31 第一試合
ララスギア魔術学園の敷地内には専用のコロシアムがあった。
普段は授業や、放課後の自主学習などで使われているが、やはりハイライトは年二回の校内トーナメントだろう。
約百人ほどいる生徒の中から希望者を募り、最強の学生を決める大会だ。
今年は十六人出るらしい。
もちろん、その中にはセラナ・ライトランスが入っている。
当然、タクトは彼女を応援するため朝早くから並び、一番前の座席をゲットした。
「それにしても、すごい人気だな……」
タクトは客席を見回した。
およそ一万人を収容可能な観客席だが、ほとんど埋まっている。
この街だけでなく、近隣の村々からの客も多い。
なにせ、魔術師同士の戦いは派手で見応えがあるのだ。
それが学生レベルであっても、いい娯楽になる。
しかも無料となればなおさら。
学園側もしっかりしていて、出場しない学生にビールやポップコーン、焼き鳥などの売り子をやらせている。
タクトは十四歳なので、ビールを飲むわけにはいかない。
注文するのはサイダーだ。
そもそも前世でも十六歳で死んでしまったから、酒の味など知らないのだ。とくに飲みたいとも思わない。
タクトがサイダーと焼き鳥をちびちび飲み食いしていると――
やがて一回戦の第一試合が始まった。
なんと、いきなりセラナの登場だ。
対戦相手は、見るからに強そうな巨漢。腕がセラナの胴体より太い。
「いよぉライトランス。お前と戦うのは初めてだな。学園で一番強いと言われているみたいだが……それが間違いだと証明してやるぜ!」
「ふーん。ご託はいいから早くかかってきたら?」
リングの上で挑発し合う選手二人に、観客たちも声援を送る。
どうやら賭け事を行なっている者もいるようで、鬼気迫る怒声が飛んでいた。
「それじゃ、遠慮なく行かせてもらうぜ!」
巨漢はセラナへ向かって拳を振り下ろす。
と同時に、肉体強化の魔術を発動。
ただでさえ優れた筋力に魔力が上乗せされ、爆撃じみた勢いでセラナを強襲した。
「危ない!」
客席から悲鳴が上がる。
なにせセラナは華奢な少女だ。
普通の感覚で見れば勝ち目はなく、凄惨な殺戮ショーにしか思えない。
しかし、タクトは安心しきって観戦していた。
「大口を叩く割には大したことないわ!」
セラナは右腕を突き出し、それ一本で巨漢の拳を止めてしまう。
崖から岩が落ちてきたような轟音が響いたが、そんな衝撃を喰らっても、セラナは微塵も揺るがず、不敵に笑うばかり。
「な、何だぁ!?」
巨漢は自分の攻撃を止められた事実が信じられないらしく、愕然とした顔でセラナを見つめる。
客席からも、どよめきと歓声が上がった。
無残に吹き飛ぶかに見えた少女が思わぬ優位に立っているのだ。
沸かないはずがない。
だが、タクトにとっては――というより魔術師にとっては当然のこと。
見た目の筋肉など問題ではない。重要なのは魔力の多寡。そして、その扱い方の上手さが勝敗を決する。
あの巨漢は魔術師として、明らかにセラナに劣っていた。
「じゃ、そういうことで」
セラナは左手に持つ杖に魔力を流し込む。
それによって雷撃魔術が発動。
晴天の空から突如として落雷。
巨漢に襲いかかった。
「んぎゃああああああ!」
黒焦げになるほどの威力はなかったが、それでも彼の体からプスプスと煙が上がり、そのまま気を失ってバタリと倒れてしまう。
「勝者、セラナ・ライトランス」
審判がそう宣言するとともに、リングの周りにいた教師たちが回復魔術を巨漢に飛ばす。
このトーナメント。出場者の誰もが本気で優勝を目指している。
だからこそ、死者を出さないよう学園側はつねに気を配っているのだ。
「セラナさーん」
客席からタクトが手を振ると、セラナもこちらに気が付き、手を振り替えしてくれた。
「タクトくん! 見ててね、私、優勝するから!」
優勝、するだろう。
なにせ格が違う。
森の二重結界を越えた時点で他の学生と一線を画していたはずだ。
そして、あの本を読んだことで、更に成長してしまっている。
手作りのアミュレットもあった。
苦戦すらせずに終わらせてしまうだろう――そうタクトは思っていたのだが。
次の第二試合で現われた少女もまた、天才と呼ぶに相応しい存在だった。




