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曇り、雨が降り始める

グロ注意です。


時は流れ、森の異変から三年が経った。


当時森の事件によりとてもピリピリしていた村の人々は、今では何事もなかったかのように森へ狩に出掛けたり遊びにいったりしている。生活も平和の一言につきた。


しかしたった一人、三年前と生活が変わった者がいた。


ノウである。


村に来てから二年間変わらなかった姿は、五年経った現在も変わらない。

病気というよりは異様、今までに聞いたこともない事例だった。五年も姿が変わらないなど、誰が聞いても不気味に思う話である。

村人たちが悪いわけではない、おそらく誰でもノウを奇異の目で見ることだろう。

当時と変わらず接してくれる人は極稀にいるが、既にほとんどの村人はノウのことを化物を見るような目で見ている。


そしてそんな本人も村の人々の目を気にしてフゥエンの家の居候をやめ、村の隅にあった小さな小屋を改良してそこに住むことにした。


「ふぅ、こんなもんかな…」


嵐でも来ようものなら吹き飛びそうな小屋を修理し終えたノウは、その小屋、改め家の正面に腰を下ろした。


空を見上げると澄んだ青い色が疲れを吹き飛ばしてくれるようだ。

ノウがぼーっとしていると、こちらに向かってくる二人の人の気配がした。

フゥエンとレイメイだ。


「おぉ!?よくもここまで修復できたなぁ」

「あ、フゥエンおつかれ」


発したその声は、ノウが出会ったときよりも何オクターブも低くなったもの。ノウとの身長差もまるで年の離れた兄弟といっても良いくらいだ。


「ねぇノウ、この野菜どこに置いておけば良い?」

「自分で中まで運ぶよ、ありがとうレイメイ」


幼さの抜け始めたレイメイは村で一番の美人と言われるほど美しくなった。やんちゃな性格は今も変わらないけれど。


二人ともノウと出会ってから五年が過ぎ去り、一人の大人としての仕事を行ってもおかしくない年頃だ。


「…あんまり、俺に構わない方が良いんじゃない?そのためにここに住むんだからさ」

「何言ってんだよ、らしくないな」

「そうそう、見た目がなんだ!私なんか見た目がこんなでも中身は変わらないわよ!」

「確かにレイメイは何も変わってないよね…」

「そうだよな…」

「なっ、どういうことだぁー!」


いつものように三人で笑い会える。

この二人なら、村の人たちのような目は向けてこない。


そんなことを考えていたからだろうか、ノウはとても寂しげな表情をしていたようだ。

二人の親友はそんな彼に優しく言う。


「 村の人たちのことは気にするな。お前はお前なんだからさ」

「私は、君の事を化物だなんて思ってないから!信じてるもの」


二人さえいてくれれば俺は孤独にはならない。

どうか、このままの生活が続きますように。


そんなことを願う日々。


悲劇は、突然に起こる。




─────────────




その日は朝から青空が見えない、淀んだ曇り空だった。


「嫌な天気だな…今日は狩は無理そうだ」


ふとした拍子に降り始めるのではないか、そんな気配を漂わせた分厚い雲は昼を過ぎても変わらないままだった。


ノウは水瓶の水が減っていることに気がつき、降り始める前に川でさっさと汲んできてしまおうと考えた。降りだしたまま数日雨が止まなかった場合、川の水が濁っていて飲み水に困ってしまう。


軽く昼食を終えて外に出たその瞬間、ノウは目を疑いたくなるような光景を目にしてしまった。



村の中心部辺りや所々から大きく煙が上がっている。

ただの火事ではない。


「なんだ…?嫌な気配があちこちからする…!」


ここ数年でさらに人より敏感になってしまった感覚で、ノウは悪意のある気持ちの悪い気配を感じ取っていた。

急いで中心部へと駆け出すが、途中で頬を掠り何かが後ろの地面に突き刺さる。


矢だ。


「なんだぁ?こんなとこにまで住人がいたのか」

「ただのガキだ、さっさと殺っちまおう」

「いや待てよ。こいつ割と容姿が良いし、とっ捕まえて売って金にしようぜ」


いかにも柄の悪い感じの盗賊らしき男が二人、林の中からノウの目の前に現れた。


「何者だ…!?」

「見てわかんねぇかお坊ちゃん、盗賊だよ」


やはり盗賊だったようだ。しかもなにやらノウを捕らえて売ろうなどと物騒な話をしている。


「大人しくしてればそこまで痛くはしないぜ、向こうが終わり次第出て行くからな」


向こう、と聞いてノウは村の中心部を見やる。フゥエンやレイメイは、村の人たちは無事だろうか。俺を殺そうとしたこいつらの仲間ということは、死人が出てしまうかもしれない。


