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秘める

久しぶりの投稿です。

読んでくださっている方、ありがとうございます…。

もともとこの「ノウ」の話は長いものではないので、そろそろ終わります。

連続で投稿していきますので、よろしくお願いします。

気を持ち直したノウは村に帰る途中、レイメイへのプレゼントを探す途中だったことを思い出す。


「あっ、やっべぇ…」


腹痛キノコは結局見つからなかったので、たまたま見つけた薄紫の小さな花をたくさん摘んでいく。


村に帰り着いたノウは、すぐさま熱中症から復活していたフゥエンと本日の主役であるレイメイに会いに行った。

森に入ったことを会話の流れで話してしまい散々怒られたが、思いのほかレイメイにはとても喜ばれたので結果オーライだったとしよう。

花を手に持ちにっこりと笑う彼女はとても可愛かった。


フゥエンも花を摘んできたが毒があったらしい、渡した次の日に二人仲良く熱を出して寝込んでいたのは言うまでもない。

思い出すだけで笑いがこみ上げてくる出来事だったが、ノウは心の中でもうひとつ、思い出すたびに頭を悩ませる出来事があった。


(あの事は、皆には知らせない方がいいだろうな…)


ノウは森で自分の身に起こったことを誰にも話さなかった。森で遭遇した奇妙なモノ、自分のよくわからないチカラ。

今でさえ二年間なにも変わらなくて不審がられているのだ。これ以上のことがあってはきっと心が耐えられないだろう。

そんなことをひとり胸に秘め、親友である二人にでさえノウは話す勇気が持てなかった。




──────────────




森での出来事があってから数日過ぎた頃。


ノウは部屋で一人になるとほぼ毎晩、あの時のように手首から先を剣に変えるという実験をしていた。もちろん、誰にも見られていないか厳重に確認しながら。


ブンッ

ヒュッ


(重さを感じない。金属じゃないな、何なんだろうコレ…)


その実験は剣だけにとどまらず薪割りでよく使う斧へ、スプーンやフォークなどの小さいものでも行った。とにかくノウ本人が想像できる、または触れたことのあるものは全て作り出すことができるようだ。

そしてそれは片腕だけにはとどまらずもう一方の腕も変化させるようになり、両手に剣と斧という二刀流が出来上がる。


ここまでノウが実験に熱中したのは、なんとなく二刀流ってかっこいいと思ったから…ということもあるが、少しでも自分のことを把握するためであった。


(世界のあちこちには魔法使いっていう人たちがいるらしいし…、コレももしかしたら魔法なのか?)


