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18 天才。しかしアホ

 テーゲル山は標高約1000ケメル、つまり2000メートルほどの火山だ。

 ここ千年ほどは噴火していないが、大昔の噴火により地中深くの宝石が飛び散ったという。

 おかげで、穴を掘らずともそこら辺に宝石が転がっている、夢のような場所になっていた。

 しかも、直径十センチや二十センチという非常識な大きさのダイヤがゴロゴロと。

 宝石業者が見たらヨダレが止まらなくなるような光景だ。


 かつて、そこに目を付けた十人の魔術師がいた。

 彼らは宝石を一つずつ拾い集めるのをわずらわしく思い、宝石が自分から集まってくるようにしようと企む。


 大規模な儀式魔術を決行し、宝石に人工精霊を憑依させ、自律行動を取らせることに成功したのだ。

 その結果、宝石は暴走した。

 自分たちの身を守るため、採集しに来る人間を攻撃するようになってしまったのだ。


 今でも十人の魔術師は、諸悪の根源として語り継がれている。


「ところでタクトくん。宝石が襲いかかってくるって、どういうふうに襲ってくるの? 体当たりでもされるのかしら」


「え……セラナさん、知らないで来たんですか? 無謀ですね」


「だって、しょせんは宝石でしょ」


「しょせんって……」


 魔術師にあるまじき台詞といえよう。

 なにせ宝石は、マナ密度が最も高い物質だ。

 ほんの少し加工してやれば、半永久的にマナを放ち続ける。

 便利であると同時に、扱いには細心の注意が必要で、一つ間違えれば、この山のような有様になってしまう。


「あまり舐めてかからない方がいいですよ。マナを使って巨大化し、人型になっていますから」


「え、大きくなってるの? お得じゃない!」


「でも、倒すと小さくなります」


「ちぇ、残念ね」


「そうそう世の中、甘くありませんよ。まあ、とりあえず歩いて探しましょう。そのうちエンカウントすると思います」


 タクトたちが降り立った場所は、山の中腹。

 ブナの森の中だ。

 平地のほうは近頃かなり温かくなってきたが、ここは標高が高いのでまだまだ涼しい。

 しかも木が日光を遮っているから、肌寒いくらいである。

 雪がちらほら残っているほどだ。


 また、テーゲル山には岩肌ばかりの場所や、洞窟などもある。

 そういった場所のほうが宝石も数多く〝棲息〟しているが、取り囲まれると厄介だ。

 無論、タクト一人なら全く問題ない。

 しかし、今日はセラナの用事で来たのだから、セラナが自分で戦うべきであり、タクトはあくまでサポートに徹するつもりだ。

 よって、セラナでも勝てそうな状況を作るのが道理だろう。


「それにしてもタクトくんって、本当に凄いのね」


「何がです?」


「だって、そのホウキ、飛行用のじゃなくて普通のホウキでしょ。なのに人を乗せて飛べるなんて」


 確かに、タクトが肩に担いでいるホウキは、古道具屋で買った何の変哲もないホウキだ。

 だが、魔術道具屋に行けば、あらかじめ魔術回路を組み込まれた、飛行用のホウキというものが売られている。

 約二十万イエンと高額だが、魔術回路のおかげで魔力を流すだけで飛ぶことが出来る。

 非常にお手軽なのだ。


 しかし多くを魔術回路に依存しているため、そのぶん自由度が少ない。

 人馬一体の爽快感が足りないとタクトは考えている。


 そもそも本来、空を飛ぶのにホウキが必須というわけでもないのだ。

 なぜか多くの魔術師が、ホウキに跨がった方が精神統一しやすいとか、そのほうが格好いいとかいう理由でホウキを使っている。

 別に空飛ぶ絨毯でも、空飛ぶ物干しざおでも何でもいいし、それこそ身一つで飛んだっていい。

 むしろタクトは普段、空を飛ぶ用事があれば、何も使わずに飛んでいる。

 今日は後ろにセラナを乗せるため、ホウキをわざわざ買ったのだ。


「私も飛べるようになりたいなぁ」


「セラナさんなら、ちょっとしたコツさえ掴めばすぐだと思いますけど」


「ほんと? どうやるの?」


「そうですね。俺は自分の体に糸がついていて、それで引っ張り上げられるイメージで飛んでいますが」


「意外と簡単そう! やってみるわ!」


 セラナは目をつむり、精神統一。

 マギカを練り上げ、見習いの杖に流す。

 杖は魔術の実行を補佐しつつ、仮免のレベルを超えた出力が出ないよう制御する。

 もっとも、空を飛ぶだけの魔術では、出力制限は働かない。

 音速突破を目指すとなれば、話はまた変わってくるが。


「あ、凄い! 本当に浮いてる! タクトくん、私の体、浮いてるわ!」


 セラナは直立の姿勢のまま、ゆっくりと地面から離れていく。

 興奮しているらしく、手をパタパタと羽ばたくように振り回す。


「本当に凄いですよ、セラナさん。まさか一発で成功するとは思いませんでした。けど……それ以上高度を上げると……」


「上げると?」


「パンツ、見えますよ」


「へ!? やっ、タクトくん見ちゃ駄目ッ!」


 そこで集中力を切らして落ちてくればよかったのだが。

 なぜかセラナは逆に魔力を強めてしまい、逆バンジージャンプのように、空へ向かって勢いよく飛んでいく。


「きゃああああああ!」


 学生にしては凄い魔力だ。

 やはり天才。

 しかしアホ。

 見習いの杖のリミッターが働いたおかげで雲の上までは行かないものの、それでも五十メートルは飛んでいる。

 受け止めてやらないと、即死は確定。


「とっとっと――」


 タクトは落下地点に移動し、両手を広げてキャッチ。

 セラナはスカートを両手で押さえた姿勢のまま、タクトの腕の中に収まった。


「お帰りなさい、セラナさん。空中旅行はどうでした?」


「よ、よく分かんなかったけど……受け止めてくれて、ありがとう……でもタクトくん、パンツ見てないわよね!?」


 気にするところはそこか。


「……見てませんよ」


「本当に本当ッ?」


「はい。しかし次からは……スパッツとか履いたほうがいいかもしれませんね」


「うぐっ、やっぱり見えたのね……! 恥ずかしい……嫁に行けないよぉ……!」


 セラナは手で顔を覆い、半べそではなく、ガチ泣きを始めてしまった。

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