そう思うと、躊躇いはなかった。


村のみんなが助かるのであれば、この力を使って助けに行こう。


ノウは瞬時に両腕を真っ黒な剣と斧へと変え、盗賊たちへと疾走する。

それに驚き、ノウに隙を与えた盗賊の一人に剣を振り下ろす。あっけなく殺られた仲間の様子を見て意識をようやくノウに向けた弓の男は、自分の視界が地面に落ちていくのを見たのを最後に物言わぬ生首へとなった。


ノウはあたりに飛び散った血と死体を気にも留めず、村の中心部へと足を向け急いだ。


どうかみんな、無事でいてくれ。




──────────────




ハメリ村には若者の数が多くはない。

つまり、なにかあったとしても普段から狩りをしている者以外は戦力にならないということである。


なにか、とはまさに今のような場合だろう。


「いいぃいたいょ…!おかぁさぁん…!!」

「おら、動くんじゃねぇぞこのガキが!」


意識不明の母親から離された子供が、泣きながら引きずられ連れて行かれようとしていた。

相手は大の大人、しかもある程度は鍛えられ筋肉もついている。日頃畑を耕す程度の力しかない子供には、敵うはずのない相手だ。


そう、想定外の者がいなければ。


「おとなしくしてれば痛い目に遭わずにす…グポッ」


ノウが左腕を軽く横に振った。

盗賊の男の首は簡単に転げた。

盗賊の首の断面からコップの水を倒したように血が溢れ出し、血だまりをつくった。


子供はその光景を目に気絶し、家の柵へともたれかかるようにして倒れる。ノウは周囲に危険がないことを確かめ、急ぎ足で中心部へと向かう。



ノウが通った後には、盗賊の生き残りは一人として存在しなかった。




──────────────




ノウは村の中心部へとたどり着いた。

村の憩いの場となっている空き地は戦場と化し、建物の中には戦えない者たちが押し込められているのが窓から見える。


倒れる村人。

倒れる盗賊。


どちらが多いとはっきりは言えないが、盗賊がそれほど多くいたのだと考えるととても恐ろしく感じる。明らかに村人が劣勢だ。


ふらりと地に膝をつき、立ち上がろうとする男の村人を今まさに斬り殺さんとしていた盗賊がいた。ノウは速やかに切り刻んで行く。


その様子を見ていた周囲の盗賊たちはノウが危険だと感じたらしい、八人ほどで一斉に襲いかかってくる。


それを見て助けに入ろうとした村人をノウは止める。


「俺は大丈夫だから、早く避難して!はやく!」


驚くほどに今までにないくらい体が動くし、死の危険があるというのに不思議と怖くない。

軽く体をずらすだけで攻撃を躱し、次々と盗賊を文字通り叩き斬っていく。


「くそがっ、よくもやってくれたな!!」

「出てくるな頭ぁ!こいつなんかやばッュ」


今ノウが倒した者も含めて盗賊の数も残り僅かになり、引っ込んでいた頭が出てきたようだ。

ノウは気づかなかったが、一人で盗賊団のほとんどを倒していた。


「あと十人か、もう少しだ」


もう少しで平穏が訪れる。

全部倒せば、きっといつもの日常だ。


ノウは小さく微笑んだ。

血だまりの中で笑うその姿は。

両手の真黒な血の滴るその武器は。

まるで悪魔のようで。



ひっ、と。

盗賊の誰かが恐怖のあまりに声を漏らす。


それはあっという間の出来事。

気がつけば、ノウ以外の十人の男は死んでいた。



ふぅ、と息を吐き。


ノウは助かった村人たちへと振り返った。





次で最後です。

お昼に投稿されます。

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