帰る場所
太陽の光が暖かく降り注ぐ、とある村の昼のこと。
「影踏んだっ!」
「あっ!?待てよフゥエン今のナシ!」
「待ったは無しだぞノウ!ほら、早くしないとレイメイも逃げるぞ~。」
「くっそう…待てっレイメイ!」
楽しそうに、村の民家の間にある空き地で遊ぶ村の子供二人と保護された少年一人。
三人が急に仲良くなったのを見て、大人たちは不思議に思ったが特に気にするでもなく、普段の仕事をこなしていた。
村長は村長で、毎日フゥエンとレイメイが遊びに誘いに来ていることを微笑ましく見ていた。
ところがこの日、ノウは良くない報告を受けてしまうのだった。
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「村長、ただいま戻りましたよ!」
町から村への伝達係りである男が、役場で忙しそうにしていた村長の所へとやって来た。
「おお、帰ったか。町からの報告は何かあるかの?」
「はい。今、町ではネズミが大量発生しているようです。大変そうでしたよ。」
町からこの村の距離はそこそこあるので、ネズミの被害は此方までは及ばないはずだ。
「それは、それは。で、他にはあるかい?」
「あ、そういえば!あの少年のことで知らせが出てないか、町で護衛団に聞いたんですがね…。捜索届け…脱牢した囚人の報告…何もありませんでした。」
その男の報告を聞き、村長は笑みを止めた。
「そうか…ご苦労だったな。」
村長は男が帰っていくのを見届けて、フゥ…とため息をついた。
この数日で、村の周りの土地に調べに行った者たちの報告は特に何もなく。
これで、少年の情報は何も得られなかったことになるのだ。
「ということは…」
今、この村で“ノウ”と呼ばれるあの少年は、帰るところが無いということだ。
「さて、とりあえずノウに伝えておくかのう…。」
ところがその村長の後ろから、必死に書類と戦っている女性職員から声をかけられる。
「…ちょっと村長、書類終わってないじゃないですか。何処に行くんですか。」
「村人とのふれあいに行くんじゃよ。」
「昨日もそう言って空き地で昼寝してたじゃないですか!」
「最近耳が遠くてなぁ…、よく聞こえんよ。」
「あっコラ、村長……ハァ…。」
村長は仕事を抜け出して、村人とのふれあいという名目で村のなかをぶらぶらと歩きつつも、外で二人と遊んでいたノウを探すのだった。
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「おぅい、ノウや~。」
少し遠くから、村長がノウを呼ぶ声が聞こえた。
「あれっ、村長さんだ。」
ノウは走り回っていたが声を聞いて足を止め、声の方向へ振り返る。
「お前呼ばれたよな?行ってみろよ。」
「うん。」
フゥエンに促され、ノウは村長のもとへと走っていった。
そして、知らされた報告に大きなショックを受けた。
「そんな…。それじゃあ、俺は……何処に帰れば…。」
「しばらくは、役場に泊めることはできるのだが…。」
どこから来たのか分からず。
本当の名前も不明なまま。
ノウには帰る場所が無くなってしまった。
ノウの瞳が絶望に染まりかけた、その時だった。
「俺んちに住めよ!」
いつの間にか二人のそばに来ていたフゥエンが、ノウにそう言ったのだ。
「え、でも…。」
「俺の家、少し前までは兄ちゃんが二人住んでたけど、村を出て部屋が開いてんだ。」
「フゥエンの両親に悪いって…」
「逆に歓迎するよ!母さん、人数が減って寂しがってたし。父さんにはお前のこと話してるけど、結構好感持ってるからさ!」
とんとん拍子で進んでいく話のなか、村長はフゥエンに確認がてらに訪ねる。
「本当に、良いのかね?」
「…フゥエン、いいの?」
ノウも村長に続き質問する。
「ああ!俺の家に来いよ!」
こうしてノウはこの日、帰る場所を無くして、新しく帰る場所が出来たのだった。