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13 自己紹介

「おまたせ。さあ、クララメラさんの華麗な接客をお見せするわよ」


 降りてきたクララメラは、髪と同じ水色のカットソーに、白いロングスカートという出で立ちだ。

 整った容姿と相まって、まるで普通の美人のよう。

 毎日寝てばかりのぐーたら女にはとても見えなかった。

 見た目がいいのは、やはり得である。


「クララメラさん……? 女神様と同じ名前?」


 少女はポカンとした顔でクララメラを見つめる。


「その女神様だけど? なんなら証拠に、私のマギカ見せましょうか」


 そう言ってクララメラは体を淡く発光させ――そして地震を発生させた。

 それは魔()と呼べるほど技巧を凝らしたものではなく、単純な魔力の放出だ。

 力任せに、店周辺の地面を揺らしている。

 震度は三程度。

 地震の規模としては極小だが、魔力の放出だけで地面が揺れるというのが人智を超えている。


「はい、おしまい。ね、このマギカの量は人間じゃないでしょ?」


「え? 女神様? 本物……? え、えええ!? どうしてここにッ?」


 椅子からずり落ち、顎が外れそうなほど口を大きく開ける少女。

 なんて凄まじいリアクションだろうか。

 実は魔術師の卵ではなく、芸人の卵なのかもしれない。


「どうしてって。店長だからなんだけど……知らないで来たの?」


 クララメラは少女の反応に苦笑している。


「だってだって! ハワード先生はそんなこと一言も……!」


 金魚みたいに口をパクパクさせる少女を尻目に、タクトとクララメラは「ああ、なるほど」と頷き合う。

 ハワードとは、この店の常連の一人だ。


「そういえば、ハワードさんって魔術学園の先生をしていると言っていましたね」


「人をからかうのが好きな人だから、純粋な生徒を驚かそうと思って、何も知らせずに向かわせたのね。この子のリアクションが面白いからいいけど」


「確かに面白いですね」


 そして――


 少女が話せる状態まで回復するのに、五分ほど待たねばならなかった。

 カウンターの中に椅子を三つ並べ、煎れ直したハーブティーでお茶会。

 しかし少女はやたらとクララメラを恐れ、タクトの後ろに隠れるように椅子を移動させてしまった。


 そのことにクララメラは本気で泣きそうな顔をする。


「どうして私から離れるの……何が気に入らないの……?」


「そ、そんな、だって女神様がこんな近くにいらっしゃるなんて畏れ多くて……ああ、申し訳ありません、同じ空気を吸ってしまって申し訳ありません!」


 少女は土下座するんじゃないかという勢いでペコペコ頭を下げる。


 一体、クララメラのどこに畏れ多い要素があるのだろうか――とタクトは本気で思うのだが、しかしこれが普通の反応である。

 タクトは十四年間も一緒に過ごして感覚がマヒしているし、常連の人たちも最初は気を使っていたが、徐々に馴れ馴れしくなっていく。


 だが、一般的に女神といえば。

 この世界の秩序を司り、人類を守って下さる大いなる存在なのだ。

 それは事実であるし、タクトもクララメラを尊敬している。


 されど同時に、一日中寝てばかりで、たまに起きてきたかと思えば家の中はおろか店の中までネグリジェでウロウロする駄目女でもあった。


「もっと気安く接してくれてもいいのよ。なんならおっぱい揉む?」


「へっ? おっぱ……いえ、その、遠慮しておきます!」


 前触れなく女神がおっぱいと言い始めて、少女はかなり戸惑っている。

 まあ彼女も、何度かこの店に来れば、クララメラの駄目っぷりを思い知り、自然と舐めるようになるだろう。


「ところでところで。あなた、お名前は何と言うのかしら?」


「こ、これは申し遅れました。私はララスギア魔術学園のセラナ・ライトランスです! 以後お見知りおきを!」


「まあ、これはご丁寧に。私は女神とこの店の店長を兼業するクララメラよ」


「は、はい! ああ、どうしよう……女神様に自己紹介されちゃった……帰ったら皆に自慢しよう、えへへ」


 少女は、見ているこっちまで釣られて笑いそうなほどの笑みを浮かべ、両頬を手で包み、体をくねらせる。

 クララメラに自己紹介されただけでそこまで喜ぶ。タクトには理解しがたい感覚だ。


 それから少女はタクトに視線を移す。

 クララメラも一緒になって見つめてきた。

 次はお前の番だぞということか。


「俺はタクト・スメラギ・ラグナセカ。この魔導古書店アジールの住み込み店員です。基本的に店の業務は俺がやっているので、気になることは俺に言ってください。可能な限り対処します」


「タクトくんね。よろしく。で、早速なんだけど……」


 セラナは身を乗り出し、気合いの入った表情を作り、そして語る。

 果たして何を言われるのだろうとタクトは身構えたが、飛び出した言葉は至極当然のもの。


「来たはいいけどどんな本があるのかすら分からないから、ちょっと見て回っていいかしら?」


 そりゃそうだ、とタクトは納得し「お好きに、何時間でもどうぞ」と答える。

 なにせ来客の少ない古書店だ。

 思う存分、貸し切りにすればいい。

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