表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/97

42 ギガントドラゴン

 十時間で解放すると言ったにもかかわらず、次の日の朝になっても二人は部屋から出てこなかった。

 心配になったタクトが様子を見に行くと、クララメラとマオは抱き合ってスヤスヤ眠っていた。

 しかも部屋にはボードゲームやカードゲームの類いが散乱しており、どうやら普通に仲良く遊んでいたらしい。

 安心したが拍子抜けでもある。


「二人が寝ている間に、マオの服でも買ってくるか。ちょうど今日は、行商旅団が来る日だし」


 タクトは乱れた布団を直してやってから街に出た。


 いつも人で賑わっている商店街だが、今日はほとんど誰もいない。

 それどころか、開いている店そのものが少なかった。


 なぜなら今日は、行商旅団が来る日なのだ。

 ゆえにララスギアの住民も、それどころか周辺の町や村の人々もそちらに集まっている。


 行商旅団は言葉の通り、行商人の集団だ。


 生存領域から生存領域へ。国から国へ。

 渾沌領域を走破して、分断された人類をかろうじて繋げる、流浪の者たち。


 約一年ほどかけて五つの生存領域を周り、それぞれの特産品を買い集め、次の生存領域で売りさばき、また次の場所へと向かっていく。


 扱う品は、絵画や彫刻などの芸術品。

 書籍全般。武器、防具。

 植物。鉱物資源。

 魔術を使った冷凍庫もあるので、食物も運搬する。

 サーカスの一団、凄腕の占い師なども旅に同行しているから、行商旅団が滞在しているときは、催し物も開かれる。


 行商旅団が滞在するのは、いつもララスギアの外縁部と決まっている。

 なぜなら、彼らの乗り物が巨大すぎて、街中まで入ることが不可能だから。


 それが近づいてくる光景は、なかなかに迫力があった。

 タクトも久しぶりに見たいので、外縁部にある丘へと急ぐ。

 時刻は朝の八時。

 丘の上には既に千人以上の人だかりが出来ていて、物好きな連中が行商旅団の来訪を見物しようと必死になっていた。

 なかには酒盛りをしている集団もいる。完全にお祭り騒ぎだ。


 だが、タクトも気持ちは分かる。

 実際、十四歳の体でなければ酒盛りに混ざりたいくらいだ。


 タクトがビール瓶を恨めしそうに見ていると――どこからか歓声が上がった。


「地鳴りだ! 行商旅団が近いぞ!」


 その言葉どおり、かすかに地面が揺れている。

 そしてドスン、ドスンと規則正しく、草原の向こうから音が近づいてきた。

 巨大な生物の足音――。


 時間の経過とともに足音は大きくなって、ついに地平線から顔が現われた。


「うおぉ――ッ! 相変わらずでっけぇぇぇ!」


 浮かび上がる二つの瞳。

 距離が遠すぎて色が減衰しているが、緑のウロコはここからでもハッキリ見える。

 続けて牙、顎、首と上ってきて――ようやく全容が視界に収まった。


 馬鹿げた大きさの、四足歩行ドラゴンだ。

 東宝特撮の映画から抜け出してきたような相貌であるが、無論、この世界には東宝も円谷英二も存在しない。

 これは映画ではなく現実。

 頭から尻尾までの全長が二百メートルに迫る巨大怪獣。ギガントドラゴン。

 それが、自分の体と同じくらい大きな『箱』を引きずって、ララスギアに向かって歩いてくる。


 その箱こそが、行商旅団の居住区にして倉庫。

 外壁に施した防御結界によって渾沌領域に耐え、ギガントドラゴンに牽引させて世界を旅する集団。


 その外見も、生き様も、箱の中身も、何もかもが『男の子のロマン』を刺激してくる。

 タクトはがらにもなく、ギガントドラゴンの巨体を見上げながらワクワクしてしまった。


 やがてギガントドラゴンは丘の前に辿り着き「どっこいしょ」と言いたげな仕草で座り込む。

 これから約十日ほど、ギガントドラゴンはララスギアで休み、樹の特異点ネムス・テラから吹き出すマナを食べて英気を養うのだ。

 そしてお腹一杯になったら、また次の樹の特異点ネムス・テラ付近に行き、食事をする。


 よって、行商旅団の滞在期間も約十日間。


 タクトたちが見ている前で、箱から沢山の人が降りてきた。

 背に荷物を背負った者。

 リアカーを引く者。

 馬車に乗った者。

 そのほとんど全てが商人。


 さあ。露店祭りの始まりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