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40 猫耳魔王のマオにゃん

 いや、工程は完璧だったはずだ。

 失敗など何もない。

 きっと目が覚めたばかりで記憶が完璧ではないのだろう。


 と、タクトは信じている。


「まあ、とりあえず、立ちなよ。いつまでも木箱の中にいてもしょうがない」


「はいにゃ……」


 タクトが腕を引っ張ると、猫耳ホムンクルスは目をゴシゴシ擦りながら起き上がる。

 そして大きな瞳でタクトを見上げ、耳をピコピコ動かした。


「あなたが私のマスターかにゃ?」


「そうだけど……えーっと、とりあえずどうしようか……」


 タクトは魔王の記憶を引き出すためにホムンクルスを買ったのだ。

 しかし、この様子では、思い出してくれるまで時間がかかるだろう。

 つまり、しばらくは普通の猫耳ホムンクルスとして扱ってやらねばならない。


「うにゃ! まずはマスターの名前が知りたいにゃ! 何とお呼びしたらいいかにゃ!?」


「そうか、まだ名乗ってなかったな。俺の名前は皇城……じゃなかった。タクト・スメラギ・ラグナセカ。マスターとか堅苦しいのはやめて、タクトって呼んでほしい」


「分かったにゃ! マスターはタクトにゃ! それで私の名前は何かにゃあ?」


 猫耳ホムンクルスは期待に満ちた瞳でタクトを見上げてきた。

 だが申し訳ないことに、何も考えていない。


 ――魔王だから……マオでいいか。そんな悪くないと思うし。女の子だし。


「お前の名前はマオだ」


「分かったにゃ。マオは今からマオなのにゃ! ありがとうにゃマスター。にゃにゃ、タクト!」


 適当に付けた名前なのに、マオは大喜びで万歳し、ピョンピョン飛び跳ねる。

 こんなに名前を喜んでくれるなら、もっと真剣に考えればよかったと後悔するが、今更取り消すことも出来ない。

 まあ、本人が喜んでいるから、これでいいのだ。


「ところでタクト。ここはどこなのかにゃ? 本が沢山あるから図書館かにゃ」


「惜しい。古書店だよ。魔導書を専門に扱ってる」


「はにゃー、つまり古本屋さんかにゃ。マオが繁盛させてみせるにゃ! マオにお任せにゃ!」


 マオは気合いに満ちた瞳を浮かべ、ぐっと拳を握りしめた。

 しかしタクトはマオにそんなことは期待していないし、可能だとも思っていない。

 とりあえず魔王の記憶を思い出すまでは、その辺でにゃんにゃんしていてもらおう。


「しかしマオ。お前の中にはちゃんと図書館とか古本屋の知識があるんだな。全部、一から教えてやらなきゃ駄目だと思ってた」


 最初期の量産型ホムンクルスは、簡単な家事手伝いですら丁寧に教えてやらないとダメだと聞いていたのに。

 思ったよりも会話がスムーズだ。

 CL01は評判よりも高性能ということなのだろうか。


「にゃ? 言われてみれば……マオの中にマオじゃない記憶があるにゃ! なんにゃこれっ!?」


 マオはギョッとした顔になり、あたふたし始める。

 もしや魔王の記憶が蘇ったのか――と、タクトが期待していると、マオは急に涙をポロポロ流して泣き始めた。


「ど、どうしたんだ!?」


「にゃーん、にゃーん! マオが、マオが皆に酷いことしてるにゃぁ! ひ、人を殺してるにゃああああ! マオは悪い奴だったのにゃああああっ!」


 マオの涙は滝のように床に落ちていく。

 それからマオはタクトにしがみつき、胸に顔をうずめて「うにゃぁぁうにゃぁぁ!」と大声を上げる。


 急に泣き出してしまった猫耳ホムンクルスにタクトも仰天し、どうしてよいか分からずあたふたする。


「お、落ち着いてくれマオ。その記憶はお前のものじゃない。お前の人工魂と混ぜた、魔王の記憶だ」


 タクトが頭を撫でてやりながらそう言うと、マオはもぞもぞと顔を上げ、脅えた目を向けてくる。


「ほ、本当にゃ……? マオ、悪いことしてないにゃ?」


「ああ、大丈夫。マオは何もしてないから、泣かないでよ」


 タクトが更に猫耳を撫でてやると、マオはくすぐったそうに身をよじった。


「ふにゃ……言われてみれば、マオは今動き出したばかりにゃ。あんなことをする時間も力もなかったにゃ!」


 ようやく現状を把握してくれたらしく、マオは元気を取り戻した。

 よかった、よかった。


「それにしても。その魔王って奴はとても酷いにゃ! マオがやっつけてやるにゃ!」


 などとマオは叫び、出口に向かって走り出す。

 薄いスリップだけの半裸幼女を外に出すわけにもいかないので、タクトはあわててその腕を掴んだ。


「大丈夫だ。魔王は俺が倒したから」


「そうなのにゃ!? 流石はタクトにゃ! 凄いにゃー」


 マオは再びタクトに抱きついてきた。

 猫耳がピコピコ、尻尾もピコピコ動いている。

 親愛の動きなのかもしれない。


 実に可愛らしい。うむ。

 可愛らしいのは結構である。

 しかし、一向に本題が進まないのはいかがなものか。


「にゃーん♪」


 何とか頑張って、この猫耳幼女から地球や次元回廊の話を引き出さねば。

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