空回り
時間が大きく開いてすみません!
入試もなんとか終わったので、投稿できました…(泣)
・±・ゞ
次の日。
昨日の天気とは一転して、今日はとても気持ちのいい晴れ。春の暖かい風がフワリと流れていく。
朝から所々の家の女性たちが、洗濯物をここぞとばかりに干していた。
小鳥たちは元気にチュンチュンと鳴きながら、朝の清々しい空を飛んでいく。
そして、村のほとんどの人々が起き出した頃。
「…うぁ…アナフィラキシー…んっ!?あ、あれ?ここは…。」
村の役場で、例の記憶喪失の少年が目を覚ました。
眠たげに目をごしごしと擦りながら、ベッドのすぐ横にあった窓から外を眺める。
「ここは……俺…たしか雨のなか森で立ってたら、男の人に“風邪引くぞ”って連れてこられて…。」
額に手を当てて、呻き声をあげる。考え事をしていると、頭の中がごちゃごちゃとしてくるようだ。
「えっと……色々なこと、忘れてて…。“記憶喪失だ”って言われたんだっけ…?」
ボーッとする頭をフル回転させ、どうにか昨日のことは思い出せた。
起きたばかりの目に、容赦なく太陽の光が降り注ぐ。
眩しい。
そう思いながらも、太陽の位置を確かめる。あと二時間もしないうちに、正午になるであろう位置だった。
「…朝寝しちゃったよ、どうしよう。」
泊めてもらっている身分でありながらのんびりと起きてしまったことに戸惑い、少年はベッドの上でおろおろとした。
しかしそのままそこにいるわけにもいかないので、ひとまずベッドから出る。
「…とりあえず着替えよう。」
着替えは役場にあったものを借りることにしている。少し大きい気もするけれど、文句を言えた立場ではない。ベッドから少し離れたテーブルの上に、服の入った籠が置いてあった。
早速袖を通してみると、思った通り上の服がブカブカである。少年はその服をお腹の辺りで何段か折り曲げて、横に置いてあった皮製のベルトでキュッと絞めた。
ズボンはちょうどいい大きさだった。
今の自分はおそらく、村の人々と何ら変わらない格好なのだろう。ふと、自分が昨日まで着ていた服のことを思い浮かべる。こんな森のなかで生活している人の格好ではなかった。
「どこから来たんだろう、俺…。」
不安な気持ちで窓越しの空を見る…が、窓の外で誰かが覗いていたのだろう。
少年の目は一瞬、窓の下の方へと姿を隠した頭が見えた。
「…」
少し気になり、覗いていた人物を探そうとして窓へと近づく。
しかしその時部屋のドアが開いて、そこから昨日村長と呼ばれていた人が入ってきたのだ。
なんとタイミングの悪い…。
村長は着替えた少年を見て、シワの多い顔でニコリと笑う。
「おや、おはよう。遅くまで寝ていたから少し心配だったが、どうかね?体調は悪くないかい?」
「は、はい…!大丈夫です。すみません、朝寝してしまって…。」
わざわざ心配してもらい、申し訳ない気持ちで一杯になり心から謝る。さっきの人影の事は、頭のどこかへと押しやられていた。
「いやいや、疲れていたんだろう。そんなに気にせんでもいい。」
やさしいな、と少年は心のなかで思う。昨日もお世話になりっぱなしだった…そこで、少年は勇気を振り絞り、悩んでいたことを思いきって聞いてみることにした。
「あの…!」
「ん、何か?」
「お、俺にも何かできないでしょうか!その……ただ居るだけじゃ、悪い、ので…。」
なにか、手伝えることはないか。
それが今の少年に出来ることだった。
「する事…」
村長はうーむ、と考える仕草をする。
この村の仕事は充分に手が足りているとは言えない。しかし手の足りていない仕事と言えば、まだ年の若い少年にさせていいのか判断しにくいものばかりだった。
その結果、村長が出した答えは。
「君はまだ安静にしておいた方がよいと思うぞ?そのうち、記憶が戻って自分の家に帰れるかもしれぬからのう。」
遠回しな、断りの言葉だった。
「そう、ですよね。」
少年は、振り絞った勇気が少しだけ萎んだのを感じながらも、ぎこちなく笑って答える。
村長の老人は、そんな少年の様子に気付かないようだった。
「すまんな、ワシは仕事に戻らねばならん。ゆっくりと休むといい。」
「…はい。そう、します。」
そうして、村長は部屋から出ていった。
それから、そのまま時は過ぎて三日後のこと。
少年の何もない環境に、大きな変化が現れる。