし、装飾もないに等しい。

 それでも、古い皮の肌触りが、なんとも心地よかった。

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