魔法の使える人々の人脈を辿っていけば、もしかすると自分が居たであろう場所がわかるかもしれない。そう、自分が何者なのか分かるかもしれないのだ。


そんなノウの期待は少しずつ、秘められたまま大きく膨らんでいった。




──────────────




「えっ、商人の中に魔法使いがいるのか!?」

「どうしたノウ、お前魔法使いに興味あるのか?」


ノウがその知らせを聞いたのは、フゥエンと二人で庭の草むしりをしている時だった。

なにやら今日の朝早く、村に到着したという旅商人の中に魔法使いがいるらしいのだ。


ちなみに村には魔法を使える者はひとりもいない。

もともと、魔法を使えるということ自体がかなり稀なのだから。


「興味があるというか…うん、まあそんなもんかな」

「なんなら今から見に行くか?俺らにも使えるもんなら今やってるこの草むしりも、スパッと終わらせられるかもしれないぜ?」

「えっマジで?行く行く!」


ノウにとっては草むしりのことよりも自分の出所がわかるかもしれないということで行くつもりだったが、フゥエンは草むしりをいかにして手を抜けるかで頭が一杯だった。

理由は違えど目的が同じ二人は草むしりを放置し、村を訪れる者が必ずやってくるであろう役場へと向かうことにした。


がしかし、到着した二人が見たのはいつも通りの役場の風景。思わず拍子抜けしてしまった二人は焦った様子であたりを見回す。


「役場にいる、んだよね」

「そうだと思ったんだけどなぁ…?」


ある程度の場所は見回ったのだがそれらしい人々は見当たらない。どうしたものかと唸っていた二人だが受付の部屋にやってきたとき、ふと声をかけられた。


「あら、ノウにフゥエンじゃないの。どうしたのさ?」


受付のおばさんだ。フゥエンは今朝早くに来たという旅商人のことを尋ねた。


「もう次の町を目指してるんじゃないかねぇ、ついさっき村を出ていったよ」


まさかのすれ違いという結果に、ノウとフゥエンはショックを受ける。


しかし。


「魔法使いって言ってた人だけは、森の植物を採取するだの何だの言ってたから、まだ森のどこかにいるかもしれないわねぇ」


もう会えないかと思われた矢先思わぬ情報を得られた二人は、顔を見合わせ歓喜した。


「おばちゃんありがとう!」

「よしノウ、お前は東の森捜索な!」

「了解!もし見つかったら、またここで会おう!」


ノウは村の東の方の森へ、フゥエンは西の森へと手分けをして探すことにした。




──────────────



ノウは東の森の中を走っていた。


(フゥエンには悪いけど、もし俺が先に魔法使いに会ったら、あのチカラがなんなのか聞いてみよう。)


この二年間で森の中の植生地くらいは覚えている。

ノウは自分の知っている薬草などが生えている場所をしらみつぶしに訪れていった。


そして。


「あっ…」


とうとう見つけた。


話でよく聞く魔法使いといった、紺のローブに先のとんがった帽子。見た感じ二十代になったばかりくらいの女性だ。しゃがんで薬草を摘んでいたのだが、ノウが声を出したことによって気づいたらしい。顔を上げてこちらに向かって歩きていた。


「あら?あなたはハメリ村の子?ごめんなさいね、もうすぐ欲しかった分は摘み終わるから少し待っててもらえるかしら、すぐに出て行くから」

「あ、いえ。別にこの場所に用があるわけじゃないです」


用が終われば出て行くと言った魔法使いにノウは慌てて言葉を発する。


「えっと…じゃあ私に用かしら?」

「そうです!…あの、あなたは魔法使いさんですよね?」

「ええ、名乗るほどのものでもないけど。何か聞きたいことがあるの?」


気さくに話しかけてくれる魔法使いは、ノウの何かを話したいという様子に気がついたようだ。


「はい…でも、今からことは誰にも言わないで欲しいんです」

「ええ、いいわよ」


その返事を聞き、ノウは深く深呼吸をする。



よし…


そして、右手をへと変化させた。


「俺のコレは…魔法か、わかりますか?」


恐る恐る質問するノウだったが、それとは反対に魔法使いはひどく動揺した。


「…っ!何それまってどういうこと!?」

「え」

「え、じゃない!魔法を使ってる形跡が全くないじゃない…、それはもう…」


興奮気味に早口で話していた魔法使いは、その最後の言葉を飲み込んだ。


魔法ではない、ではなんなのか?

このチカラは、いったいなんだんだ?


困りきったノウの顔を見て少しだけ落ち着きを取り戻した魔法使いは、静かに、こう言った。


「…魔法とは全く違うものよ、あなたのソレは」




人間のチカラではない。

おそらく、魔物に近いなにか。




そう言われたノウは、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

つまり、人ではないものなのか。


じゃあ、俺は…何?


「私から言えることは、一言しかないけれど…」


再び話し始めた魔法使いの言葉で、ノウはびくりと体を動かし次の言葉を待った。


「そのチカラは、誰にも知らせない方がいいと思う」


つまり、今まで通りの生活でいたいのであればこの姿を見せるなと。そういう意味なのだろうか。


「そう…ですか」

「ごめんなさいね…」


その言葉を最後に、魔法使いはノウの前から姿を消した。




──────────────




しばらくして、ノウはフゥエンと合流した。


魔法使いに会ったことは話さなかった。もちろん、会話の内容も。


「まぁしょうがないか、帰って草むしりの続きしようぜ」


その言葉に少し涙がでそうになるが、フゥエンはノウの先に歩いているため気づかなかったようだ。

急いで手の甲で目をこする。軽く息を吐いて、気持ちを入れ替えた。


「あーぁ、無駄足だったね」


ノウは何事もなかったように、おどけて笑う。

そう、何もなかったんだ。




ノウの気持ちを表しているかのように、空には雲が出てき始めていた。





次は朝の6時に投稿されます。

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